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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第84回 対話の要諦は「混ぜる」!!~「混ぜる対話の場」実践事例 行政・議会編 (2019/4/18 早大マニフェスト研究所)

関連ワード : 人材育成 公務員 地方議会 

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第84回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

「対話」で「混ざり」気付きを起こす

 新年度が始まった。役所に入庁すると、新人研修からスタートして、OJTによる仕事の経験、職場の人々との関わり等から、その役所の仕事の型を学び、多くの場合、ほぼ自動的に仕事が回せるようになる。

 一番小さい単位で言うと職場になるが、そこには、外の世界のカルチャーとは一部隔絶された独自の文化が生まれる。これは一種の「部族」のようなものである。部族には「掟」がある。部族の中で働く人にとってその掟は疑いのないもの、そして、疑いを持つことがタブーとされているものだ。部族の掟に逆らうものは仲間ではないという強い同調圧力も働く。私も新卒から12年間務めたメガバンクで、「○○銀行員かくあるべし」といった部族の掟を自然と叩きこまれた記憶がある。

 私が幹事を務める自治体職員向けの研究会、早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(第64回「地方創生時代に求められる自治体組織のあり方」)では、この部族の掟、その掟を信奉することを「ドミナント・ロジック」と呼んでいる。「ドミナント・ロジック」とは、思い込み、過去や前例への過度な囚われ、偏見等のことを指す。

 こうした「ドミナント・ロジック」は自治体組織に限らず、企業等多くの組織や個人にもあると思う。そうした「ドミナント・ロジック」に気付き、自己変容、そしてその先の組織変革を進めていくためには、他の部族と混じり合い、自分の部族の掟と、他の部族の掟を相対化し、掟をバージョンアップさせていく営み、進化が必要だ。

 人材マネジメント部会の幹事の同僚で、NPO法人日本ファシリテーション協会のフェローである加留部貴行さんは、「対話の場」、特に「ワールドカフェ」(第74回「ポジテイブ発想と当事者意識で実践へつなげる」)の場作りとして、「混ぜる」というキーワードをあげる。「混ぜる」とは、「話をしていそうで、話をしていない者同士で、対話する」ということだ。多様なメンバーによる対話を通して、身近な存在に気付き、共通の接点を発見し、自身の中にその多様性を落とし込む。それが「対話」の目指す効果の第一歩だ。

 今回のコラムでは、今年の1月から3月まで、筆者がファシリテーターとして関わった「混ぜる対話の場」の実践事例を行政編、議会編として7つ紹介する。

「混ぜる対話の場」実践事例 行政編

■岩手県一関市 新任課長・係長×若手職員
 筆者は、2017年度から、一関市の新任課長・係長研修を担当している(第70回「管理職になり切れない症候群を如何に克復するか」)。1月31日と2月1日に開催された2018年度の最終の第4回研修会で、新任課長・係長(1月31日新任課長、2月1日新任係長)とそれぞれ若手職員を「混ぜる対話の場」のプログラムを取り入れた。

 いきなり混ぜても警戒してなかなか本音で話せないので、まずはそれぞれが、「分かってほしい気持ち」「ぶっちゃけ思っていること」を話してもらってから混じり合う、ワールドカフェをアレンジした「わかって&ぶっちゃけ ダイアローグ」を行った。普段は口にできないお互いが抱える悩みや仕事に対する思いを共有、お互いの立場を感じ合う気付きの多い場になった。

一関市新任係長×若手職員

一関市新任係長×若手職員

■青森県五所川原市 若手職員×青年会議所(JC)メンバー
 2月5日、人材マネジメント部会に参加する五所川原市役所職員が主導して行われた「混ぜる対話の場」が、市役所若手職員と五所川原JCメンバーとのワールドカフェである。若手職員とJCメンバーは同世代、同じく地域のまちづくりを考えているのだが、残念ながら接点がほとんどない地域が多い。

 今回は「地域福祉計画」策定のタイミングであったため、「五所川原市の福祉のありたい姿を考えよう」というテーマで開催された。JCメンバーは財政面等役所の立ち位置が理解でき、職員は市民の悩み思いを直接確認する有意義な企画であった。佐々木孝昌市長にも参加いただき、終了後は懇親会も開催、今後の連携が期待される場となった。

五所川原市若手職員×JC

五所川原市若手職員×JC

■岩手県久慈市 「医療と介護の顔の見える連携会」
 3月6日、同じく人材マネジメント部会に参加する久慈市役所職員が企画して行われた「混ぜる対話の場」が、「医療と介護の顔の見える連携会」である。医療、介護の分野では、「多職種連携」というキーワードがよく言われているが、それぞれが本音で話し合う場が作れていないため、掛け声倒れで終わっている場合が多い。

