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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第64回 地方創生時代に求められる自治体組織のあり方~早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会夏期合宿から (2017/8/31 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第64回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

「地方創生」の本丸は「人材」

 2014年、第2次安倍政権により掲げられた「地方創生」。東京一極集中を是正し、地方の人口減少に歯止めをかけ、地域の活力を上げることを目的とした一連の政策のことを指すが、3年が経ちどこまで成果を上げているのか。

 地方自治体が策定した「地方版総合戦略」に対しての国からの地方創生推進交付金、地方創生加速化交付金など、財源を中心とした国頼りの姿勢では、地方に変化は起きない。2000年の「地方分権一括法」により、国と地方の役割分担が明確化され、機関委任事務の廃止など、日本は形式的には分権国家となった。地方自治の本旨の一つである「団体自治」は形式的には整えられた。しかし、住民自らが地域のことを考え、自らの責任により治めるもう一つの「住民自治」の実現には道半ばである。

 地方創生は、形式的な地方分権を、実質的なものへとバージョンアップさせるステージで、その本丸は「人材」にあると思う。未来をイメージする構想力と、それを実現する為の行動力を持った、人材を地域でいかに育てるかに掛かっている。

早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会

 早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(第10回コラム「人材マネジメントで地方政府を実現する」)は、そうした地方創生時代の職員、組織を創り、育てることをミッションとしている。2006年に17団体からスタートした部会だが、2017年の参加自治体は97団体。プログラムの修了生「マネ友」は1000人を超えている。

夏期合宿東京会場の様子

夏期合宿東京会場の様子

 部会では、「立ち位置を変える(生活者起点で物事を考える)」「価値前提で考える(ありたい姿から今を考える)」「一人称で捉え語る(自分事に引き寄せて考える)」「ドミナントロジックを転換する(誤った思い込みを捨てる)」の4つをキーワードに、自らが行動変容を起こし、組織、地域を変えるために一歩前に踏み出すことを参加者に期待している。計5回の研究会や夏期合宿に参加することを通して、知識の記憶ではなく、自らで考え語り合い、実践の試行錯誤を繰り返し、それを振り返る中から、現状を変革する具体策を見つけていく。

自治体現場に蔓延する病

 2017年の部会の夏期合宿が、8月17~18日(名古屋会場 37自治体参加)、24~25日(東京会場 61自治体参加)と2回に分けて開催された。夏期合宿では、組織・人材の望ましいありたい姿(状態)を明確に描き、アンケートやインタビューなど様々な手法を屈指して掘り下げた組織・人材の現状とのギャップを埋めるため、取り組むべきアクション、変革のシナリオの策定が、参加自治体に課せられる。筆者は、部会の幹事として12年間、夏期合宿での自治体の変革シナリオの発表を聞いてきて、自治体現場共通の課題があるように感じている。

夏期合宿東京会場集合写真

夏期合宿東京会場集合写真

 仕事が細分化(個業化)、メール文化が定着、ノミニュケーションの減少により、職場内外での面と向かっての本音の話が少なくなっている。その結果、同じ職場の中でも、お互いがどんな人か分からず、信頼関係が希薄になる。信頼が無いと言い出しっぺが損をすると思ってしまい、何も言わない方が得、仕事は上が決めるもの、どうせ言っても無駄という諦めの雰囲気が生まれる。そうなると、お互いの関わりをほどほどに、波風を立てないようにしようとなり、益々本音の話が職場でなくなっていく。これが職場の「バットサイクル」だ。

 結果として、個人としては忙しく仕事をしているように見えるが、組織としては100%のパフォーマンスを出し切っていない。職員に病名を付けるとすると、「コミュニケーション苦手・回避症候群」となる。このコミュニケーション障害が原因となり、若手には、仕事の意味が腹落ちできず、業務の相談もできずに孤立する「こんなはずではなかった症候群」が。中堅職員には、管理職としての仕事のやりがいを感じられず、仕事での大きな責任を引き受けたがらない「管理職になりたくない症候群」が。また、好むと好まざるに関わらずに管理職になった場合にも、なる覚悟と準備がなかったことで、プレーヤーとマネージャーのバランスや、部下との上手い接し方が分からない「マネージャーになり切れない症候群」などの病が、今自治体組織に蔓延している。

