第15回 職員の意識変革の第一歩として、職員自主勉強グループの立ち上げを!! ~佐賀県庁職員 円城寺雄介さんの活動から~  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第15回 職員の意識変革の第一歩として、職員自主勉強グループの立ち上げを!! ~佐賀県庁職員 円城寺雄介さんの活動から~ (2014/5/15 早大マニフェスト研究所)

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第15回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。掲載は、毎月第2木曜日。月イチ連載です。今回は、『職員の意識変革の第一歩として、職員自主勉強グループの立ち上げを!! ~佐賀県庁職員 円城寺雄介さんの活動から~』をお届けします。

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「ダイアローグ(対話)」が育てる志のある職員

 早稲田大学マニフェスト研究所では、2006年から『人材マネジメント部会』を立ち上げ、首長がマニフェストに示した「ありたい姿」の実現に向けて、組織・人材の能力を最高度に発揮させるための実践的な研究を行っています。人材マネジメントの重要性を感じる自治体は年々増え、2014年度(第9期)は、全国から75の自治体が参加しています。

 部会では、単に知識を学ぶのではなく、変革を実践する覚悟を持った志のある自治体職員を育てることを目的に活動しています。変革のスタートは、個人の内発的な「気づき」だと思います。「気づき」とは、頭で分かったことを、腹にまで落とした状態のことです。

 それは、経験や体験学習、他者とのダイアローグ(対話)を通し、深く考えることからでしか得ることはできません。読書や講義を聞くことによる知識学習を通し、頭で分かる「理解」とは違います。何事も、気づいて、まずやってみようと自発的に考えることが行動のスタートになります。「やらされ感」「○○しなければならない」という外発的動機付けよりも、「○○したい」という内発的な思いの方が、モチベーションを高く維持することができます。

佐賀県庁の職員自主勉強グループでのダイアローグの様子

佐賀県庁の職員自主勉強グループでのダイアローグの様子

 部会では、自らやりがい感を持って、行動として一歩前に踏み出してもらうために、参加者によるダイアローグの時間に多くを割きます。ダイアローグとは、ディベート(討論)のように、物事に白黒をはっきりつけるようなやり方ではなく、相手の意見を最大限尊重すること、相手の立場に立つこと、すなわち「思いやり」を持ち、それぞれの考えを理解した上での相対化を経て、新たな解決策を導く話し合いのあり方です。ダイアローグを経験することで、それまで自分だけでは気付かなかった課題を発見することを学びます。仲間との相互理解を深める中から、人材を活かすにはどうすれば良いか、どのような取り組みが組織を活性化させるのかなどを結果として学んでいくことになります。

 今回は、自治体職員に「気づき」を与える仕掛けとして、ダイアローグを活用した職員の自主勉強グループの取り組みについて、人材マネジメント部会の「マネ友(人材マネジメント部会で学んだ過去の参加者、同志)」である、佐賀県庁職員の円城寺雄介さんの取り組みをもとに考えてみたいと思います。

佐賀県庁円城寺さんの自主勉強グループの実践

 円城寺さんは、2008年度に部会に参加、その後医務課に配属され、ありたい姿から考える「価値前提」の思考から、佐賀県内の救急車の全てにタブレット型端末を搭載し、救急現場からインターネットに接続して各医療機関の搬送受け入れ可否情報を閲覧できる全国初の仕組み(「99さがネット 」)を作り上げました(*本連載第10回参照)。この仕組みができたことにより、搬送時間を平均で1分短縮、救急患者の生存率アップに大きく貢献し、この取り組みは全国の自治体にも広がっています。こうした仕事での実践とともに、円城寺さんは、佐賀県庁に「気づき」の場を作るために自主勉強グループの取り組みも積極的に行ってきました。

 2009年8月、円城寺さんは、民間企業で仕事が終わった後に自主勉強会が開催されているといった新聞記事をヒントに、係長未満の若手職員を対象に、アフターファイブの自主勉強会グループ「TAF(Team-After-Five)」を立ち上げました。成果を求められる公的な研修会と、雑談が多い職場の飲み会との中間の場を作りたいといった思いがきっかけです。職場を離れて気楽に真面目な話をする場、「オフサイトミーテイング」とも言えるかもしれません。何か結論、結果を出すといったノルマもなく、新しいアイデア、行動を生み出す創造の場でもあります。

自主勉強グループの活動の様子/民間・大学生も参加

自主勉強グループの活動の様子/民間・大学生も参加

 形式は、月1回ゲストスピーカーを招き、講演を聞き、その後に講師も含めて参加者でダイアローグをするといったスタイルです。講師の選定は、円城寺さんの人脈で、お金がかからないように熱意を持って頼み込みます。人材マネジメント部会の鬼澤慎人幹事(ヤマオコーポレーション社長)や、NPO法人テラルネッサンス(地雷除去や子ども兵の問題について活動)の鬼丸昌也さんなども講師になっています。この活動に触発され、また、円城寺さんのサポートなどで、佐賀県庁内には、いくつかの自主勉強グループが生まれました。

