チェルノブイリの教訓を福島に (2016/10/4 日本財団)
甲状腺がんの原因中心に議論
第5回福島国際専門家会議開く
東日本大震災での福島第一原発事故を受けて始まった「放射線と健康についての福島国際専門家会議」の第5回会議が9月26、27の両日、子どもの甲状腺がんをテーマに福島市内のホテルで開催されました。事故発生から30年を経たチェルノブイリの教訓を、事故から5年を経た福島にどう生かすかがテーマ。甲状腺検査をめぐっては「過剰診断・過剰治療」を指摘する意見が出されたのに対し会場から反論も出され、専門家会議では今後の検査の在り方などについて提言をまとめ追って福島県に提出する方針です。
会議はチェルノブイリ事故後、10年間にわたり周辺地域の子供の健康調査などに取り組んだ日本財団と笹川記念保健協力財団、さらに福島県立医科大、長崎大学の共催。世界保健機関(WHO)、原子力放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)、国際原子力機関(IAEA)など国際機関の関係者ら内外24人の専門家が参加し、日本財団の笹川陽平会長は冒頭の挨拶で「経験豊富な皆さまの研究成果のまとめや提言が今後の施策の指針となれば幸いです」と期待を寄せました。
会議は「チェルノブイリの教訓:事故から30年、国際的コンセンサスと甲状腺がんに関するエビデンスから放射線リスクを考える」、「甲状腺がん:チェルノブイリの事実、福島の課題」、「チェルノブイリから福島へ」の3つのセッションに分かれ各研究者が基調講演や研究報告を行い、200人近い医療関係者や研究者も出席しました。
甲状腺がんに関しては事故後、18歳未満の県民を対象に2回の健康調査が実施され、1回目は30万人、2回目は26万人が受診。1回目では116人、2回目は57人が悪性、あるいはその疑いがあると診断され、134人が甲状腺摘出手術を受けています。134人のうち133人は放置しても死亡につながるケースの少ない乳頭がん、残る1人も良性の結節だったと報告され、「原発事故に伴う外部被ばくの影響」とする意見から、精度の高い超音波検査を広範囲に行った結果、「本来ならがんと診断されることのない“偽りのがん”まで検出された結果」(過剰診断・スクリーニング効果)とする見方まで見解が分かれ、結論が出ていない状態です。
専門家会議ではロシア、ウクライナ、ベラルーシの研究者からチェルノブイリ事故に伴う甲状腺がんの発生状況にについて報告が行われ(1)チェルノブイリ事故では放出された放射線量も高く、子どもも汚染された牛乳を飲んでいた、(2)放射線被ばくで甲状腺がんが引き起こされるのは被爆から4、5年後。現に3地域とも事故から5年を経た1990年ごろから小児甲状腺がんが増加している、(3)福島事故で放出された放射線量はわずかで健康への影響はほとんどないーなど、原発事故と甲状腺がんの関係に否定的な報告が多く出されました。
県民健康調査を実施している福島県立医科大の研究者からも「精密な超音波検査を用いた甲状腺がんスクリーニングには過剰診断の結果、新たな不安を生むデメリットがある」、「過剰診断や過剰治療を防ぐことも重要」といった指摘が出され、韓国の研究者からは「国内4カ所の原発周辺住民を対象に甲状腺がんのスクリーニングと発症の増加を調査した結果、甲状腺がんは増えているのに死亡率に変化はなく、がんの増加は過剰診断の結果と考えられる」との報告もありました。
このほか「被ばくした人々の将来のがん統計に事故による被ばくが原因とされるような変化はないと考えられる」としながらも「状況の慎重なフォローと将来のさらなる調査が必要」といった指摘もありました。また専門家会議終了後の記者会見では過剰診断の指摘に関連して「スクリーニング検査を止めれば自分がどの程度の被爆をしたのか分からなくなる」といった疑問を提示する意見も出されました。
提言は時間をかけて年度内にもまとめられ、今後の県民健康調査の在り方に関する検討委員会の資料としても活用される見通しです。
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