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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第20回 市民との対話が生まれる新しい「議会と市民との意見交換会」のあり方~久慈市議会によるワールドカフェ形式による「かだって会議」の開催~ (2014/9/11 早大マニフェスト研究所)

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第20回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。掲載は、毎月第2木曜日。月イチ連載です。今回は、「市民との対話が生まれる新しい『議会と市民との意見交換会』のあり方~久慈市議会によるワールドカフェ形式による『かだって会議』の開催~」をお届けします。

議会報告会、議会と市民との意見交換会の課題

 議会への住民参加の場として、議会報告会、議会と市民との意見交換会などを開催する議会が増えています。「市民と議員の条例づくり交流会議2014」で報告された「全国自治体議会の運営に関する実態調査2014」によると、「議会として市民と直接対話する機会」を2013年中に実施した議会は714議会、45.1%と約半分の議会。前年(2012年)に比べ4.6ポイント、前々年(2011年)に比べ14.6ポイントと確実に増えています。

 しかし、その運営の仕方には課題もあります。議会、議員に対する不満や、陳情要望が多く発言され、前向きで建設的な議論にならない。参加した市民からは、決められたことの事後報告が中心で面白くない。そして何よりも参加者が少ない、減少していることを課題にあげる議会が多いです。

 今回は、早稲田大学マニフェスト研究所の支援を受けて議会改革を進める、岩手県久慈市議会の市民との意見交換の場、「かだって会議」の取り組みを事例に、新しい「議会と市民との意見交換会」のあり方を考えたいと思います。

久慈市議会の『じぇじぇじぇ基本条例』

 2011年の東日本大震災の被災地でもあり、2013年度上半期放送のNHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」のロケ地となった久慈市。主人公のアキが驚いた時に発する方言「じぇじぇじぇ」は、2013年の「新語・流行語大賞」にも選ばれました。

 そんな久慈市議会では、今年の3月、前文がすべて方言、「おら達(だち)の住む久慈市は、碧い海と緑豊かな大地に囲(かご)まれだ自然いっぺぇの郷土であり、このごどをおら達は誇りに思う」で始まり、「これまでにねぇ発想によるまさに“じぇじぇじぇ”な議会を目指していぐべぇという思いを込めで、この条例をこさえ、市民の思いに力いっぺぇ応(こだ)えていぐごどを決意する」で終わる、『議会基本条例(通称:久慈市議会じぇじぇじぇ基本条例)』を制定しました。

 この『じぇじぇじぇ基本条例』がその愛称通り“じぇじぇじぇ”で意欲的な点の1つは、年1回以上の議会報告会の開催に加えて、市民と議会が協働し市政課題について話し合う「かだって会議」を設置することを盛り込んでいることです。「かだって会議」は、仲間になる、一緒にやる意味の「かだる」と、ともに語り合う意味の「かだる」、この2つの方言の意味、思いを込めて付けられた名称です。

お揃いの絣柄のシャツを着た久慈市議会の本会議風景

お揃いの絣柄のシャツを着た久慈市議会の本会議風景

ワールドカフェ形式による「かだって会議」

 久慈市議会では、基本条例に基づき設置された議会改革推進会議のメンバーで議論し、「かだって会議」を開催するにあたり、「ワールドカフェ」という話し合いの手法を採用することにしました。ワールドカフェとは、「カフェ」にいるようなリラックスした雰囲気の中、小グループ単位で、参加者の組み合わせを変えながら、自由に対話して、話し合いを発展させていく話し合いの場です。ワールドカフェ形式による市民と議員との意見交換会の事例として、福岡県志免町の町民有志「まちづくり志民大学」が行う、「議員と語ろうワールドカフェ」について、第14回のコラムで紹介しました。志免町は町民が主催ですが、久慈市は議会が『議会基本条例』に基づき開催するという点が大きく異なります。

 第一回の「かだって会議」は、8月23日(2014年)、久慈市の道の駅「やませ土風館」多目的ホールで開催されました。議会改革推進会議のメンバーを中心に10人の議員と、市民25人が参加し、その中には、ご当地アイドル「あまくらぶ」の女子高校生5人も参加してくれました。会場には、「あまちゃん」のテーマ曲などのBGMが流れ、テーブルには赤いチェックのテーブルクロスに造花、お菓子と飲み物も用意され、気楽に会話できるカフェの雰囲気を演出しました。ファシリテーターは、これまでマニフェスト研究所の研究員として議会改革のアドバイザーを務めてきた私が担当しました。

「かだって会議」の様子

「かだって会議」の様子

 「かだって会議」はまず、「問いに意識を集中しましょう」「対等な立場で話し合いましょう」「話は短く簡潔に」などのグランドルールを全員で確認した後、スタートしました。テーマ1「あなたの知っている久慈市の“じぇじぇじぇ”な自慢を教えてください」、テーマ2「5年後の久慈市の“じぇじぇじぇ”な姿を教えてください」、テーマ3「“じゃじぇじぇ”な久慈市を実現するために、今、議員と市民ができることは」の3つのテーマについて、7グループに分かれた議員と市民が、メンバーを変えながら対話を行っていきました。

