【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第52回 議会×高校生の「対話」で「地方創生」を~宮城県柴田町議会、岩手県久慈市議会の取り組み (2016/9/21 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第52回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「議会×高校生の「対話」で「地方創生」を~宮城県柴田町議会、岩手県久慈市議会の取り組み」をお届けします。
「地方創生」と議会
「地方創生」に議会はどのように関わることができるのか。第49回のコラムでは、「地方創生への議会の関わり方」というテーマで、岩手県宮古市議会の「定住化促進対策に関する提言」の取りまとめと総合戦略への反映について紹介しました。議会が特別委員会を立ち上げ、市民の声をワークショップやアンケートで確認、先進地の視察などを踏まえて、首長執行部に対して提言書を提出するといった、ある意味オーソドックスな取り組みでした。
また、第37回のコラムでは、「議会と高校生が創る地域の未来」というテーマで、岐阜県可児市議会が県立可児高校との協働で行う「地域課題懇談会」について紹介しました。議会のネットワークを活かし、医師会、銀行協会、商工会議所などの協力を得て、地域の大人と高校生との対話の場を作り、気付きと刺激を双方が感じあう取り組みです。議会が、地域の将来を担う高校生に積極的にアプローチし対話を行うことで、参加した高校生は、地域への思いと愛着を感じる有意義な場になっています。
2016年7月の参院選から18歳選挙権がスタートした影響もあり、可児市議会のような「議会×高校生」の実践が、全国に広がりをみせ始めています。今回は、宮城県柴田町議会、岩手県久慈市議会で行われた、議会と高校生の「対話」の場の取り組みを紹介するとともに、議会が地方創生に果たす役割を考えていきたいと思います。
柴田町議会 「高校生との議会懇談会」
宮城県柴田町議会は、2014年12月に「議会基本条例」を制定しました。通年議会の導入、2年ごとに条例の目的が達成されているかどうかの検証を実施するなど、議会改革に取り組んできました。また、町民との意見交換を積極的に進めるために「議会懇談会」を開催しているものの、開催スタイルが対面式のため、話し合いが討論になってしまい前向きな議論がされないこと、参加者が年配の人に偏ることなどが課題となっていました。
そうした課題に対して1期・2期の若手議員を中心に構成された議会広報委員会のメンバーと、議会事務局の職員が、改善を検討、町内唯一の高校である県立柴田高校の高校生とのワークショップ形式での議会懇談会を開催することになりました。開催に際しては、事前に柴田高校の校長先生などと打ち合わせを重ね、全面的に協力いただくこととなり、授業内(50分×2コマ)での開催となりました。また、ワークショップを経験したことがある議員が少なかったこともあり、事前に近隣議会の議員にも呼び掛けて研修会を開催し、進め方を確認しました。
2016年7月、「心地よい柴田町の魅力を活かすには?」をテーマに、筆者がファシリテーターとなって、ワールドカフェの手法で「高校生との議会懇談会」を行いました。当日は、柴田高校の3年生63人、町議会議員17人、町役場などの若手職員15人、合計95人が参加しました。
ワールドカフェでは、席替えをしながら、「柴田町の誇りに思うこと、残念に思うことは何ですか?」「20年後どんな大人になっていたいですか?」「20年後なりたい大人になっているために、今柴田町に必要な『場』『人』『仕組み』、皆さんに必要な『経験』は何でしょうか?」という3つの問いで、対話を行いました。そして最後に、「20年後なりたい大人になっているために、あなたが踏み出したい一歩は何ですか?」という問いに対して、それぞれが書き出し、代表者が全員の前で発表、感想を共有しました。
参加した高校生からは、「人生の先輩から話が聞けて自分の世界が広がった」「柴田町のことを話し合うことで前より興味を持つようになった」「今日のような場を継続してほしい」など評価する感想がたくさんありました。議員からも、「普段話を聞くことがなかった高校生の意見が聞け、新たな視点をもらった」などの意見が出ています。
