[用語解説]陣中見舞い、当選祝い
「陣中見舞い」や「当選祝い」を行う際の注意点 (2020/9/3 関東学院大学経済経営研究所・客員研究員 本田正美)
「陣中見舞い」や「当選祝い」を行う機会となったら
政治家が行おうとする場合、法律に抵触しないように気を遣う必要がある「陣中見舞い」や「当選祝い」。
政治家による「陣中見舞い」や「当選祝い」は可能なのか
全国各地で毎週のように選挙が行われており、その分だけ「陣中見舞い」や「当選祝い」の機会があることになる。特に地方議会議員選挙であれば、友人や知人、同じ地域に住んでいる人など何らかの関係がある人が立候補して当選するということもあるはずで、政治家に限らずとも「陣中見舞い」や「当選祝い」を行う機会が巡ってくることもあるだろう。自分と全く無縁な人が立候補し、そして当選したとしても、何とも思わないだろうが、何らかの関係があれば、「陣中見舞い」や「当選祝い」をしなければと思うこともあるはずである。
では、自らが「陣中見舞い」や「当選祝い」をしようとなったとき、どんなことに気を付ける必要があるのだろうか。
「陣中見舞い」の注意点
まずは、「陣中見舞い」から。
地方議会議員選挙で自らに関係のある人が立候補するとなると、一番多いのは小学校や中学校あたりの同級生の一人がという場合だろうか。数少ない機会だから応援の意味を込めて「陣中見舞い」でもと思ったときに、注意すべき点がある。
「陣中見舞い」や「当選祝い」は政治家(現職の公職者の他に候補者や立候補予定者も含まれる)に対する寄附とみなされる。
「陣中見舞い」を行う場合、それは2つのケースが想定される。ひとつは選挙期間外に行うケース、もうひとつは選挙期間中に行うケースだ。分かりやすいのは選挙期間中に行うケースの方だろう。選挙が始まったので、選挙事務所に「陣中見舞い」を持って訪問しようという場合だ。
◇政治資金規正法第二十一条の二
何人も、公職の候補者の政治活動(選挙運動を除く。)に関して寄附(金銭等によるものに限るものとし、政治団体に対するものを除く。)をしてはならない。
政治家に対する寄附について規定するのは、政治資金規正法第二十一条の二である。この条文は分かり難い書きぶりになっているが、選挙期間中は、条文の中の括弧中にある「選挙運動」を行っている期間となる。その「選挙運動を除く」とあるので、選挙運動については「寄附(金銭等によるものに限るものとし、政治団体に対するものを除く)をしてはならない」という部分が当てはまらないということになる。
つまり、選挙期間中は寄附を行うことが出来るということである。寄附として想定されているのは、条文にもある金銭等の他に物品によるものも含まれる。金銭等とは、現金の他に有価証券のことであり、「陣中見舞い」を行うとなったときに、相応の金額の現金を包んで持って行くことが可能である。物品による寄附でも良いので、お花などを持ち込むことも可能だが、注意が必要なのがお酒の類いだ。
◇公職選挙法第第百三十九条
何人も、選挙運動に関し、いかなる名義をもつてするを問わず、飲食物(湯茶及びこれに伴い通常用いられる程度の菓子を除く。)を提供することができない。
お酒は「飲食物」に含まれるため、「陣中見舞い」として政治家に渡すことはできない。「陣中見舞い」としてお酒が選挙事務所に持ち込まれるという話を耳にすることはあるが、厳密に解すればそれは政治資金規正法違反となる可能性がある。なお、後に言及するが、渡せる金額には上限があるので注意したい。
選挙期間外に、「陣中見舞い」を行うことも想定される。選挙が始まる前に、立候補するという話が出回るので、その段階で「陣中見舞い」を渡すこということもあり得る。この場合には、選挙期間外に寄附を行うことになる。「陣中見舞い」の本来的な意味で言えば、選挙戦の開始をもって、それを行うということになるとは思うが、実際には選挙戦が始まる前から「陣中見舞い」として金銭や物品を持ち込む人はいる。
こちらの場合、先の政治資金規正法第二十一条の二の「選挙運動を除く」という部分が該当しない。選挙期間外には、政治家は政治活動を行うことになっており、もし、選挙期間外に選挙運動を行うと、公職選挙法で禁止されている事前運動を行ったことになってしまう。
先の条文にあるように、政治活動に対しては、金銭等による寄附を行うことが禁じられている。つまり、選挙期間外に「陣中見舞い」を行うのであれば、金銭等以外の方法で行う必要がある。この場合、お酒やお花といった物品を持ち込むことになる。こちらの選挙期間外の「陣中見舞い」についても金額の上限があるので注意したい。
「当選祝い」の注意点
次に、「当選祝い」について。
いざ投開票が終わって、候補者が当選した場合、お祝いをしようとなった際にも注意点がある。「当選祝い」も政治家に対する寄附ということになるが、その性質上、必ず選挙期間外に行われることになる。つまり、「当選祝い」は選挙期間外に政治家が行う政治活動に対して行う寄附ということになる。
こちらも先に上げた政治資金規正法第二十一条の二が適用されるため、選挙期間外に行う「陣中見舞い」と同様に、金銭等以外の方法で行う必要がある。選挙事務所や国会議員の議員会館の部屋に当選祝いとして持ち込まれるお花は、まさにこの「当選祝い」である。もちろん、「当選祝い」に現金を包んで持っていくということはできない。「当選祝い」は物品でというのが原則であることは確認しておきたい。
なお、「陣中見舞い」の注意点で、金額に上限あるとしたが、「当選祝い」についても同様に上限ある。と言うよりも、ここまで上限金額の数値を示してこなかったが、それは個人による政治家に対する寄附には年間150万円という上限が設定されていることによる。「陣中見舞い」や「当選祝い」について、個別に上限金額が設定されているのではなく、政治家に対する年間の寄附額という上限が定められているのだ。
◇政治資金規正法第二十二条2
個人のする政治活動に関する寄附は、各年中において、政党及び政治資金団体以外の同一の者に対しては、百五十万円を超えることができない。
なかなか、個人で一年間に150万円を寄附するということはないかもしれないが、「陣中見舞い」と「当選祝い」は合わせて行うことにもなるため、一応の注意が必要だろう。
繰り返しになるが、政治家以外の一般市民が政治家に対して行う「陣中見舞い」は、選挙期間中に行うのであれば、金銭等か物品で。選挙期間外であれば物品で。そして、「当選祝い」は必ず物品で。良かれと思って行っても法律に違反する可能性もあるので、細心の注意を払いたい。
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