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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第96回 組織に変革のムーブメントを起こす~早大マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すもの(7) (2020/3/26 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第96回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

2019年度人材マネジメント部会の研究会の様子4

写真はすべて、2019年度人材マネジメント部会の研究会の様子

「変革のシナリオ」を考える

 早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会のプログラムでは、まず参加者は組織の現状を確認し(第94回「自治体組織の現状を緻密に多層的に探求する」)、次に組織の「ビジョン(ありたい姿)」を明確に描き(第95回「バックキャスティングで組織と地域のビジョンを描く」)、最終的にありたい姿に向かっての組織の「変革のシナリオ」を考えてもらう。

 これまでの部会参加自治体の活動を振り返ると、変革のシナリオに盛り込まれるアクションは、大きく2つに分類される。一つは、組織変革の思いを共有する仲間を作る、増やすための「ゲリラ」的な活動。もう一つは、制度、仕組みの構築、見直しなど「オフィシャル」な取り組みを目指すものだ。

 ゲリラ的な活動とは、部会通信を発行し部会での学びを共有したり、自主勉強会(第15回「職員の意識変革の一歩として、職員自主勉強グループの立ち上げを」)を立ち上げたり、「オフサイトミーティング」(第67回「組織の関係の質を上げるオフサイトミーティングのすすめ」)を開催したりすることだ。オフサイトミーティングとは、業務時間外に所属を超えて気楽に真面目な話をする場である。

 オフサイトミーティングのプログラムとして、対話型財政シュミレーションゲーム「SIMULATION2030」を実施したり、事前に読んでくる必要のない読書会「アクティブ・ブック・ダイアローグ(ABD)」(第83回「アクティブ・ブック・ダイアローグで学び直しを」)を開催する自治体もある。また、参加者が所属する職場での朝礼の実施など、職場の関係性改善に取り組むケースもある。ゲリラ的な活動は取り組みやすく直ぐに実行できるが、継続するにはモチベーションを保つ必要がある。

2019年度人材マネジメント部会の研究会の様子1

 一方オフィシャルな取り組みとしては、既存の研修の改善(第70回「管理職になりきれない症候群を如何に克復するか」)、人材育成基本方針の見直し(第51回「職員自らが対話型研修で作る職員行動指針」)、人事評価制度の導入など、庁内の制度や仕組みに関わるものだ。オフィシャルな取り組みは、提案だけではなく実現されなければ意味がない。実現するには庁内での根回し、調整が必要になる。また先進自治体の取り組みのベンチマークなど緻密な制度設計が必要で、実現までの難易度は高い。ゲリラとオフィシャルの取り組みのバランスが欠かせない。

また、変革のシナリオを考える上で、時間軸を考える必要がある。ありたい姿からのバックキャスティングを意識して、いつまでにどんな状態にしたいか。そのために誰を巻き込むか。どんな働き掛けをするか。上手くいったら次の打ち手は何か。上手くいかなかったらどうするか。そこまで考えるのが変革のシナリオだ。

2019年度人材マネジメント部会の研究会の様子2

「人や関係性の課題」を常に意識する

 「組織開発」の大家、南山大学の中村和彦教授の著書「入門 組織開発」によると、カミングス&ウォーリーという研究者たちが、組織には、「戦略的な課題」「組織構造、業務手順の課題」「人事制度の課題」「人や関係性の課題」の4つの問題が起きやすいと指摘している。

 自治体組織に置き換えると、戦略的な課題とは、総合計画を明確に定め、政策評価などをどう実施するか。組織構造、業務手順の課題とは、組織体制、業務フロー、働き方改革などをどうするか。人事制度の課題とは、人事評価制度、人材育成基本方針、研修制度などをどう構築、運用するかである。この3つの課題は、比較的組織の仕組みや制度といったハードの話である。

 部会の参加自治体の変革シナリオの中にも、こうしたハードの部分に働きかける、オフィシャルな取り組みの提案がよくある。一方、人や関係性の課題とは、組織内の人と人との間で起こる、コミュニケーション、意思決定、リーダーシップ、関わり方、風土や文化などである。

 ハードが上手く機能するためには、ソフトである組織の人や関係性の側面を無視することはできない。また、すべてのことに人やその関係性の問題が関わっている。仕組みや制度のソリューションを組織に入れるだけでは組織は変わらない。変革の打ち手として、仕組みや制度を導入するにしても、それを入れる際に生じる人や関係性の課題を常に意識するよう注意しなければならない。