 しかし、1年ほどすると、円城寺さんは県庁職員だけでは発想が内向きになってしまうことに危機感を感じて、新しい自主勉強グループ「アフターファイブ講演会」を、2012年12月新たに作りました。今回は、県庁以外の民間企業の社員、学生もメンバーに加え、定期的な開催にもこだわっていません。その回、その回で声掛けをするので、固定メンバーがいるわけでもありません。スタイルは、1部の講演会と2部のダイアローグと、「TAF(Team-After-Five)」と同じ形ですが、県庁職員以外の人も参加するので、ダイアローグに厚みが出ます。円城寺さんは、自主勉強グループのメリットとして「交流により、気楽な情報交換ができる、刺激を受け視野が広がり、業務でのコラボレーションができる、そして何よりも仕事に対するモチベーションが上がる」と話します。

自主勉強グループ運営のポイント

 円城寺さんの取り組みを聞いていると、自主勉強グループを立ち上げ、運営するにはいくつかのポイントがあることが分かります。

 1つは勉強会ですが、楽しく面白い場にするということです。楽しそうでなければ参加したいと思いませんし、実際に参加して楽しくなければ次もまた参加したいとは思いません。講師の方のバラエティーの豊富さからも、面白さへの円城寺さんのこだわりは感じ取れます。また、楽しくなるには、肩書も関係なく、比較的自由な雰囲気で参加できることも大事になります。

 2つ目は、目のキラキラしている面白そうな職員に参加を直接呼び掛けることです。当たり前ですが、勉強会を企画してただ待っているのではなく、企画に賛同し、協力してくれそうな職員に積極的に声を掛けることが重要です。これは仲間を増やすということにもつながっていきます。

 3つ目は、集客、交流にSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)をうまく活用することです。特に、facebookのイベント機能を活用することで、佐賀県内だけではなく、熊本県など県外からの参加者もいるそうです。SNSでの交流は、ネット上でのダイアローグの場にもなっています。

自主勉強グループの活動の様子/知事も応援

自主勉強グループの活動の様子/知事も応援

 4つ目は、参加者の多様性(ダイバーシティー)を確保することです。参加者が異質であればあるほど、ダイアローグの質が上がります。この点では、新たに立ち上げた「アフターファイブ講演会」で参加者を民間企業の社員、学生に広げたことは効果があると思います。

 そして最後に、役所内での応援団を作ることです。「TAF(Team-After-Five)」では、佐賀県の古川康知事に応援団になってもらい、活動の際に応援メッセージをもらったりしています。また、賛助会員としてマネジメント部会幹事でもある白井誠・佐賀県国際戦略統括監など役所の多くの役職者の方に名前を連ねてもらっています。幹部の後ろ盾があると、活動が公認になり、動きやすくなることも多いです。そして何よりも、参加者の参加へのハードルが下がります。

自主勉強グループを立ち上げることから一歩踏み出そう!!

 人材マネジメント部会では、「ドミナント・ロジック(その場を支配する空気、思いこみ)」を打ち破り、一歩踏み出す勇気を持とう、ということが教えられます。組織を変革するには、まずは率先して自分が変わることが出発点です。また、自己変革は、内発的な「気づき」でしか起きません。役所の組織を変えるには、職員が「気づき」を起こす仕掛けを、役所の中に意図的に用意しなければなりません。

自主勉強グループの活動の様子/広がりは県外にも

自主勉強グループの活動の様子/広がりは県外にも

 組織論に、「2-6-2の法則(働き蟻の法則)」というものがあります。人間が集団を構成すると、集団心理が働き、優秀な人が2割、普通の人が6割、パッとしない人が2割、に分化されてしまうという法則のことです。役所の組織を変革するには、まず上の2割の職員が思いを共有すること、また、中間の6割の中の上の層、頭で理解しているが行動を起こせていない職員に「気づき」を与えることが鍵になります。その仕掛けとして、円城寺さんの実践からも分かるように、職員の自主勉強グループの取り組みは有効です。役所の中に「気づき」の連鎖が起きることで、役所が変わり、それが地域に伝播して、地域全体に大きな変化が起きます。

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佐藤淳氏

青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
早大マニフェスト研究所 連載記事一覧
第10回 人材マネジメントで『地方政府』を実現する ~早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会の活動から~
第14回 住民との距離を近づける「議会報告会」のあり方 ~福岡県志免町「まちづくり志民大学」による「議員と語ろう!ワールドカフェ」の取り組みから~
第13回 「気づき」の連鎖を作り自治体職員のやる気に火をつける ~熊本県庁の自主活動グループの実践と職員研修プログラム「チャレンジ塾」~
第12回 議員間討議の充実による議会力のアップ~千葉県流山市議会の改革の取り組みから~
関連リンク
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Twitterアカウント(@wmaniken)
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