合宿で講演する筆者

合宿で講演する筆者

「対話」により組織の「関係の質」を高める

 マサチューセッツ工科大学のダニエル・キムは「組織の成功循環モデル」を理論化し、組織が成果を上げ成功に向かって進んでいくためのモデルとして、「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」のサイクルを提唱している。当然組織は、結果の質が一番に求められるが、その前提には、行動の質、思考の質があり、グッドサイクルを回していくために、何よりも重要なのは人間同士の「関係の質」であると。

 つまり、無関心、対立的な葛藤がある状態から、相互理解の状態に。遠慮して相手に踏み込めない状態から、心理的安全度が高まった関係に。最低限の会話のやり取りから、お互いをサポートし合おうとする姿勢に。「何をしている人か」が分かるだけではなく、「どんな気持ちを持っている人か」を理解する関係に。関係の質が高まることで、組織のパフォーマンスが飛躍的に上がる。こうした組織の関係の質の改善に大きな役割を果たすのが、「対話(ダイアローグ)」である。

 仕事における「コミュニケーション」とは、仲が良い、良く話しをする、雑談し合える関係があることだけではない。こうした関係もベースとしては不可欠なものだが、本来は、仕事の中で、自分の意図が相手に伝わって、相手がその意図に沿って動いてくれることを意味する。また、組織にコミュニケーションがあるとは、組織の中で、真面目な雑談、対話が行われている状態である。仕事のやり方について職場のメンバーが相互に意見を述べ合う「業務を語り合う対話」。自己、役所、地域の未来について、職場のメンバー同士で思いを話す「未来を語り合う対話」。こうした対話の場とその場の質が組織の関係の質を高めていく。

変革シナリオを発表する参加自治体

変革シナリオを発表する参加自治体

 夏期合宿で発表される変革シナリオの中にも、オフサイトミーティングや自主勉強会の立ち上げ、朝礼の実施や、職場内ミーティングの改善など、ゲリラ的ではあるが、組織に対話の場を意図的に作りだそうとするものが多い。また、職員研修、人材育成基本方針、職員提案など、オフィシャルな制度、仕組みの構築、見直しに、対話のエッセンスを取り入れようという提言もある。

人や関係性の課題を意識した組織へ

 「組織開発」の分野の大家である、南山大学の中村和彦教授は、組織のマネジメント課題として、「戦略的な課題」「組織構造、業務手順の課題」「人事制度の課題」「人や関係性の課題」の4つをあげている。

 自治体に置き換えると、戦略的な課題とは、総合計画を明確に定め、政策評価などをどう実施するか。組織構造、業務手順の課題とは、組織体制、業務フロー、働き方をどうするか。人事制度の課題とは、人材育成基本方針、人事評価制度、研修制度をどう構築、運用するかであり、この3つは、比較的組織のハードの話である。

 人や関係性の課題とは、ソフト、OSであり、ハードが上手く機能するためには、組織の人間的側面を無視することはできない。全てに人やその関係性の問題が関わり、仕組みや制度のソリューションを入れるだけでは組織は変わらない。これも人材マネジメント部会が大事にしている考え方である。

発表を聞く参加者

発表を聞く参加者

 地方創生時代では、地域の自立が求められる。それを推進するのは「人材」だ。中央集権時代の「指示・通達待ち型」から、「問題発見・解決型」の人材、組織に変わらなければならない。分権から創生へ。自治体組織における、人や関係性の課題を意識し、対話を繰り返し、組織の文化とすることが、遠回りのようであるが、地方創生実現への近道だと思う。

◇        ◇        ◇

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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