【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第61回 議会改革第2ステージにおける議会事務局のシゴト~いわて議会事務局研究「議会事務局シンポジウム@北上」 (2017/5/31 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第61回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
「議会改革第2ステージ」と議会事務局
2006年5月北海道栗山町議会で『議会基本条例』(以下基本条例)が制定されてから11年。これまでの議会改革は、基本条例を制定して、議会報告会の開催、一般質問での一問一答形式の導入など、形式要件を整えることが中心の改革だったと思います。これにも大きな意味はありましたが、議会のための議会改革、自己満足型議会改革になっていた部分も否めません。基本条例が誕生して10年が過ぎ、これからは「議会改革第2ステージ」、形式要件から実質要件を整え、地域課題を解決する議会、成果を出し住民の役に立つ議会を目指した改革を進めていかなければなりません。
また、「地方創生」が大きな政策テーマに上げられています。「地方分権」から「地方創生」に、こちらも形式要件から実質要件に、形式的な権限委譲から、「真の住民自治」を実現、定着させ、新しい地方を自ら創り育てる、それがこれからの地方創生の時代になります。よく、議会と行政の執行部は「車の両輪」と例えられます。しかし、本来、議会と執行部の間には、緊張感を持ったパートナーシップの関係が求められ、案件によっては意見が真っ向から対立する場合もあります。要するに、議会と執行部は、進む方向が違う場合もあり、厳密には「車の両輪」にはなりえないということです。
では、本来、議会と「車の両輪」となるべきものは何でしょうか。それは、議会事務局であると思います。議会は、地域の住民の民意を吸い上げ、様々な利害の調整を行い、意見集約をしていく場であり、その議会の活動を支援していくのが議会事務局の大きな役割です。これから、議会事務局の役割はますます重要になります。
議会事務局職員のネットワークの広がり
「議会改革第2ステージ」、議会とともに改革のもう一方の車輪を担う議会事務局職員のネットワークが全国に広がっています。老舗は、2009年3月に発足、関西を中心に活動をする「議会事務局研究会」。2011年6月には、関東地方で活動する「議会事務局実務研究会」が発足しました。この2つの研究会が、議会事務局職員有志による研究会であるのに対して、岩手県市議会議長会のもとで、2013年2月に立ち上げられたのが、「いわて議会事務局研究会」(週刊地方議会第21回「動き出した議会事務局」)です。筆者もアドバイザーとしてその活動に関わっています。同様に都道府県の市議会議長会がベースになっているのが、2016年5月、滋賀県市議会議長会に発足した「軍師ネットワーク」です。また、北海道では、北海道自治体学会の中に、2017年1月に「議会技術研究会」ができました。
今回のコラムでは、「いわて議会事務局研究会」が中心となり、その他の議会事務局職員のネットワークと連携して、2017年5月、岩手県北上市で開催した「議会事務局シンポジウム」を紹介するとともに、議会事務局職員と議員のありたい姿を考えたいと思います。
「議会事務局シンポジウム@北上」
「議会事務局シンポジウム」には、岩手県内を中心に、全国27市町の議会事務局職員、首長部局職員、議員など、100人が参加しました。
まず、冒頭、北川正恭早稲田大学マニフェスト研究所顧問が基調講演。「議会改革は、定数、報酬、政務活動費を減らすことではなく、民意を反映させ、監視機能、立法機能(政策立案機能)を議会が如何に果たしていくか。そのためにも、議会事務局の役割は大きい。議会事務局から議会局に進化してほしい」とエールを送りました。
次に議会側からの立場として、福島県会津若松市議会の目黒章三郎議長は、「会津若松の議会改革は、事務局のサポートがあってこそ実現出来た。事務局職員は、議会の補助職員として、決して議事の庶務的立場にとどまることなく、法制執務のアドバイスや他自治体の事例、全国議長会などから情報収集に意を用い、議論の活性化を促す職務がある」と持論を述べました。
各研究会の事例報告として、「軍師ネットワーク」の滋賀県大津市議会事務局清水克士次長は、「議会事務局職員は、議会の政策立案を支える参謀。机上の理論から考えない、通説、常識を疑う、ゼロベースで考える」など、議会事務局職員の心構えを話しました。
「議会事務局研究会」からは、研究代表の駒林良則立命館大学教授が、「地方議会改革を支える条件整備として、議会事務局の体制強化が必要だ」といった発足時の思いと、これまで開催してきたシンポジウム、まとめられた報告書などについて説明しました。
「議会技術研究会」の西科純前北海道芽室町議会事務局長は、「自治体の構成要素は、住民、議会、首長、行政職員。4者全てに関われるのは事務局職員しかいない」と事務局職員の仕事の広さとやりがいを強調。今後の課題として、議員間討議のモデルの構築としました。
地元「いわて議会事務局研究会」の中道俊之前岩手県滝沢市議会事務局長は、「議会事務局の顧客は、議員ではなく市民。議員へのスタンスは、支援が中心から、データの提供、意見具申、政策提案に。仕事への向き合い方は、前例踏襲、大過なくから、日々の気付きと行動が重要。行動原則も、法令、前例の範囲から、何でもありに拡大」と、新しい事務局職員像を提起しました。
シンポジウムのまとめとして、基調講演、事例報告の振り返りと、議会改革第2ステージに向けて議会事務局職員と議員のありたい姿を考えるワールドカフェを、筆者がファシリテーターになり、全員参加で行いました。事務局職員の意識改革や、議員と事務局職員の対話の重要性などが共有されました。
議会改革第2ステージおける議会事務局のシゴト
今回のシンポジウムの企画運営の中心を担った、「いわて議会事務局研究会」の岩手県久慈市議会事務局の長内紳悟主査は、シンポジウムを振り返り、次のように語っています。「今回のシンポジウム、参加者の半数は議員でした。それだけ議会改革を通して議員も事務局の役割に関心と期待を寄せ始めたという証拠だと思います。第1ステージでは、お互いがもしかするとパートナーではないか、車の両輪とは議員と事務局のことだったのではないかと気づき始めました。第2ステージでは、いよいよ議員の強み、事務局の強みをそれぞれ活かし、上下主従という関係ではない真のパートナーとして、議会からの政策形成を推し進める段階だと思います」。
議会改革の実質要件を整え、住民福祉の向上といった成果を出し続けるためには、議会と事務局との協働が不可欠であると思います。
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青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。