那覇市長のマニフェスト達成度を議会で問い質す (2014/10/24 東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美)
4期目の途中である翁長雄志沖縄県那覇市長は、今年11月に予定されている沖縄県知事選挙に立候補を予定している。そこで、最後の議会となる那覇市議会9月定例会では、これまでの成果に関する質問が相次いだ。
マニフェスト評価シートによる検証質問
とりわけ注目される質問を行ったのが前泊美紀議員である。9月11日の本会議代表質問において、前泊議員は無所属の会を代表して、自身が市長選挙公約の項目を一覧表にした「マニフェスト評価シート(試作版)」を提示し、それをもとに市長のマニフェストに関する進捗度を検証する質問を行った。さらに、市長のマニフェストと総合計画の関係について質問した上で、市長自身がマニフェストに関する自己評価を公表し、それを市民も評価可能とすることでPDCAサイクルを回すことによって、「市民との協働によるマニフェスト」を実現させることを提言したのである。(映像はこちら)
マニフェスト評価シート(試作版)の一部
I 夢をかたちに-都市発展ビジョン-(29項目) | 平成26年度施政方針 | 平成25年度施政方針 | 第4次総合計画 | 達成度 | 備考 | |
---|---|---|---|---|---|---|
(一)みどりあふれる環境共生都市 | ||||||
住宅用太陽光発電、太陽熱利用システムの導入を図るとともに、新たな再生可能エネルギーの導入を推進する。 | ○ | ○ | ○ | 達成 | 取り組み継続中。 | |
屋上緑化・壁面緑化・緑のカーテン事業をさらに推進し、観光資源としても重要な街並みづくりを進める。 | ○ | ○ | ○ | 達成 | 緑化維持に課題あり。 | |
電気自動車やハイブリッド車など環境にやさしい車両をごみ収集車や公用車に導入する。 | ○ | 達成 | 取り組み継続中。 | |||
街灯管理労力の軽減を図るとともに節電を推進するため、自治会管理の街灯をLED化するための補助制度を新設する。 | ○ | 達成 | 庁舎地下駐車場を有料化し充当。 | |||
環境共生都市をリードするため、引き続き、ISO14001を推進する。 | ○ | 達成 | 継続実施 | |||
JICA沖縄センターやNPOとの連携により、ベトナム・ホイアン市やトンガ王国などとの協力事業を推進し、ごみ減量の実績を誇る環境都市・那覇を世界へ発信する。 | ○ | 達成 | 継続実施 | |||
カーフリーディを引き続き推進し、車に頼りすぎないまちづくりを継続して行う。 | ○ | 達成 | 具体的な成果は未確認。 | |||
貴重な水鳥が観察できる漫湖の生態系を維持し、環境教育に資する政策を推進する。 | ○ | 達成 | 事業実施を確認。 | |||
中核市移行に伴い沖縄県から移管される産業廃棄物処理関係業務を適正に行うとともに環境共生都市にふさわしい新たな環境政策を推進する。 | 達成 | ― | ||||
動物愛護センターを設置するとともに、動物や飼主にやさしいまちづくりを進める。 | 未達成 | 調査検討中。着手とみていいか。 |
(前泊議員より資料提供)
二元代表制が機能している那覇市議会
前泊議員の質問に対して、翁長市長は答弁のなかで、津波避難ビルが着工されたことなど成果をあげた一方で、空手道会館の誘致がかなわなかったことなどの「失敗」を率直に認めた。さらに、14年間の市政にあっては、社会情勢の変化などで、マニフェストや市の総合計画に「修正」が必要となったこともあり、そのような場合には市長が市民との直接対話を行い、説明責任を果たしてきたとも述べている。
2012年の市長選挙における翁長市長のマニフェストは全108項目から成る。2014年段階では、任期途中でもあり、未達成の項目があることも当然に想定される。さらに、総合計画やマニフェストに修正が必要になる事態も想定される。しかし、実際にそれを行うのは困難が伴う。なぜなら、未達成や修正を認めることは、議会での責任追及の集中砲火につながるおそれがあるからである。この点につき、議会において議員がマニフェストに掲げられた事項について問い質し、市長から率直な答弁がなされるという一連のやりとりが実現しているということは、那覇市において二元代表制が十分に機能していることの表れだと思われる。
マニフェストのPDCAサイクルをまわす
冒頭に記したように、翁長市長は来たる沖縄県知事選への立候補を予定している。その際に、どのようにマニフェストを作成するのか必ずしも明らかではないが、前泊議員が提案したように、マニフェストに対する評価及び市民との協働も視野に入れたマニフェスト作りが求められていると言えるだろう。
また、そのようにして作られたマニフェストに準拠することで、前泊議員のように市政の課題について、その対応状況と今後の課題について的確な質問が可能となる。その際に、マニフェスト評価シートのような評価基準を首長と議員で共有することは、一方通行にならない議論を実現させることになるだろう。マニフェストを掲げて選挙を戦う候補者が増えた現在、首長のマニフェストをもとに、議会での質疑が活性化するという今回の那覇市議会のような事例は各地で今後広がっていくはずである。
- 【取材協力】
東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美
1978年生まれ。東京大学法学部卒。2013年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院情報学環交流研究員。専門は、社会情報学・行政学。特に電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。共著本に『市民が主役の自治リノベーション』(ぎょうせい刊)がある。
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