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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第51回 職員自らが対話型研修で作る職員行動指針~福島県相馬市役所「チーム絆」の対話型研修の実践から (2016/9/15 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第51回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「職員自らが対話型研修で作る職員行動指針~福島県相馬市役所「チーム絆」の対話型研修の実践から」をお届けします。

チーム絆のメンバー

チーム絆のメンバー

人材マネジメント部会と相馬市役所「チーム絆」

 早稲田大学マニフェスト研究所では、自治体職員向けの研究会である人材マネジメント部会を2006年に立ち上げ2016年度で11年目、今年は全国から79の自治体に参加していただいています。私もこの部会の幹事として運営に関わっています。

 人材マネジメントとは、「人の持ち味を見つけ出し、それを活かし、到達したいゴールに導くこと」。そして、この部会の研究課題は2つあります。1つは、生活者起点で発想し、関係者と共に未来を創っていける職員にどうすればなれるか、といった職員の意識改革、人材育成がテーマ。もう1つは、職員の努力を、地域の成果へとつなげられる自治体をどのように実現するか、といった組織変革がテーマです。

 誤った「思い込み」を捨て去り(“ドミナント・ロジック”を転換する)、生活者起点で物事を考え(立ち位置を変える)、ありたい姿から今を考え(価値前提で考える)、何事も自分事に引き寄せて考え(一人称で捉え語る)、勇気を持って一歩前に踏み出し行動する職員を育て、組織を作ることを目指しています。

 福島県相馬市は、この部会に参加して9年目になります(途中東日本大震災があったため、1年派遣の見送りがあり、参加者は8期生)。2010年、部会に参加した3期生メンバーたちが、学んだ思いを庁内に広めるために自主研究グループ「相馬市人材マネジメント研究会」(通称「チーム絆(コラム第4回参照)」、各期3人の現在24人)を立ち上げました。その後震災を乗り越えながら、継続して職員の意識改革、組織の変革に取り組んでいます。今回は、チーム絆が取り組む、対話型研修による行動指針の作成を事例に、自治体の組織変革について考えたいと思います。

チーム絆による係長職対話型研修の様子1

チーム絆による係長職対話型研修の様子

職員自らファシリテーターを務める対話型研修への思い

 相馬市の人材マネジメント部会参加者も8期生になり、部会を経験した職員(部会では「マネ友」と呼称)は、課長、課長補佐、係長と組織の中枢を担う人も多く出てきています。そうしたマネ友である農林水産課の伊東充幸課長と、部会の幹事でもある秘書課の阿部勝弘課長補佐の問題意識は、個人の意識改革を組織変革につなげることでした。具体的には、組織がもっと効率的、横断的に機能するためには、各職層の役割や、職層に合った行動指針が明確化される必要があるということでした。

 この変革のビジョンを具体化させるため、2014年度から3年間の戦略として、初年度は、知識の提供・理解と認識の深化の段階、2015年度は対話文化の定着の段階、2016年度は内発的意識変化の醸成の段階、と位置付け、部会の出馬幹也部会長(フロネシス・インスティテュート代表取締役)の支援をいただきながら、対話型職員研修を実施することにしました。

 この研修の特徴の1つは、一方向の講義型ではなく、双方向の対話型であることです。「対話(ダイアローグ)」とは、互いの立脚点を明らかにし、相手を論破するような話し合いである「討論(ディベート)」とは違い、違いに耳を傾け、意見の多様性を知り、新しい知見を得るような話し合いのスタイルです。こうした対話の理念をベースにした研修です。

 もう1つの特徴は、人事セクションとは関係ないチーム絆のメンバーが、トップマネジメントの理解と出馬部会長のサポートの下、企画運営を全面的に担うということです。実際の研修のメインファシリテーターを伊東さん、阿部さんが行い、その他のメンバーはテーブルファシリテーターとなり、良質な対話の場を作るお手伝いをします。今後組織を支えることとなるミドルマネジメントとして、自分たちと同世代に対しての強い想いと責任感からの取り組みになります。

チーム絆による係長職対話型研修の様子2

チーム絆による係長職対話型研修の様子

対話型研修から職員行動指針へ

 チーム絆では、2014年度の取り組みとして、課長補佐・係長を対象に、2回のクラス別対話型研修を実施しました。(1)課長補佐・係長になって感じたことは?(2)課長補佐・係長としてのありたい姿は?を問いに対話を行いました。「これまで同じ職種の職員とこんなまじめなテーマで意見を交わすことはなかった」「実はほかの係長(課長補佐)はどう思っているか気になっていた」「自分だけの悩みじゃないことが分かった」などの意見が終了後にたくさん出てきました。世間話ではなく、まじめなテーマを話しやすい雰囲気の中で語り合う良さと、同じ職層の人との対話を通し、日ごろ考えていることを話し合い、気付きを得ることを体感してもらうといった当初の目的は達成できました。

