かながわハイスクール議会2014傍聴記-シティズンシップ教育は「候補者」教育-  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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かながわハイスクール議会2014傍聴記-シティズンシップ教育は「候補者」教育- (2014/8/25 東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美)

 8月4日(月)、8日(金)、15日(金)の日程で、神奈川県庁において、かながわハイスクール議会2014が開催された。主催したのは公益社団法人日本青年会議所関東地区神奈川ブロック協議会。同会は今年で9回目。神奈川県内在住・在学の高校生が集まり、8つの委員会に分かれて議論を行い、最終日には県知事に対して県政に関する質問や政策提言を行うものである。集められる高校生の数は神奈川県議会の定数に合わせて107人で、今年はキャンセル待ちも出るほどの申込者があったとのことである。今回、このイベントの責任者であり同協議会地域コミュニティ創造委員会米村和彦副委員長にお誘いいただき傍聴する機会を得たため、そのレポートをしたい。

かながわハイスクール議会2014 3日目、神奈川県議会の本会議場で、黒岩知事への質問と政策提言

かながわハイスクール議会2014 3日目
神奈川県議会の本会議場で、黒岩知事への質問と政策提言

高校生議長を投票で選出、高校生議員による委員会運営

 初日である8月4日は、開会式の後、議長選出選挙が行われた。これは今年初の試みとのことだが、3人の議長立候補があり、彼らが演説を行った上で、投票が行われて議長が選出された。その後、参加者は各委員会に分かれて議論を行った。この日は、県の担当職員が招かれ、テーマに応じた県の事業などの説明と質疑が行われた。そして、初日の最後には、根本復興大臣による講演と高校生達とのディスカッションが行われた。

 2日目の8月8日は、終日、各委員会で議論が行われ、最終日に知事に対して行う質問と政策提言の案が練られた。この日は、主に第二委員会を傍聴したが、昨年もこのイベントに参加したと思われる参加者が「曖昧な質問をすると知事ははぐらかした答えしかしてくれない。質問すべきことはズバリ質問すべき」と発言すると、「追及ばかりしても、建設的な質問にはならない」と応答する参加者がいたりと、白熱したやりとりを目にすることができた。最後に質問や政策提言を作成する際にも、一字一句にまで拘り、質問の読み方まで参加者同士で検討していたことが特に印象に残った。
参考:かながわハイスクール議会2014 2日目ご報告(外部サイト)

委員会の一覧

第一委員会 福祉 少子高齢化、待機児童、介護などの県の福祉施策に対して、問題点や高校生ができることを考える。
第二委員会 政治 投票率の低下やまちづくりへの参画意識の希薄といった問題から、県政のあり方や政治への関わり方を考え、広く市民の社会参画意識の向上に必要なものを考える。
第三委員会 食文化 「和食」の無形文化遺産登録により、日本食が注目されています。神奈川県の食材や食文化をどうPRし保護していくか考える。
第四委員会 復興 東日本大震災から、被災当時の状況を振り返り、人々の絆・地域の繋がりの大切さを風化させないために、取り組むべきことを考える。
第五委員会 情報化社会 日々の生活に大きな影響を与えるICT技術の発達の中で、利便性や危険性を伝える教育が不可欠になっている。高校生が正しい知識でICTを使いこなせるように、できる対策を考える。
第六委員会 基地・駐屯地 米軍基地や自衛隊駐屯地を多く抱える神奈川県に暮らしていく中で、共存のためにまちとして、住民としてどう関わっていくかを考える。
第七委員会 日本人の心 東京オリンピックの開催も決まり、国際的な注目が集まる中で改めて日本の良き伝統や文化、日本人の美徳というものを見直し、誇れる日本となるために必要なことを考える。
第八委員会 地域活性 横浜や川崎といった大都市とは異なる地域性を踏まえ、神奈川県西部地域の特色・魅力とは何か。活性化、発展性について考える。

委員会の質問をはぐらかす知事!?

