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子どもと高齢者の予算配分は1対7、貧困は「可哀想」ではなく「経済問題」―担当者インタビュー(2) (2016/7/15 政治山)

 「子どもの家」(仮称)構想について、日本財団でプロジェクトを担当している花岡隼人さんにお話を伺いました。

貧困問題は複合的な要因

政治山
子どもの貧困を何とかしなくてはいけない、という危機感は以前からあったのですか?
花岡さん

日本財団はこれまでにも学習支援事業をはじめ経済的に厳しい環境におかれた子どもたちに対するサポートを続けてきましたが、子どもの貧困問題がクローズアップされてきた中で、本腰を入れて取り組まなければいけない、という思いがありました。

子どもの貧困は「可哀想」として捉えるだけではなく、「経済問題」であるという考え方から、国民運動にしていき、予算を増やさなければ解決できないだろうということで、2.9兆円という子どもの貧困の社会的損失推計を出しました。

インタビューに答える日本財団ソーシャルイノベーション推進チーム・花岡隼人さん

インタビューに答える日本財団ソーシャルイノベーション推進チーム・花岡隼人さん

 

そして、問題の適示から課題解決の手段として何をすべきかと実態調査をする中で、現場の限界が見えてきました。一口に子どもの貧困問題と言っても、学習障害があるケースや学習遅滞、食べ物が与えられない、住む所がない…と複合的な要因があります。

行政は個々の問題に対して縦割りで、現場のNPOや社会福祉法人の方々は、限られた人員と予算で対症療法までしか手が回らないというのが現実でした。横断的な取り組みができる抜本的なプロジェクトが必要だということで、「子どもの家」事業が動き出しました。

2019年度までにある程度の成果出したい

政治山
「子どもの貧困」と聞いたとき、私たちは情緒的になってしまいますが、経済的な視点に立つことで冷静に国の重要施策と位置付けることができますね。
花岡さん

今回、パートナーとなっていただいたベネッセさんも、元々「Benesse=よく生きる」という理念のもとベネッセ財団で子どもの貧困問題にも取り組んできましたが、単体の企業でやっても限界があるとおっしゃっていました。幼児教育や教育政策について、経済学的な分析を実践されている中室牧子・慶應義塾大学准教授にも合流していただき、プロジェクトをどう進めるかを話し合いました。

米国では、50年単位でどのような教育支援が人生を豊かにするかの効果測定をするペリー幼児教育計画を行っています。中室准教授は、日本でもそうしたプロジェクトを日本で行い、有効な施策を提示したいという思いがあり、私たちの考えと合致しました。

100拠点と言っても、全国の小学校2万2000校からすれば0.5%にも及びません。大海の一滴で終わるつもりはなく、施策が有効かどうかを測定するのが私たちの使命です。子どもの貧困対策法の見直しが行われる2019年度までにある程度の成果を出したいと考えています。

縦割り行政を排除し横断的に連携したい

政治山
すでに関心を示している自治体は多いようですが?
花岡さん
全国各地の自治体からお問い合わせはいただいています。地域的な偏りはありませんが、沖縄や高知、大阪など西日本方面は特に関心が高いという印象です。
政治山
連携する自治体は、都道府県でなく、区市町村ですか?

インタビューに答える日本財団ソーシャルイノベーション推進チーム・花岡隼人さん

花岡さん

そうです。基礎自治体が事業の主体になります。子どもが通える徒歩圏内か自転車圏内…小学校区の範囲が「子どもの家」のエリアになります。

区市町村の教育委員会と連携しますが、そのほかにも生活保護や福祉分野の担当部署や、児童や青少年の担当部署など3部署くらいと横断的に情報交換します。例えば、就学援助をもらっている児童が学童クラブに登録しているかどうか、という情報は部署間の壁になっていて、個人情報審査委員会にかけなければいけません。そういった手続きを尻込みしない積極的な自治体と一緒に事業を進めたいと思います。

