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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第91回 組織の「関係の質」を高めることが組織のパフォーマンスを上げる~早大マニフェスト研究所人材マネジメント部会が目指すもの(2) (2019/11/14 早大マニフェスト研究所)

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早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第91回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

2018年度人材マネジメント部会第1回研究会の様子

2018年度人材マネジメント部会第1回研究会の様子

「気付き」による「自己変革」「組織変革」

 早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会(以下:部会)では、前回のコラム(第90回「地方創生の本丸は人材、組織」)でも書いてきたが、単に知識を学ぶのではなく、自治体組織の変革を実践する覚悟を持った志のある自治体職員を増やすことを目的に活動している。

 部会では、組織を変革するには、まずは率先して自分が変わるという思考をベースにしている。また、「自己変革」は、内発的な「気づき」でしか起きないと考えている。「理解」と「気付き(アウエアネス)」は違う。「理解」とは、頭で分かること、読書や講義を聞くことによる、知識学習で獲得できるもの。一方、「気付き」とは、頭で分かったことを、腹にまで落とすこと。それは、経験や体験学習を通して、深く考えることからでしか得ることはできない。

 組織行動学者のデービッド・コルブによる「経験学習モデル」という考え方がある。「経験→振り返り→概念化(教訓の言語化)→新しい実践」の4つのプロセスを踏みながら、学習し成長し続けるというものだ。

 この場合の「振り返り(リフレクション)」の方法には2種類ある。個人で行う「内省」と、仲間との「対話」である。「振り返り」を通して、自分や組織の現在進行中の思考や行動を別の次元から「メタ認知」して、「気付き」の感度を高めていく。部会でも「振り返り」のプロセスを重視している。

 「振り返り」のフレームワークとして、「KPT」というものがある。K(keep)は良かったこと、今後も続けること。P(problem)は悪かったこと、今後はやめること。T(try)は次に挑戦すること。筆者も自身で振り返りを行う際には、この「KPT」のフレームを活用している。また、ゼミの学生たちにも、何かに挑戦した時には、このフレームで振り返ることを意識させている。

 「振り返り」を通した個人の「気付き」により先ず「自己変革」が起き、そうした個人が集まることで、「組織変革」につながっていく。

2018年度人材マネジメント部会第1回研究会の様子2

自治体組織の「バッドサイクル」

 動物の個体の集まりである「群れ」や人間がただ集まっただけの「集団」と、人間が作りなす「組織」は何が違うのか。アメリカの経営学者チェスター・バーナードは、「組織の成立要件」として、次の3つを上げている。1つが「共通目標」の共有。2つ目がその目標達成へのメンバーの「貢献意欲」。最後にメンバー間の「コミュニケーション」の3つである。自治体は成立要件を満たした「組織」になっているのか。

 今、自治体の現場は不活性な状態にある。仕事が細分化され自分しか分からない仕事が増え(個業化)、メール文化が定着、ノミニュケーションの場の減少により、職場内外での面と向かっての本音の話が少なくなっている。その結果、同じ職場の中でも、お互いがどんな人か分からず、信頼関係が希薄になる。信頼が無いと言い出しっぺが損をすると思ってしまい、何も言わない方が得、仕事は上が決めるもの、どうせ言っても無駄という諦めの雰囲気が生まれる。そうなると、お互いの関わりをほどほどに、波風を立てないようにしようとなり、ますます本音の話が職場でなくなっていく。これが自治体の現場で起きている「バッドサイクル」だ。

2018年度人材マネジメント部会第1回研究会の様子3

「組織の成功循環モデル」と「関係の質」の向上

 組織が成果を上げ、成功に向かって進んでいくためのモデルとして、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キムは、「組織の成功循環モデル」を唱えている。「関係の質」「思考の質」「行動の質」「結果の質」のサイクルだ。組織の成果を上げるには、いきなり結果を求めるのではなく、まずはメンバーの「関係の質」を上げることがスタート。「関係の質」が良くなると、組織で協力し合えば良い方向に向かうという前向きな思考が生まれ、皆で助け合い協力して行動しようとなり、結果的に組織の成果が上がる。

 人材開発と組織改革に関する実践と研究を行うヒューマンバリューでは、「関係の質」を5つのレベル14の指標に分類している。これは職場の「関係の質」を捉える際に具体的で分かりやすい。

◇レベル1
(1)自然に挨拶がある(挨拶)
(2)声掛けが行われている(声掛け)
◇レベル2
(3)気兼ねなく話せるつながりがある(つながり)
(4)職場での会話量が多い(会話量)
◇レベル3
(5)感謝の言葉が自然に表れる(ありがとう)
(6)職場に活気がある(活気)
(7)お互いが尊重し合っている(尊重)
◇レベル4
(8)相手の仕事や状況の背景を理解し合う(背景理解)
(9)自分の考えを素直に話せる(素直さ)
(10)他部署とのコミュニケーションが活発(横断)
◇レベル5
(11)思いやビジョンを共有し合う(一体感)
(12)役割を超え協働し合う(協働)
(13)お互いを信頼し合う(信頼)
(14)積極的に組織外の人と交流する(越境)