 今回は、(1)病院(医師、看護師)、(2)訪問系事業者、(3)小規模多機能ホーム、(4)デイサービス、(5)介護施設、(6)ケアマネージャー、(7)地域包括支援センター(久慈市直営)、50人で専門職の垣根を超えて、「在宅移行支援」をテーマに、「わかって&ぶっちゃけ ダイアローグ」を行った。お互いの本音、立場を確認し合う、今後の連携、次につながる会議になった。

久慈市医療介護多職種連携

久慈市の医療・介護「多職種連携」

「混ぜる対話の場」実践事例 議会編

■宮城県登米市議会 議員×若手職員
 登米市議会では、これまで議会報告会を対面式で開催しており、参加者の主体性や創造性が発揮される前向きな場になっていないといった課題があった(第20回「市民との対話が生まれる新しい議会と市民との意見交換会のあり方」)。2月4日、議会報告会をワークショップ、ワールドカフェ形式で開催する為の体験研修会が開催された。市役所の若手職員に練習相手をお願いして。議員24人と若手職員24人の「混ぜる対話の場」をワールドカフェで行った。

 議員と部長、課長は関わりがあるが、若手職員は普段接点がほとんどない。若手職員はどちらかというと議員を避ける傾向すらある。そうした両者が、「10年後の登米市のありたい姿」をテーマに、お互いの意見を聴き合い、気付きと学び合う場になった。終了後に同じメンバーで懇親会も開かれこちらも盛り上がった。

登米市議会議員×若手職員

登米市議会議員×若手職員

■宮城県村田町議会 議員×高校生
 2月15日、村田町議会で行われたのが、議員と町内にある県立村田高校の3年生との「混ぜる対話の場」である、ワールドカフェだ。議員と高校生の対話の場は全国的に広がっている(第52回「議会×高校生の対話で地方創生を」)

 ワールドカフェの冒頭、高校生に議員に対するイメージを聞いたところ、ある生徒が「卒業式に来る人」と発言、場が笑いで包まれた。このように、高校生は「現代社会」や「政治経済」の授業で習ってはいるが、地方議員の仕事を現実感持って理解していないのが現状だ。混じり合って対話をすることで、理解が進み、双方に気付きの多い場となった。なお、今回の開催に先立ち、ワールドカフェの練習ラウンドも兼ねて、登米市議会同様、議員と若手職員の「混ぜる対話の場」を昨年12月に開催している。

村田町議会議員×高校生

村田町議会議員×高校生

■青森県三戸町議会、田子町議会、岩手県二戸市議会、議員協議会
 他自治体との議会間交流の効果はこのコラムでも取り上げてきた(第80回「他自治体との議会間交流で善政競争を!!」)。1月18日、県境を越えて接する、青森県三戸町議会、田子町議会、岩手県二戸市議会、議員協議会が開催された。

 今回は、3市町の若手職員にも入ってもらい、「混ぜる対話の場」をワールドカフェで行った。総勢50人で「これからの広域連携のあり方」をテーマに話し合った。沢山の方が参加するオフィシャルの場、従来の会議のスタイルでは、立派なことや、正解を言わなければならないと思い、いくら「忌憚のない意見を」と言われても本音は話せないし、話も深まらない。しかし、ワールドカフェは、4~6人の少人数で行うことから、本音を話し聴き合える環境ができる。

三戸町、田子町、二戸市議会議員

三戸町、田子町、二戸市議会議員

■いわて議会事務局研究会
 筆者は、2013年度から、岩手県市議会事務局が主催する、県内14市の議会事務局職員の学び合いの場、「いわて議会事務局研究会」のアドバイザーを務めている(週刊地方議会 第21回「動き出した議会事務局」)。2月1日に開催された第13回研究会では、「議会改革の悩みを共有しよう」をテーマに、各議会の事務局職員参加で「混ぜる対話の場」が行われた。「議会報告会の開催方法」「議会からの政策提言のあり方」「議会基本条例の評価の仕方」等、議会改革をサポートする立場で悩んでいること、行き詰まっていることを共有、解決策を探求し合った。

いわて議会事務局研究会

いわて議会事務局研究会

 地方議会は、「部族」の典型である。「掟」、その議会独自の「ローカルルール」がたくさんある。議会事務局職員が混ざって対話することで、そのローカルルールに気付き、議会改革を進めるヒントを掴むことができる(第61回「議会改革第2ステージにおける議会事務局のシゴト」)

「混ぜる」で生まれる化学反応

 シュンペーター(※)はイノベーションを「新結合」だと定義した。つまり、イノベーションは現在の延長線上にはなく、何か今とは違うものとの掛け合わせの中から生まれ出てくるものということだ。「混ぜる対話の場」による新しいものとの出会い、つながりから化学反応が起きない限り、イノベーション、「地方創生」は実現しない。

 今回の実践事例を参考に、「ドミナント・ロジック」を打破するため、全国の行政、議会での「混ぜる対話の場」の実践の広がりを期待したい。

※ヨーゼフ・シュンペーター…オーストリアの経済学者、イノベーションの概念や重要性を説いた。著書に『経済発展の理論』『景気循環論』など。

 

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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