運営主体は地域のNPOや社会福祉法人

政治山
つい先日も、子ども食堂が全国に319カ所以上(5月末)に上り、今年になって急増しているという全国紙の報道がありました。2013年に「子どもの貧困対策法」が成立し、子ども食堂の取り組みがメディアでよく取り上げられている影響もあるようです。そういった子ども支援団体との連携はどのような基準で行う予定ですか?
花岡さん
各拠点で運営主体となるのは地域ごとのNPO法人や社会福祉法人です。第1号拠点の戸田市であれば、学習支援団体「Leaning for All」です。各地での連携は運営主体の対応になりますが、子ども食堂や学習支援団体がその地域にあれば、場所を提供するなどして連携できればいいと思います。
政治山
貧困問題の根を絶つという点で考えれば、一人親家庭を減らすような試みはないのでしょうか?
花岡さん
離婚や再婚は自由意思なので、個人的には難しいかなと思います。国の政策としては養育費を義務化しようという話もあります。一人親家庭を減らすというよりも、一人親になっても子どもをきちんと育てられる環境を用意したいということだと思います。

子どもの貧困問題は人格形成に影響

政治山
私の同世代にも離婚後に一人親で子どもを育てている友人が多く、養育費を受け取っている人はほとんどいません。
花岡さん
私の親もそうです。12歳で両親が離婚し、自分自身の人格形成に非常に大きな影響がありました。父親がいない寂しさというよりも、経済的な困難での影響です。様々なモノやコトが制限され、周囲と比較して惨めな思いをすることは多かったと思います。
政治山
一人親家庭の話でいえば、子どもの連れ去り問題もありますが、片方の親に連れ去られた子どもは、連れ去った側の親が一方の親の悪口を言い続ける結果、子どもは「見捨てた親が憎い」という感情が芽生え、攻撃的になったり自傷行為をしたりと、やはり人格形成に悪い影響を与えるそうです。

インタビューに答える日本財団ソーシャルイノベーション推進チーム・花岡隼人さん

2歳までに愛着形成

花岡さん
子どもは2歳までに愛着形成が行われると言われています。その年齢までに、絶対的に安心できる大人がいることが大切で、安心できない環境だと、成長してから社会性を身に着けることが非常に難しくなるそうです。
政治山
幼少期のトラウマは後から補うことはできるのでしょうか?
花岡さん
私たちが「子どもの家」でやろうとしている社会的相続の補完が、まさにそうです。自立する力は自己肯定観がベースにあり、自己管理能力が備わって、学習したい動機が生まれます。学習したいという意欲が芽生えれば、それが一つのゴールです。ピアノでもフィギュアスケートでも、意欲があれば、そこから先は友達の家や学校や助成制度や、努力次第で何らかの道筋はあると思います。

政策は経験でなくデータに基づいてほしい

政治山
どんな子どもでも、育つ環境は平等にしなければいけませんね。そのための環境整備に政治が果たす役割は大きいですね。
花岡さん
政治を動かすために「子どもの貧困の社会的損失推計」を出しました。データに基づいて政策が決定されればいいのですが、政治家の中には「私の経験によれば」とか「それに意味があるのですか」とか、経験や感覚で政策を語る方もいます。
政治山
「愚者は経験に学び、智者は歴史に学ぶ」ですね。
花岡さん
「ある例によると」と前置きすることも多いです。そういう目立つ事例は少なかったり、突飛な例だからこそ印象に残るので説得力もあるのですが、事実を誤認している場合も多いです。例えば、「ゲームは子どもの教育によくない」という先入観もそうです。
政治山
ゲームは予測能力を鍛える側面もありますよね。

インタビューに答える日本財団ソーシャルイノベーション推進チーム・花岡隼人さん

子どもに厳しい予算配分をブレイクスルーしたい

花岡さん

あるいは、勉強やお手伝いをすれば、ご褒美にゲームができるという報酬系の役割も期待できます。印象や偏見ではなく、データに基づいた政策決定が重要です。

政策面では、子どもと高齢者の予算配分率についても問題があります。現状の比率は子ども1に対して高齢者7の割合です。人口比で調整すれば1:4にまで下がりますが、それでも、子どもにとって大変厳しい国です。

高齢者が選挙の影響力を強く持つ以上、仕方のない側面はありますが、子どもを冷遇し高齢者に投資をすることが日本の未来を明るくするとは思えません。ここをブレイクスルーしたいという思いも、子どもの貧困問題を何とかしたいという気持ちにつながっています。

政治山
だからこそ若い人が政治に興味を持たなければいけないですね。「子どもの家」が子どもの貧困問題対策の先駆けとなるよう、政治山としても注目していきたいと思います。ありがとうございました。

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