【早大マニフェスト研究所連載/週刊 地方議員】
第21回 動き出した議会事務局~いわて議会事務局研究会発足~ (2013/03/14 早大マニフェスト研究所)
ご好評いただいている「早稲田大学マニフェスト研究所」連載。今週は各地の議会改革や独特の取り組みなどをご紹介する「週刊 地方議員」をお送りいたします。今回は、議会改革を進めていく上で、非常に大きな役割を担っている議会事務局の先進的な取り組み、「動き出した議会事務局~いわて議会事務局研究会発足~」をご紹介いたします。
◇ ◇ ◇
議会と議会事務局こそ「車の両輪」
議会改革、つまり、議会の情報公開、住民参加を進めることにより「開かれた議会」を目指し、また、そもそもの議会機能の強化を行っていく上で、議会事務局の役割は非常に大きなものがあります。よく、議会と行政の執行部は「車の両輪」と例えられます。しかし、本来、議会と執行部の間には、緊張感を持ったパートナーシップの関係が求められ、案件によっては意見が真っ向から対立する場合もあります。要するに、議会と執行部は、進む方向が違う場合もあり、厳密には「車の両輪」にはなり得ないということです。
では、本来、議会と「車の両輪」となるべきものは何でしょうか。それは、議会事務局であると思います。議会は、地域の住民の民意を吸い上げ、さまざまな利害の調整を行い、意見集約をしていく場であり、その議会の活動を支援していくのが議会事務局の役割です。となると、一方の車輪である議会が改革を進めていくのであれば、もう一方の車輪である議会事務局の改革も必然的に必要になります。
そうした流れもあり、議会事務局職員や議員、研究者で構成され、関西を中心に活動する議会事務局研究会が、第7回マニフェスト大賞で審査委員会特別賞を受賞しました。議会事務局研究会は、「自治体議会事務局はどうあるべきかを実務面から探り、事務局が抱える問題をしっかりと議論し、提言していこう」という考えから活動をスタートし、提言書をまとめ、シンポジウムを開催し、議会事務局の在り方を世の中に積極的に情報発信しています。
議会事務局は執行部のスパイ
こうした議会事務局の改革の動きが東北、岩手にも拡がっています。2月6日、岩手県市議会議長会主催で、岩手県市議会事務局職員研修会が開催され、県内13市、31人の議会事務局職員が参加しました。
この研修会では、まず、早稲田大学マニフェスト研究所の北川正恭所長が現在の議会事務局に対して問題提起を行いました。講演は、「あなたたちは執行部のスパイではないのか?」といったショッキングな言葉から始まりました。従来の議会事務局は、平穏な議事運営を是として、執行部の提案が否決されないように、ネットワークを張り巡らし、議員を懐柔することが1番の役割、つまり、執行部のスパイとしての役割が期待されているところもあったかと思います。しかし、「車の両輪」たる議会事務局の姿勢としては、いかがでしょうか。
また、議会事務局という名前にも疑問を呈され、「事務という言葉からは、議事機能、総務機能といった、決められたことを決められた通りにこなす仕事しか連想できない」と指摘されました。この指摘は、今、議会事務局に求められているのは議会での議論を支える調査研究機能や、議員提案条例等を支援する政策法務機能であって、今までの議会事務局はこうだったから、といった思い込み、「ドミナント・ロジック」から脱却して、あるべき議会事務局の姿から、自分たちの仕事を考えることが大事だということだと思います。
議会を超えた議会改革の情報共有を
北川所長の講演の後、参加した13市の議会事務局の職員から、それぞれの議会の状況の報告と、問題提起を受けての意見交換が行われました。「議会の役割が大きく変わってきている中で、議会事務局の役割も変わらなければならない」「今までそうだと当たり前に思っていたことが、違うのではないかと気づかせられた」「気がついたこと、できることから始めなければならない」などと、前向きな意見が出てきました。
また、各議会の議会改革の進捗の状況を聞くことで、それぞれの議会改革の進度の違いを認識するとともに、議会独自のローカル・ルールの存在、改革のネックとそれを克服するヒントが明らかになりました。ほんの30分の意見交換の時間でしたが、議会を超えたこの様な情報共有の場の必要性と、当該議会事務局以外のネットワークの形成の重要性が参加者の間で確認されました。
立ち上がった「いわて議会事務局研究会」
今回の研修会を受けて、研修会に参加したメンバーが中心となり、「いわて議会事務局研究会」が立ち上がることになりました。研究会では、議会改革や議会運営などに関する参加メンバーの意見交換を通じて、議会事務局職員の能力向上を図りながら、議会事務局の在り方を研究していきます。活動は、日常的な業務の情報交換のほか、年に4回程度、北川所長などのオブザーバーの指導助言をもらいながら、各議会において問題や課題となっている事例等を持ち寄り、その解決策や事務局の関わり方を探っていく予定です。
議会と議会事務局は「車の両輪」です。こうした議会を支える議会事務局職員の研究会が、岩手だけではなく全国に立ち上がり、議会改革の善政競争が全国に広がることを期待したいと思います。
◇ ◇ ◇
- 青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳 - 1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。