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非営利組織にこそ求められる説明責任と事業の改善、「社会的インパクト評価」とは―担当者インタビュー(1) (2016/9/2 政治山)

社会的な課題解決に取り組むNPOやソーシャルビジネスの事業は、どのように評価されるべきなのでしょうか。その手法として欧米では積極的に取り入れられ、国内でも注目されている「社会的インパクト評価」について、社会的インパクト評価の推進・普及に取り組む日本財団 ソーシャル・イノベーション推進チーム社会的投資推進室の藤田滋さんにうかがいました。

藤田滋さん1

事業によって生じた変化と効果を評価する

政治山
社会的インパクト評価という言葉自体、あまり聞きなれないものですが、まず社会的インパクトとは何を指すのでしょうか。
担当者
社会的インパクトは、ある事業の結果として生じた、社会的・環境的な変化および効果(以下、アウトカムという)を指します。アウトカムには短期的なものと長期的なものがあり、社会的インパクトにはその双方が含まれます。
政治山
実施した事業ではない、外部的な要因が変化や効果に与える影響については、どのように考えるべきでしょうか。
担当者
事業の外にある要因によって発生した変化および効果は社会的インパクトには含みません。あくまでもその事業による結果を対象としています。一方で、どこまで厳密に外部的な要因を除外し社会的インパクトを測定するかは、評価の目的や組織のもつリソースを考慮して判断すべきでしょう。

社会的インパクト評価とは

支援プログラムの実施回数や参加者数は1つの指標に過ぎない

政治山
社会的インパクト評価というのは事業を採点するようなイメージになるのでしょうか。
担当者
社会的インパクト評価とは、事業の結果、支援対象者等に起こったアウトカムを検証することを指します。評価という言葉には確かに「採点」や「査定」といったネガティブな印象があり、抵抗感をもつ方もいるのですが、社会的インパクト評価は組織の成長や事業の改善などの「価値を引き出す」ものです。これまでは、例えば何がしかの支援プログラムの実施回数であったり、参加者数などのアウトプットが指標とされ、評価の対象となってきましたが、社会的インパクトに着目することで、組織や事業の目的の実現に近づけるものだと思います。
政治山
確かに、アウトプットに着目するだけだと、支援プログラムの規模や参加者の数に目を奪われて、そもそもの事業の目的を見失うことにもなりかねませんね。
担当者
はい。だからこそアウトプットよりもアウトカムを重視すべきなのです。事業の結果として、支援プログラムに参加した人やその周囲にどのような変化が訪れ、どのような効果が得られたのか、それを検証することで効果的・効率的な事業に改善していかなければなりません。

藤田滋さん2

「効果性の追求」が不十分だと「ニーズギャップ」が生じる

政治山
非営利組織の活動にも効率は求められるということですね。
担当者
限られた予算のなかで期待した成果をあげる、「効果性の追求」が重要なのは企業と変わりありません。しかし、非営利組織の活動の成果は、売上や利益といった指標では測ることが難しいため、成果のマネジメントや業務効率化への取り組みが難しいといえます。
政治山
効果性の追求ができないと、どのようなことが起こるのでしょうか
担当者
ここをしっかりやらないと、例えば何がしかの問題を抱え支援を必要としている人に対して、本当に求められているものが提供できず問題解決につながらないというニーズギャップが生じる恐れがあります。そうなると、何のための事業なのか分からなくなってしまいます。
政治山
社会的インパクト評価は、事業を継続し改善していくために必要であるということですね。
担当者

はい。社会的インパクト評価の目的は、大別すると以下の2点となります。(1)の説明責任ついては、とくに出資者や寄付者など資金提供者に対して、事業を説明する際に有効です。(2)はこれまでお話しした通り、事業の効果を組織内で共有することで事業と組織の改善に活かすことができます。

評価の目的

  • (1)説明責任を果たす…外部のステークホルダーに対して、社会的インパクトに係る戦略・結果を報告・開示すること
  • (2)学び・改善…組織内部で社会的インパクトに係る戦略・結果を共有し、事業/組織に対する理解を高め、意思決定の判断材料を提供することで、事業運営や組織の在り方を改善すること

資金の出し手にも同じモノサシで説明する

政治山
資金の出し手に対する説明にも用いられるのですね。
担当者
社会的な課題解決を目的とした事業の場合、目先の事業活動と長期的な目標の間、目標の実現に至る道筋を明確にすることが重要です。事業を行う側としては、「本当にこの活動で長期的目標を実現できるのか?」という資金提供者の問いかけに応えられなければなりません。社会的インパクト評価では、「ロジック・モデル」や「変化の理論(セオリー・オブ・チェンジ)」といった形で、目標の実現に至る道筋を明確にしますので、そういった問いかけにも応えることができるでしょう。
政治山
確かに、理念や目標には賛同できても、実際の活動と方針が明確でないと、資金の出し手としては決断が鈍りますね。
担当者
はい。事業者と資金提供者双方が「何を」、「どのように」達成しようとしているのかを事前に確認・合意することは、事業を進めていく上でとても重要なことです。そして事業が始まってからも双方が同じモノサシで進捗状況を確認できることが、説明責任において大きな役割を果たすことになります。

社会的インパクト評価では

政治山
説明責任と事業改善に有効なのであれば、この手法は自ずと浸透していくのではないでしょうか。
担当者
関心は高いのですが、実践している団体は多くありません。評価するには相応の知識とスキル、そして資金が必要ですが、すべてが不足しています。この現状を打破し、普及に向けた機運を高めるため、関連団体と協力して「社会的インパクト評価イニシアチブ」を発足させました。今後はこの活動を軸に、社会的インパクト評価の普及に取り組みたいと考えています。

次回は「社会的インパクト評価イニシアチブ」についてお話をうかがいます。

「事業に対する健全な懐疑心」がNPOやソーシャルビジネスを加速させる―担当者インタビュー(2)>>

<取材> 市ノ澤 充
株式会社パイプドビッツ 政治山カンパニー シニアマネジャー
政策シンクタンク、国会議員秘書、選挙コンサルを経て、2011年株式会社パイプドビッツ入社。政治と選挙のプラットフォーム「政治山」の運営に携わるとともにネット選挙やネット投票の研究を行う。

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