【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第83回 アクティブ・ブック・ダイアローグ(R)(ABD)で「学び直し」を!! (2019/3/29 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第83回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
「学び直し」の必要性
変化の激しい時代、我々は常に「学び直す」ことが求められている。大学で学んだこと、一度取得した資格、知識、スキルで、一生食いっぱぐれなし等ということは今の時代にはありえない。「人は学び続ける存在である」という人間観に立つ「学習学」の提唱者で、京都造形芸術大学の本間正人教授は、「最終学歴より最新学習歴」と話す。常に学び続ける姿勢の重要性を訴えているのだと思う。
筆者もこの3月、山梨の清里で南山学院大学人間関係研究センターが主催する「人間関係トレーニング(Tグループ)」の5泊6日の研修会に参加してきた。「Tグループ」とは、ほぼ初対面のグループで、話題や課題が決まっていない75分のセッションを今回は14回繰り返すというかなりハードなもの。テーマが無いが故に生身の人間の感情がぶつかり合い、内省を通して、本質的な自分の嫌な部分が見え、自分の個性を深く再認識するパワフルな研修である。年度末仕事が立て込んでいる中、意を決し参加した甲斐を十分感じる「学び直しの場」だった。
2018年、総務省の「自治体戦略2040構想研究会」が、20年後自治体職員は半分になるという報告をまとめた。人口縮減の要因も大きいが、AI(人口知能)やロボティクス(ロボット工学)によって処理される業務が増え、職員は職員でなければできない仕事に特化されるということだ。いわゆる「スマート自治体」への転換である。それに対応するには、これからの自治体職員にも自ら学び続ける姿勢が求められる。
今回は、自治体職員の学びの新しい手法として、筆者が広がりを期待している「アクティブ・ブック・ダイアローグ(R)(ABD)」について紹介する。
「アクティブ・ブック・ダイアローグ(R)(ABD)」とは
一番手軽な「学び直し」のやり方の一つが読書だと思う。通常の読書会は事前に課題図書を読む必要があり、参加のハードルは高い。しかし、ABDは事前に読む必要のない読書会だ。課題図書に興味のある人が集まり、その場で本を分担して読み、要約し、プレゼン発表をする。そして、そこから生まれた「問い」を起点に対話を行っていく。
ABDは、2016年に京都で企業経営を行う竹ノ内壮太郎さんが開発したものである。筆者は、Facebookのタイムライン上でABDが話題になっていたこともあり、昨年12月に京都で開催されたアクティブ・ブック・ダイアローグ協会主催の「第2回ABDファシリテーター認定講座」に参加した。開発者である竹ノ内さんや協会の事務局を務めるNPO法人場とつながりラボhome ‘s viの代表の嘉村賢州さんから、オリジナルのABDの手法を2日間のプログラムで学んだ。
その後、筆者は4回、ABDのファシリテーターを行った。幹事を務める早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(第64回「地方創生時代に求められる自治体組織のあり方」)に参加するメンバーの実践スキルアップ講座(参加者:16人 課題図書:「すべての仕事は問いからはじまる」)。福島県会津坂下町で開催された自治体職員有志の「福島オフサイトミーティでング会津版」で(参加者:18人 課題図書:「すべての仕事は問いからはじまる」)。アドバイザーを務める静岡県牧之原市の市民ファシリテーター(第43回「市民をまちづくりの主役に」)向けの研修会で(参加者:8人 課題図書「ダイアローグ 対話する組織」)。そして地元青森でABDの体験会として、自治体職員、地方議員、NPO職員、学生の多様なメンバーで(参加者:9人 課題図書「ダイアローグ 対話する組織」)。
竹ノ内さんによると、ABDは「KP法(紙芝居プレゼンテーション)」と「ジグゾー法」の2つを融合させたものだという。「KP法」とは、B5用紙に、情報をそぎ落とし手書きで紙芝居のようにまとめて伝える手法。「ジグゾー法」は、協同学習のメソッドで、ジグゾーパズルのように全体を分割し、その後一つに統合するというもの。この2つのエッセンスがABDには盛り込まれている。
ABDには2つの種類がある。一つは「本起点」のABD。この本読んでみたい、積読解消等、はじめに本ありきのABDである。もう一つは「目的起点」のABD。これは、解決したい、実現したい目的がまずあって、それに合わせて本を選び読むというもの。組織の中でのチームビルディングやコミュニケーションが課題であれば、それについての本をチョイスし、関係者で読むというものである。自治体組織における学びの場では、目的起点のABDが親和性高いと思う。民間企業では、職員研修の中でABDを活用する事例もあるという。