 それを発展させ2015年度には、部長・課長職層に対しては出馬部会長が、課長補佐・係長職層に対してはチーム絆のメンバーがファシリテーターとなり、それぞれの職層としての役割と行動指針のたたき台について考える職層別対話型研修を行いました。部長・課長職層については、(1)改めて部課長が果たすべき役割とは何か?(2)部課長の役割を果たす上で難しいのは何か?(3)仕事の管理として、優先順位付けと組織の編成はどうあるべきか?(4)人材の管理として、持ち味の見極めと適所配置をどう考えるか?(5)課長としての行動指針はどうあるべきか?のそれぞれのテーマで計5回。

出馬さんによる部課長職対話型研修での講演

出馬さんによる部課長職対話型研修での講演

 課長補佐・係長職層でも、(1)課長補佐・係長の現状は?組織全体の現状は?(2)課長補佐・係長のありたい姿は?(3)ありたい姿実現のための課題は何か?どのように行動すべきか?(4)課長補佐・係長としての行動指針はどうあるべきか?のそれぞれテーマで計5回、じっくり対話を行いました。

 研修の効果として、各課係内の垣根を越えて、本音で相談、話し合える環境が整い始めてきました。また、周りを気遣える雰囲気も出ています。関係課長が話し合える「関係課長会議」などが開催されるといった、内発的な変化も起きています。最終年度の2016年度は、それぞれの職層のワーキンググループが中心になり、一般的なものではなく自分たちの言葉で、相馬市オリジナルの、それぞれの職層の役割と行動指針をまとめあげる作業を行っています。また、策定後の行動指針のチェック制度の構築についても議論しています。今後、各役割を認識した状態の組織へ成長することを目指し、役職を超えたミックス研修も計画されています。

対話をする部課長職

対話をする部課長職

 これまでの取り組みを振り返り、伊東さんは「他自治体の模倣やお仕着せの行動指針ではなく、自ら考え創ることに意味があり、自分たちで作った納得感をもって実行していこうという気持ちの醸成に寄与できたと思います。同じ職層同士で真面目なテーマを話し合う機会はこれまでになく、この研修以降、同じ職層同士の横の風通しがよくなったと感じている職員も増加しています。さらに、これまで以上に、そこかしこで問題解決のための相談や、連携を図るための対話がみられるようになったことで、所期の目的の対話文化定着を実感しています」と話しています。

 また、阿部さんは「市長、副市長と対話型研修で目指す組織の姿を共有し、人事セクションとの協働があり、そしてチーム絆メンバーの協力があって、この対話型研修が有意義なものとなっています。部課長職、課長補佐職、係長職を同時に進める困難もありますが、組織全体で意識付けが進んできたと感じます。しっかり成果につなげたいです」と話しています。

係長職課長補佐職対話型研修で出た意見

係長職課長補佐職対話型研修で出た意見

職員の意識改革、組織変革

 職員の意識改革という言葉をよく耳にします。改革というのですから、何かを何かに変えることですが、それを明確に答えられる首長、そして自治体職員は少ないと思います。職場の風通しを良くするなどといわれたりもしますが、抽象的で良く分かりません。

 私の考える自治体職員の意識改革とは、中央集権時代の「指示、通達待ちの人材」から、地方分権、地方創生時代の「課題発見、解決型人材」に転換することだと思います。そのためには、冒頭でも述べたように、誤った「思い込み」を捨て去り、生活者起点で物事を考え、ありたい姿から今を考え、何事も自分事に引き寄せて考え、一歩前に踏み出し行動する職員、組織にならなければなりません。

 組織の多くの人が、組織変革の必要性に気付いていない自治体はたくさんあります。気付いた職員が、組織変革の必要性を訴えても耳を傾けてくれない、頭から否定される自治体も多いです。問題が山積し過ぎて、どこから手をつけたら良いか分からない自治体がいくつもあります。

 まずは、相馬市のチーム絆のような推進チームを作り、危機意識を高め、変革の準備を整えることからスタートです。次に、変革のビジョンと戦略を立てる、つまりすべきことを明確に決めなければなりません。相馬市の場合は、対話型研修による職員行動指針の作成です。そして次は、具体な行動を起こすことです。トップと担当部署を巻き込みメンバーが行動しやすい環境を整え、ビジョンを周知し、短期的な成果を挙げ、更なる変革を進める。相馬市は、震災復興の中にありながらも、現在このステージで格闘しています。

 最後は、新しいやり方を文化として定着、変革を根付かせる段階が待っています。職員の意識改革、組織の変革に臨むにあたり、人材マネジメント部会が大事にするのは、「対話」です。対話を通して、自ら考え気付く。そのプロセスを通して、腹落ち、合意形成が図られ、問題が自分事化されて、前向きな次なるアクションにつながる。自分が変わり、職場が変わり、組織が変わり、地域が変わる。相馬市のチーム絆の取り組みは、この考えを忠実に実践しているものです。

建設中の相馬市役所新庁舎

建設中の相馬市役所新庁舎

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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