 3日目の8月15日には、県議会議員しか入ることが許されていない神奈川県議会の本会議場を使用して、黒岩知事への質問と政策提言が行われた。まず各委員会から質問があり、それに知事が答える。そして、各委員会から政策提言がなされ、知事が総括コメントを行うという流れであった。黒岩知事が総括コメントでも言及されたように、実際の県議会での質疑と同様に知事が答弁の内容を事前に準備してきたとのことで、1つひとつの質問に対して非常に丁寧な答弁がされていた。

 しかしながら、どの委員会からの質問も、その構成は、現状の問題点・それに対する現在の神奈川県の対応・考えられる今後の対応策となっており、それらが簡潔にまとめられているのに対して、知事の答弁は丁寧に質問に答えようとするあまり、問題の背景や現状の説明、個人的な思いに多くの言葉が費やされてしまった感が強い。「知事ははぐらかした答えしかしれくれない」という感想を高校生に持たれてしまうことのないよう、簡潔にまとめられた質問にはまず簡潔に答えるということをすると、より分かりやすく納得感のある答弁になったはずである。なお、実際、傍聴席では、「知事はきちんと高校生の質問に答えていない」という感想が漏れ聞こえていたことも付記したい。

学生が教職員に教育をするという斬新な発想

 政策提言については、直ぐにでも採用されるべき優れたものや高校生ならではの独自の視点に基づいた斬新なものがあり、いずれも現職議員が行う政策提言と比較しても決して遜色のないものであった。特に印象に残ったのは、第五委員会「情報化社会」による「中学生から大学生を集めた情報議会を定期的に開き、情報教育について議論し、彼らが中心となって教職員に対して情報教育を行う」という提案であった。第五委員会から黒岩知事に対して、県としてどのようなスタンスで情報教育を行うべきと考えているのかという趣旨の質問があり、それに対して黒岩知事は、自分たちの世代より高校生たちの方が情報機器の扱いにも長けており、情報化社会にも適応できているのではないかとの率直な答えを行っていた。その答弁を想定したかのように、「では、自分たち学生の側が教職員に対して情報教育を行ってしまおう」という提案は非常に斬新かつ的確なものであったと思われる。この提案は、黒岩知事も総括コメントの中でも代表して取り上げたい提案として紹介されていた。黒岩知事をして「一本取られた」と思わせる優れた提案であったということだろう。
参考:提案の詳細(外部サイト)

ああ

将来、県議となってこの議場に戻ってくる高校生がいるかも?

シティズンシップ教育は「候補者」教育も担う

 3日目最後は、神奈川県議会の小川副議長による挨拶であった。その中に、かながわハイスクール議会の参加者や運営を担った青年会議所のメンバーから国政や県政に挑戦する人が現れてほしいという言葉があった。青年会議所出身の神奈川県議が実際に臨席しており、小川副議長の挨拶中に紹介もされていたが、この小川副議長の言葉は非常に重要な点を突いていると言えよう。

 このかながわハイスクール議会のように、議場などを利用して学生に議員の疑似体験をさせるイベントは全国で行われている。この種のイベントはシティズンシップ教育の一環として行われるものであるが、シティズンシップ教育は、ともすると、選挙権をきちんと行使する市民を育てることに重心が置かれ過ぎてしまうきらいがある。しかし、大半の人が一定の年齢を越えれば被選挙権を有することになるのであり、実際に立候補するかどうかは別として、多くの人が「自分が議員になったらどうするのか」ということは常に考える必要があるはずだ。自分とは関係のない人が議員をやっているのではなく、自分自身も議員になる資格を有し、議員になる可能性もある。かながわハイスクール議会は、自分が議員になったら、どんな質問や政策提案を行うのか体験する貴重な機会となるのであり、「候補者」教育を行う場ともなるのである。

 関係各所の全面的な協力により、非常に密度の濃いイベントとなっており、来年以降も継続して実施されることを願ってやまない。

本田正美氏【取材協力】
東京大学大学院情報学環交流研究員 本田正美

1978年生まれ。東京大学法学部卒。2013年、東京大学大学院学際情報学府博士課程単位取得退学。現在、東京大学大学院情報学環交流研究員。専門は、社会情報学・行政学。特に電子政府に関する研究を中心に、情報社会における行政・市民・議会の関係のあり方について研究を行っている。共著本に『市民が主役の自治リノベーション』(ぎょうせい刊)がある。
関連サイト
かながわハイスクール議会2014 事業概要(外部サイト)
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