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議員年金廃止から5年、いまどき地方議員の将来事情 (2016/11/30 プルデンシャル生命保険株式会社、元中央区議会議員 竹田志帆)

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1.議員年金の概要と廃止の経緯

 地方議員の議員年金は、議員や遺族の生活の安定に資することを目的として、昭和36(1961)年に任意加入の互助年金制度としてスタートしました。翌年には強制加入となり、昭和47年には公費負担制度が導入されて、議員本人が支払う掛金と自治体の公費負担によって給付を賄う仕組みが整備されました(財源の負担割合は、議員本人が支払う掛金が約6割、公費が約4割)。

 ところが、平成10年代後半になると、平成の大合併による市町村数の減少や、行財政改革による議員定数・議員報酬の削減によって、現役世代が支払う掛金が大幅に減少します。そこで、掛金率の引き上げや給付水準の引き下げなどの改革が実施されましたが、議員数はその予測をさらに上回るペースで減少しました。平成16年から平成23年までの7年間で、5万1千人から3万2千人へと、実に4割近くも議員数が減ってしまったのです*1

 議員年金は、積立金が急速に枯渇するという危機的状況を迎え、総務省などで各種の見直し案が検討されました。しかし、本人負担・公費負担ともに引き上げは難しく、これ以上の給付水準の引き下げも難しいことから、制度の存続は不可能という結論となり、平成23年6月、議員年金制度は廃止されました。

 ちなみに、議員年金は「議員特権」の恵まれた制度であったと誤解されがちですが、一般の厚生年金と比較して、必ずしも有利な制度とはいえないものでした。例えば、受給資格期間が12年と短い点や、他の被用者年金と併給ができる点は厚生年金より有利ですが、給付水準はそれほど多いわけではなく、掛金の負担は厚生年金と比べると非常に重いものでした。

【厚生年金と議員年金の比較】*2

  厚生年金 議員年金
都道府県 町村
平均年金額 153万円 195万円 103万円 68万円
掛金率*3 5.757% 9.3% 13.6% 13.9%
受給資格期間 25年 12年

2.地方議員の年金の現状

 では、議員年金が廃止された後の地方議員の年金事情はどうなっているのでしょうか。議員年金の廃止が議論された際の総務省の調査では、地方議員のうち75%が他の被用者年金(厚生年金など)には入っておらず、議員年金と国民年金のみに加入していました*4。これは10年ほど前の調査ですが、議員の専業率が増加傾向であることを考えると、現在ではこの割合はさらに増えている可能性もあります。

 議員年金が廃止されてしまった今、多くの地方議員は、公的年金としては国民年金のみに加入している状況だと考えられます。国民年金(老齢基礎年金)は、20歳から60歳までの40年間加入すると満額が支給され、その額は年780,100円(月額65,008円)です*5。それだけでは生活できない、というのはある意味当然で、国民年金はもともと自営業や農家などを想定した制度であり、それだけで生活するための制度ではないのです。

【地方議員の被用者年金加入状況】

地方議員の被用者年金加入状況

3.議員年金が復活?

 こうした状況の中で、一部には、議員年金の復活や地方議員のための新たな年金制度を望む声も出てきています。自民党本部は昨年、「地方議員年金検討プロジェクトチーム」を発足させ、地方議員年金の新制度の検討を始めました。また、今年7月には、全国都道府県議会議長会が「地方議会議員の被用者年金制度加入の実現を求める決議」を採択し、地方議員の人材確保のためには年金制度の充実が必要であると主張しています*6

 しかしながら、昨今の世論の地方議員に対する風当たりは、ご存じのとおり非常に厳しいものがあります。特に、政務活動費をめぐる不祥事などを受けて、地方議員のおカネの問題に対する批判は、かつてないほど強くなっています。このような状況の中で、地方議員を対象とした新しい年金制度を創設することは、そう簡単なことではないでしょう。

 仮に新たな制度ができたとしても、今後、地方議員数は減ることはあっても増えることはないと思われます。そうだとすれば、かつての議員年金と比べて負担や給付の面で有利な制度になることは考えにくいでしょう。したがって、地方議員のための年金制度が復活することだけに賭けて、その他の備えをしないことは、あまりにもリスクが高い選択だといえます。

4.地方議員の将来への備えは?

 昨年10月、地方公務員の共済年金が廃止され、民間のサラリーマンが加入する厚生年金に統合されました。それまでの共済年金は、厚生年金と比べて「職域加算」と呼ばれる優遇があり、月額で2万円ほど支給額が多くなっていました。こうした点が「公務員優遇」であると批判を受けたこともあり、厚生年金と統合されることになったのです。

 議員であるか職員であるかを問わず、公務員の「優遇」や「特別扱い」が許される時代ではありません。また、「困ったら国が何とかしてくれる」という時代でないことも明らかです。一方で、民間の個人年金保険の契約件数や契約高は毎年増え続けています。公的年金だけに頼れない、頼りたくないと、着々と自分の将来のための備えをする人も増えているのです。

 好むと好まざるとに関わらず、「自己責任」が避けられないこの時代。これまでは制度に守られた存在だった地方議員も、将来の人生設計を今のうちから考え、「自分の将来は自分で守る」ことが必要になったといえます。

  1. 総務省「地方議会議員年金制度検討会報告」(平成21年12月)p.36
  2. 同上p.34
  3. 総報酬(給与)に対する掛金の割合
  4. 総務省「地方議会議員年金制度検討会報告」(平成21年12月)p.32
  5. 平成28年度現在
  6. 朝日新聞デジタル「地方議員年金、復活の動き 自民本部検討『人材確保に』」(平成28年8月23日)
<著者プロフィール> 元中央区議会議員 竹田志帆
1976年福岡生まれ。早稲田大学教育学部数学専修卒業。日興證券株式会社、エービーエヌ・アムロ証券、ロイヤルバンク・オブ・スコットランド東京支店で計11年間一貫して金利・為替関係のトレーダーを務める。2011年4月の東京都中央区議会議員選挙において新人ながら歴代最多得票率で最高位当選(当時)。2015年4月任期満了により引退。現在はプルデンシャル生命保険(株)において全国各地のお客様に生命保険のコンサルティングセールスを行っている。
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