ABDのメリットとして次の8つが挙げられる。
- 短時間で読める。
- サマリーが残る。
- 記憶が定着する。
- 深い気付きと創発が起きる。
- 個人の多面的成長(集中力、要約力、プレゼン力、コミュニケーション力、対話力等)が期待される。
- 共通言語ができる。
- コミュニティが生まれる。
- 何よりも楽しい。
自治体組織の現場では、ABDを通して共通言語ができ、大事なことへの共通理解が職場や組織の中に生まれる効果は大きいと思う。
ABDの進め方
以下、筆者が地元青森で3月23日に開催したABD体験会をベースに、ABDの進め方を紹介する。一般的にABDは、チェックイン、オリエンテーション、サマリー作成、リレープレゼン、ダイアローグ(対話)の流れで進む。今回は参加者9人全員がABD初体験であったこともあり、オリエンテーションの後に、ウオーミングアップの時間を設け体験をしてもらった。
- □チェックイン
- 参加者にサークルになってもらい、自己紹介、なぜこの体験会に参加したか?今の気分は?の問いで話したい人から順番に話してもらった。場にどんな人がどんな思いで参加しているかを確認し合い、場の安全性を感じてもらうことを意識した。
- □オリエンテーション
- ABDとは何かを前段落で述べた内容を中心に説明。ABDとはどういうもので、これから何が始まるかを理解してもらい、初めてのことに挑戦する不安を和らげてもらった。
- □ウオーミングアップ
- 課題図書の「はじめに」「おわりに」の部分を2ページ位に分割して参加者に配布。4分で読みB5用紙2枚に要約をまとめ、1分でリレープレゼンを行い、ABDの流れを簡単に体験してもらった。実施後全体でやってみた感想を共有した。
- □サマリー作成
- 課題図書の第1章、2章、3章の途中までを、10~15ページに分割し配布。30分で読みB5用紙5枚以内に要約をまとめてもらった。作業に取り掛かる前に、サマリー作成のコツとして、完璧主義をやめること、解釈を含めず事実ベースで、字数は多くなり過ぎないように、文字は寒色系のマジックペンで書くこと等をアドバイス。作業が30分で終われなかった人は、休憩時間の間に完成させる様にお願いした。
- □リレープレゼン
- 休憩時間を活用して各人が作成したサマリーを壁に貼り出す。プレゼンは、一人2分。こちらもサマリー同様、事実ベースで発表すること、解釈や意見は後のダイアローグにとっておくことを説明。また、発表後は次の発表者にハイタッチでつなぎ、場の雰囲気を盛り上げる工夫をした。
- □ダイアローグ(対話)
- ダイアローグに入る前に5分程時間を取り、壁に貼られた紙をあらためて見てもらい(ギャラリーウオーク)、気になるところに赤マジックペンでレ点を好きなだけつけてもらった。ダイアローグの問いは、そのABDの目的に合わせて出されれば良いが、今回は、「今ここで浮かび上がる問いは何ですか?その問いを出発点に自由に話してください」ということにした。15分の2セット、ワールドカフェの要素を交えて席替えを挟んで行った。
- □チェックアウト
- 最後に再び参加者にサークルになってもらい、ABDを体験しての感想は?ABDを今後どのように使いたいですか?の問いで、話したい人から順番に話してもらった。総合計画を使ったABDを市民とできないか、といった面白いアイデアも出た。
今回は、初心者の体験会ということもあり、ていねいに進めて3時間、参加者が9人だったため、本も全4章のうち3章の途中までのプログラムになった。慣れたメンバーでやる場合には、いきなりサマリー作成から入り、リレープレゼン、ダイアローグで、1時間半~2時間のプログラムが組めると思う。また、本を最後まで読み切れなかったが、参加者は十分満足し、自分で買って続きを読みたいとの声がたくさん出た。
「ABD」で「学び直し」を!!
これからの時代を生き残る自治体職員は、地域ニーズに合致した新しい政策を考えられるクリエイティブな職員や、住民と深いレベルでの関係性を構築できるコミュニケーション力の高い職員だと思う。自治体職員が安定していた時代は終った。学び直し、学び続けなければならない。
自治体職員の「学び直し」のツールとして、今回紹介したABDには可能性を感じる。ABDは、誰でも取り組める「超参加型読書会」であり、孤独な読書を、創造的、能動的な共同学習活動に変える。そして、ABDを通して組織の中に共通言語ができ、大事なことへの共通理解が職場や組織の中に生まれる。組織開発としての効果も期待できる。
アクティブ・ブック・ダイアローグ協会では、HPでABDの詳しいマニュアルを無料で公開している。ぜひ活用して、それぞれの組織、地域で実践してもらいたい。
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。