 会議の成果物として、テーブルの模造紙には、遊び心溢れたイラストとともに、たくさんの意見が書かれました。参加した市民からは、「かだって会議」の開催を増やし市政に対する市民の関心を高める、市議に高校に来てもらい「かだって会議」を開く、現在1人もいない女性議員を増やすなど、前向きな提案が多く出てきました。参加者のアンケートの結果も、「会議に参加して楽しかった」と回答した方が100%、ワールドカフェ形式の運営方法について「話しやすかった」と回答した人が95%と、1回目にしては大変高い評価になっています。

 八重櫻友夫議長は、「かだって会議」の手応えを次のように話しています。「通常の議会報告会とは全く違う雰囲気の中で、意見交換をすることができました。参加のハードルが低く、もっと開催したくなるような、そしてもっと多くの住民と意見交換したくなるような会だったと思います。会議を通して、意見を交わし合うことの大切さ、そのために話し合いの進め方やルール、雰囲気づくりを工夫することの大切さというものを肌身で感じました」。

「かだって会議」の成果物を前に八重櫻議長

「かだって会議」の成果物を前に八重櫻議長

 久慈市の「かだって会議」が成功した要因として、次の3点を挙げたいと思います。まず1点目は、無作為抽出で選んだ市民に参加を呼びかけたことです。従来の議会報告会などの参加者を見ると、一部の市政に関心を持ち、意見を発言したい人、年齢や性別でいうと60歳以上の男性がほとんどだと思います。今回は、参加者の男女比、年齢を市の人口構成に近づけ、市の縮図のような会議にしたいという思いから、無作為抽出方式により参加を呼びかけました。その結果、30代、40代の女性など、普段こうした会議には参加しない層の市民にも参加いただき、活発な意見交換ができました。

 2つ目は、事前に「模擬かだって会議」を議員全員で実施、練習したことです。ワールドカフェの雰囲気を体感し、運営の仕方を検討する意味から、会場の雰囲気も本番と同じ状況にして開催されました。「模擬かだって会議」では、「かだって会議の目的は」「かだって会議で気をつけなければならないことは」「かだって会議のために貢献できることは」をテーマに、本番さながらの予行練習が行われました。貢献できることとして、当日庭の花を家から持参して会場に飾る意見を出し、実践した議員もいました。

 3番目に、ワールドカフェの事前準備とファシリテーション術について事前に研修を受けた者が、ファシリテーターを務めたことです。ワールドカフェの成否は、その準備でほぼ決まると言われています。しっかりとしたスキルを身に着けた人が、目的や参加者の構成、テーマを考えたりなどのワールドカフェのプロセス・デザインをすることが重要になります。今回は私が務めましたが、第2回以降のファシリテーターは、議員や事務局職員が研修を受け、専門家の力を借りなくても出来るようになることが期待されています。

「かだって会議」に備えての「模擬かだって会議」

「かだって会議」に備えての「模擬かだって会議」

市民との対話が生まれる新しい「議会と市民との意見交換会」のあり方

 議会報告会、議会と市民との意見交換会の開催、運営方法に関しては、試行錯誤している議会が多いと思います。まずは、そうした住民参加の場を設けることが重要ですが、開催後もブラッシュアップ(改善)を繰り返すことが必要です。すべての議会報告会、議会と市民との意見交換会が、このようなワールドカフェの手法で行われるべきだとは思いませんが、テーマや場面によっては、こうした手法は効果があると思います。特に、市民と議会、議員がそれぞれの立場を理解する、お互いの信頼関係を構築するには、とても有効だと思います。

 この連載コラムの中で、地域におけるさまざまな話し合いの場に、「デイベート(討論)」ではなく、「ダイアローグ(対話)」を導入することを提案してきました(第10回12回13回14回15回)。ダイアローグとは、デイベートのように、物事に白黒をはっきりつけるようなやり方ではなく、相手の意見を最大限尊重すること、相手の立場に立つこと、すなわち「思いやり」を持ち、それぞれの考えを理解した上での相対化を経て、新たな解決策を導き出す話し合いのあり方です。ダイアローグの効果は、参加、発言の機会が多くの人に確保されること、多様な意見が表出されること、話し合いのプロセスの中で、腹落ち、合意形成が行われること、前向きな次へのアクションにつながることなどが考えられます。つまり、答えを一緒に作り上げることが前提になる話し合いです。

 議会と市民との意見交換会が、地域の対話の場となり、そこから新しい前向きなアイデアが沢山出てくるようになる。そのような、議会と市民との意見交換会の実現の手法として、ワールドカフェ形式の久慈市議会の「かだって会議」は、大きなヒントになると思います。

テーブルもリラックスした雰囲気で

テーブルもリラックスした雰囲気で

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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