 一歩一歩「関係の質」を高めていくことが、組織のパフォーマンスを上げる確実な道だ。

2018年度人材マネジメント部会第1回研究会の様子4

 アメリカのグーグルの実施した調査(プロジェクト・アリストテレス)によると、結果を出すチームを作る一番の方法は、「心理的安全性」が担保することとなっている。ハーバードビジネススクールのエイミー・エドモンドソンによると、「心理的安全性」とは、「このチームで対人リスクをとっても大丈夫と信じている状態」と定義されている。それは、組織の中の「不健全な恐れ(人間関係の恐れ)」を取り除くことでもある。「不完全な恐れ」は、「他人からどう思われているだろうか」を過剰に心配することから生じるもので、職員の行動に大きな影響を及ぼす。アイデアや疑問を話すことを拒絶されるのでは、ミスを犯したら罰せられるのではといった感覚である。「心理的安全性」が高いチームは、「関係の質」も高い。

 逆に「関係の質」を悪化させる「4毒素」というものもある。「非難」「侮辱」「自己弁護、防御」「逃避、無視」がその4つだ。こうした態度を取られると、相手は、攻撃されている、否定されている、分かってもらえていない、見下されている、避けられていると感じてしまい、「関係の質」は急激に悪化する。

 仕事における「コミュニケーション」とは、仲が良い、良く話しをする、雑談し合える関係があることだけではない。「心理的安全性」が高いチームも、居心地の良い「温い職場」とは違う。こうした関係もベースとしては不可欠なものだが、本来は仕事の中で、自分の意図が相手に伝わって、相手がその意図に沿って動いてくれることを意味する。

 また、組織にコミュニケーションがあるとは、組織の中で、真面目な雑談、「対話」が行われている状態である。自分と周囲(属性、考え、目的、価値観等)を知る「自分についての対話」。仕事のやり方について職場のメンバーが相互に意見を述べ合う「業務を語り合う対話」。自己、役所、地域の未来について、職場のメンバー同士で思いを話す「未来を語り合う対話」。こうした対話の場とその場の質が組織の「関係の質」を高めていく。

2018年度人材マネジメント部会第1回研究会の様子

「グロース・マインドセット」で「ドミナント・ロジック」を打破する

 ポジテイブ心理学の立場を取るスタンフォード大学のキャロル・ドゥエックは著書『マインドセット』で、人間の能力を固定的なものにするか、柔軟で成長可能なものにするか、その違いは、人それぞれの「マインドセット」(信念、物事の捉え方)次第だとしている。「マインドセット」には2種類ある。

 1つは、「フィックスト・マインドセット(Fixed Mindset」。自分の能力は固定的、新しいことに挑戦しない、他人からの評価が気になる、直ぐに諦めてしまう、成長にブレーキがかかる、そうしたチャレンジを怖れる思考特性だ。もう1つは、「グロース・マインドセット(Growth Mindset)。自分の能力は伸ばすことができる、失敗を恐れない、他人からの評価より自分の成長に関心がある、学ぶことが楽しい、成長が促進される、そうしたチャレンジを楽しめる思考特性だ。

 「マインドセット」は、個人にも組織にもある。個人もその対象や置かれた状況、環境により「マインドセット」は変化する。組織の「関係の質」を高めることにより、個人、組織の「思考の質」を、「フィックスト・マインドセット」から「グロース・マインドセット」に高めることができる。

 部会のキーワードの一つに、「ドミナント・ロジック(Dominant Logic)」と言うものがある。その場を支配している空気、思い込み、固定観念と言う意味だ。「フィックスト・マインドセット」と同じ様な意味で使われている。自治体に当てはめると、「うちの役所はできている」「今までこれでやってきた」「これまで大した問題は無かった」等がそれに当たる。また、「まあ、うちの自治体はこんなもんだ」といった大人の悟り、一種の諦めの気持ちも含まれる。

 「ドミナント・ロジック」に支配され、役所の組織の中が悪い意味で「安定している状態」は、変化を嫌う不活性な状態だ。逆に、「ドミナント・ロジック」を打ち破ろうとする職員が出てきて、良い意味で「不安定化している状態」は、改善へのエネルギーが作られた、活性化した状態である。

 「ドミナント・ロジック」が充満して、組織の中に余計な波風を立てずに「なあなあ」で物事を納めていく雰囲気の裏には、本当のことは言わない、言っても無駄、言わない方が得、といった職員の本音が隠されている。職員の力が閉じ込められた状態だ。それは「心理的安全性」が低いことで起きる。部会の参加者には、「グロース・マインドセット」を持ち、組織の「ドミナント・ロジック」を打ち破る、職員の力を解放する、そんな役割を期待している。
(次回に続く)

2018年度人材マネジメント部会第1回研究会の様子7

 

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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