【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第80回 他自治体との議会間交流で「善政競争」を!! (2018/12/26 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第80回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
議会間交流を「メンタル・モデル」に気付くきっかけに
前回のコラム(第79回「議会改革第2ステージ「学習する議会」を目指して」)では、マサチューセッツ工科大学経営大学院上級講師のピーター・M・ゼンゲの「学習する組織」の理論を基に、地方創生時代、地方議会も「学習する議会」にならなければならないのではないかといった問題提起をさせてもらった。「学習する組織」とは、「目的に向けて効果的に行動するために、集団としての意識と能力を継続的に高め、延ばし続ける組織」である。そこから「学習する議会」とは、「住民福祉の向上に向けて効果的に行動するために、議会としての意識と能力を継続的に高め、延ばし続ける議会」と定義した。
「学習する組織」は、「自己マスタリー」「共有ビジョン」「メンタル・モデル」「チーム学習」「システム思考」の5つのディシプリン(学習領域)から成り立っている。その中の一つである「メンタル・モデル」とは、「私たちがどのように世界を理解し、どのように行動するかに影響を及ぼす、深く染み込んだ前提、一般概念であり、あるいは想像やイメージ」を指す。議会、議員にはそれぞれ、メンタル・モデルがある。それが勝手な解釈、決めつけ、囚われとなり、議会改革の足枷になっている場合も多い。「うちの議会はこれまでこれでやってきた」「これで何も問題は起きていない」「うちの議会では無理だ」等は、典型的な「メンタル・モデル」である。
それを乗り越えるには、「チーム学習」が必要だ。「チーム学習」とは、「グループで一緒に、探求、考察、内省を行うことで、自分たちの意識と能力を共同で高めるプロセス」である。ベースになるのは、違いに耳を傾け、意見の多様性を知り、新しい知見を得る「対話(ダイアローグ)」による話し合いだ。「対話」を通して、議員それぞれが自身のメンタル・モデル、議会のメンタル・モデルに気付き、手放すプロセスが「チーム学習」だ。
「チーム学習」はもちろん、それぞれの議会内で行われるべきだが、議会を越えて行うことで、多様性が高まり、「メンタル・モデル」に気付きやすい場合もある。経営学習論の概念で、「越境学習」という考え方がある。個人の所属する組織の境界を行き来しながら学習し、気付きを得るというものだ。
今回は、姉妹都市、友好都市同士等で行われている議会間交流を「越境学習」による「チーム学習」と捉え、その効果を、岩手県久慈市議会と千葉県袖ケ浦市議会、宮城県柴田町議会と岩手県北上市議会、2つの議会交流の事例を参考に考えたい。
宮城県柴田町議会×岩手県北上市議会
宮城県柴田町と岩手県北上市は、1980年に姉妹都市を締結し、議会同士も最近ではほぼ2年ごとに相互の市町を訪れ交流行事を重ねてきた。両議会ともに議会改革に積極的に取り組んでおり、早稲田大学マニフェスト研究所の「議会改革度調査2017」では、柴田町議会が65位、北上市議会は32位とランキング上位の常連である。
柴田町議会では、町内の柴田高校の生徒たちとの意見交換会をワールドカフェ形式で実施(第52回「議会×高校生の対話で地方創生を」)、またワールドカフェを議員間討議に取り入れ総合体育館建設に関わる議論を行ったりしている(第77回「議員間討議で「政策サイクル」を回す(2)」)。一方、北上市議会では、議員報酬定数の問題について特別委員会を立ち上げ、議員間討議と16回の「市民と議会をつなぐ会」を通して丁寧な議論を行い、報酬を5万円増額することとしている。
両議会は2018年10月、柴田町で通常の交流行事に加えて、両議会に関わる筆者がファシリテーターを務めて、ワールドカフェを取り入れた合同研修会を初めて実施した。研修会には、柴田町議会議員18人、北上市議会議員21人が参加。両議会の事務局職員を交えて、それぞれ混ざりながら4~5人のテーブルを作り、ワールドカフェを行った。
「それぞれの議会で誇りに思うこと、残念に思うことは何ですか?」「これからどんな議会を目指したいですか?」「目指したい議会になるために挑戦したいことは何ですか?」の3つの問いで席替えをしながら「対話」を行った。参加した議員はいずれ笑顔、テーブル上の模造紙は意見でびっしり埋められた。置かれた環境は違っても、議会、議員として悩んでいることには変わりがない、次へのヒントがたくさんあった等といった前向きな感想がいくつも聞かれた。合同研修会後の懇親会もその流れで大いに盛り上がった。
岩手県久慈市議会×千葉県袖ケ浦市議会
既存の姉妹都市、友好都市の枠組ではなく、新たに「友好交流議会」となり交流を行う議会も出ている。2014年7月、岩手県久慈市議会と千葉県袖ケ浦市議会は、全国初、議会同士の友好交流協定を締結した。議会改革に取り組み始めた袖ケ浦市議会が、市民との意見交換会をワールドカフェ形式で行う等先行して議会改革に取り組んでいた久慈市議会(第20回「市民との対話が生まれる新しい「議会と市民の意見交換会」のあり方」)を行政視察に訪れ、議会改革や議会としての防災対策の取り組み等意見交換をしたことがきっかけで交流が始まる。お互いに訪問し合い交流を重ね、「友好交流議会」の締結につながった。
筆者もこの2議会の交流のお手伝いをさせていただき、2016年2月、袖ケ浦市で両議会合同の研修会が開催された。研修会には、袖ケ浦市議会議員22人、久慈市議会議員9人、事務局職員3人の34人が参加した。2つの議会の議員が混じるように4~5人のグループになり着席。筆者から、(1)全国の議会改革の動向、(2)市民との意見交換会での「対話」の活用事例、(3)議員間討議での「対話」の活用事例と、3つのテーマに分けて情報提供。それぞれのテーマ後に、「対話の」時間を設けてお互いの議会の取り組み状況等、互いの意見を聴き合う有意義な学び合いの場になった。
議会間交流で「善政競争」を!!
姉妹都市、友好都市間の議会の交流は良くある。それぞれが行き来して、交流することは良いことだが、交流行事、懇親会が主たる目的となっているケースが多い。それではもったいない。議会間交流を「越境学習」による「チーム学習」と位置付け、次のバージョンに進化させ、お互いの議会改革等の取り組みを「対話」で共有する「学び合いの場」にしたい。
「対話」によりお互いの取り組みを評価、判断することを保留しながら聴き合うことで、あっ!!と言った気付きが生まれる。うちの議会では当たり前だったことが当たり前ではない。姉妹都市の議会でできるのであれば、うちの議会でもできるのではないか。そうしたポジテイブな考え方が出てくるとともに、相手議会がそこに向かって一歩踏み出す後押しをしてくれる。議会間交流をそんな「善政競争」が生成する場にしていきたい。
◇ ◇
■地方議会研修会in北上市「議会改革第2ステージ 東北からチーム議会を目指して」開催のお知らせ
もちろん議員間交流も「善政競争」の場になります。北上市で2019年2月7日(木)、今回のコラムで紹介した北上市議会、柴田町議会等の議会改革の取り組みを学び合う場、地方議会研修会in北上市「議会改革第2ステージ 東北からチーム議会を目指して」が開催されます。議員、議会事務局職員、議会総体として住民の役に立つ議会にいかにしてなるか。東北から考えていきます。
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。