2019年度人材マネジメント部会の研究会の様子3

マネ友を「コアネットワーク」に

 部会には卒業はないと言われている。1年間のプログラムを修了した後も、マネ友(人材マネジメントの友達、仲間)として、組織や地域の変革に引き続き取り組んでいくことが期待される。

 スコラ・コンサルトの柴田昌治さんは、組織変革には「コアネットワーク」が必要だという。「コアネットワーク」とは、「志」「ものの見方」「価値観」「思い」で結び付いた超組織的なインフォーマルネットワークであり、組織変革という仕事を組織に根付かせていく役割を果たすシステムだという。組織、地域を良くしたいという共通の価値観を持っているのがマネ友だ。マネ友には各自治体組織のコアネットワークになってもらいたい。組織の中には、職場や組織の問題に対して、「自分一人が言ってもしょうがない」と一人で諦めている人が少なからず存在する。しかし皆で思いを共有することができるネットワークがあると、一人でできないことは、他の人の協力を得ながら変えていけると言った安心感や信頼が生まれてくる。

 柴田さんは、コアネットワークを作り上げるためには、エネルギーを感じられる「場」、自由で素直な意見交換ができる「場」が必要だという。その場にはいくつか種類がある。変革の思いを持つマネ友同士がじっくりと語り合う個別の話し合いという「場」。マネ友が中心になって各部署から幅広く参加者を集めて行うオフサイトミーティングという「場」。研修という制度を利用して、オフサイトミーティング的な「対話」が行われる「場」を作る。プロジェクトチームなどのオフィシャルな全庁的運動の「場」も活用できるかもしれない。

 マネ友の活動への熱意が、様々な「場」の質を上げ、参加、共感する職員が増え、庁内のネットワークを広げ、最終的に個人の仕事のパフォーマンス、組織のパフォーマンスを上げていく。

2019年度人材マネジメント部会の研究会の様子6

「自己組織化」された組織を目指す

 雪の結晶、生物の細胞やDNAなど、自律的に秩序を持つ構造を作り出す現象のことを、自然科学の分野では「自己組織化」と言う。この考えは、社会科学、経営学の分野にも応用されている。組織は、外部の誰かに作られるものではなく、組織自体の内的なプロセスから作り上げられ、自らの目的を達成するために自律的に行動する、と言う考え方だ。

 人は、放っておいても、自由な環境を与えれば、主体性と創造性を発揮するという思想を背景にしている。上司に指示されて動くのではなく、組織や地域を良くするための取り組みを、それに関係する人が主体的に「対話」を通して考え、自ら動いていく状態が、自己組織化された組織である。「こんなことやってみませんか!」「私も手伝います!」「オフサイトミーティングしませんか!」「職場の仲間に声掛けます!」などといった前向きな会話が飛び交う職場や組織である。

2019年度人材マネジメント部会の研究会の様子5

 ではどうすれば自己組織化された組織を創ることができるのか。物理学者のイリヤ・プリゴジンは、自己組織化を生み出す3条件として、「オープン(開放系)」「ダイナミック(非平衡系)」「ポジテイブ・フィードバック(自己加速系)」を上げている。

 組織変革に置き換えると、オープンとは、変革のプロセスを常にオープンにして、誰でも参加できるようにすること。ダイナミックとは、何かしらの刺激やゆらぎが継続する状態を作ること。例えば、オフサイトミーティングを継続して行うことも組織へのゆらぎの一つである。ポジテイブ・フィードバックとは、どんなことでもポジテイブに捉え、ビジョン、ありたい姿につながるものと意味付けて、生かしていくこと。職場や組織で「対話」を通して意味付けを確認していくプロセス、営みが欠かせない。

 部会の部会長を務めるフロネシス・インスティテュートの出馬幹也さんは、人材マネジメントとは「本当の笑顔」を創る技術と定義している。具体的にありたい状態として、何をどう目指しているのかを、皆が共有できている。強みが活きる仕事分担をし、皆が納得している。仕事で後悔しないため、互いに声を掛けている。その結果として、自分の仕事によって誰かに貢献できている実感がある状態だ。部会は正に、自己組織化された自治体組織を目指している。マネ友には、その中心として、組織に変革のムーブメントを創っていってもらいたい。
(次回に続く)

2019年度人材マネジメント部会の研究会の様子7

 

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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(5)自治体組織の現状を緻密に多層的に探求する
(4)「人材開発」と「組織開発」の両方を射程に入れる
(3)「話し合いの質」が地域、組織の質を決める
(2)組織の「関係の質」を高めることが組織のパフォーマンスを上げる
■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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