久慈市議会 「高校生×ギカイ かだって会議」
岩手県久慈市議会では、2014年3月に「議会基本条例」を制定しました。その条例の中には、市民と議会が協働して市政課題について話し合う「かだって会議」を開催することが盛り込まれています。
2014年8月、条例に基づき初めての「かだって会議」がワールドカフェ形式で開催されました(コラム第20回 市民との対話が生まれる新しい『議会と市民との意見交換会』のあり方)。議会主催による市民と議会との意見交換会を、ワールドカフェ形式で開催した全国初の取り組みとなり、12月には、議員以外の参加者は全員女性という「女性版かだって会議」も開催されました(コラム第26回「ファシリテーション」を身につけ議会に『対話』の文化を)。
2015年度は改選期であったこともあり開催できませんでしたが、2016年度、地方創生、若者の意見を議会に反映させようという目的から、「高校生×ギカイ かだって会議」の開催が決まりました。開催に当たり、議長、副議長、議会事務局長で、市内および近隣にある県立久慈高校、久慈東高校、久慈工業の3校に参加のお願いに行きました。
高校生が夏休みの2016年8月、「みんなで考える20年後の久慈市の未来」をテーマに、筆者がファシリテーターとなり、ワールドカフェの手法で対話が行われました。当日は、高校生16人、市議会議員11人、地域内外の大人8人、合計35人が参加しました。問いと進め方は、柴田町議会で開催したやり方とすべて同じプログラムで行いました。議会事務局のアイデアで高校生には、議員缶バッチが配られました。
参加した高校生からは、「これまでは久慈に残りたいという思いはありませんでしたが、今回、普段接する機会のない地域の大人と話ができ、自分の知らなかった久慈の良さを発見し、気持ちに変化がありました」「行政には若者が残れるような取り組みを進めてもらいたいし、私たち自身もここに残れるよう、できることから取り組んでいきたい」といった前向きな感想が多く出ました。また、議員からは、「高校生だけでなく、私たち大人にとっても気づかされることが多い会議だった。地域の良さ、未来を語れる大人が増え、それを語りあえる場が増えていけば、高校生にも地元に残ろうという気持ちが芽生え、地元志向の若者が増えていくかもしれない」と評価する意見が多くありました。
議会×高校生の対話で「地方創生」を
「高校生×議会」の対話の場のプログラム、当日の進行は、それほど難しくはありません。意識しなければならないのは、議員以外の大人をある程度集め、多様な大人が参加する場にするよう工夫することです。ポイントは、議会内でのコンセンサスと、高校側の協力をいかに引き出すかです。
高校生の段階からの市町村の担い手育成は、これまで見過ごされてきたと思います。原因は、高校を所管する都道府県と市町村の縦割りの壁です。また、そこには、総務省と文部科学省、首長部局と教育委員会、住民自治と社会教育の大きな壁もあります。その壁を乗り越える力を地方議会は持っています。
可児高校の浦崎太郎先生(中教審生涯学習分科会学校地域協働分科会専門委員)は、高校生が大人と一緒に地域課題の解決策を探る学びの場は、課題解決に対する直接的な貢献度は低いが、地域課題に対する理解や当事者意識が高い市民の育成には効果があると話しています。また、医療や起業など、難度の高い地域課題の解決に必要な高い実力を、大学などで身に着けて帰郷(Uターン)する専門人材の育成という面でも、地域づくりの先行投資として期待できる、としています。
また、これからの時代、学校外の多様な人々とともに、子供や若者の成育環境を編み直していく作業が必要だと訴えています。地方創生の実現、地域を担う若手のリーダー育成には、高校生と多様な大人との「対話(ダイアローグ)」の場が一つのきっかけになることは、可児市議会、柴田町議会、久慈市議会の取り組みが証明しています。その場をコーディネートする力と役割が地方議会にはあると思います。
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青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。