【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第76回 議員間討議で「政策サイクル」を回す(1)議会改革第2ステージは「政策サイクル」が鍵 (2018/8/30 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第76回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
「議会改革第2ステージ」は「政策サイクル」が鍵
2006年5月北海道栗山町議会で『議会基本条例』(以下基本条例)が制定されて12年になります。「自治体議会改革フォーラム」によると、基本条例を制定した議会は、724議会(2017年7月24日現在)。全国の4割を超える議会が制定したことになります。
これまでの議会改革である「議会改革第1ステージ」は、基本条例を制定して、形式要件を整える改革だったと思います。これにも大きな意味はありますが、議会のための議会改革、自己満足型議会改革になっていた部分も否めません。基本条例誕生10年以上経ち、これからは「議会改革第2ステージ」(第54回「対話による議会改革第2ステージ」)、形式要件から実質要件を整え、地域課題を解決する議会、住民の役に立つ議会改革を進めていかなければなりません。
実質要件の整備に必要なことは、議会からの「政策サイクル」を回すことになります。市民との意見交換会から、政策のタネを拾い上げ、議員間討議を重ねて、政策型の議員提案条例や首長への政策提言など、住民福祉向上に寄与する政策に結び付ける。「議会改革第2ステージ」は、議会からの「政策サイクル」が鍵になります。そして、そのサイクルを回すには、議員間討議の充実、議会の話し合いの質を上げることが不可欠です。
今回と次回2回に渡り、議員間討議のあり方について考えていきます。
導入実績があがらない議員間討議
議会は議事機関であり、議論をして物事を決める場所です。しかし、従来の議会は、審議という名のもとに、執行部の提案に対して、質問とその応答の場になってしまっています。ほとんどの基本条例には、「議会は議員相互間の自由討議を中心に運営する」など、議員間討議の規定が盛り込まれていますが、積極的に実施されていないのが現状です。
早大マニフェスト研究所の「議会改革度調査2017」でも、委員会における議員間討議の導入実績は、27%に留まります。また、導入実績のある議会でも、意見が咬み合わない単なる意見表明のトークショーに終わっている議会が多いと思います。本来であれば、議案のメリット、デメリットなどの論点、意思決定する上で考慮されるべきポイントを多角的に分析し、合意(妥協、新しい提案)を形成し、議会としての意思が明確になり、結果として住民への説明責任が果たせるようになることが求められています。
話し合いの基本
残念ながら、これまで我々日本人は、学校教育の場で、話し合いのイロハを学んできていません。2016年「18歳選挙権」導入に際して、総務省と文部科学省の共同で作成された高校生向け主権者教育の副読本「私たちが拓く日本の未来~有権者として求められる力を身に付けるために~」には、民主政治は討論によって物事を決める政治であり話し合いの政治だ、と書かれています。そして「話し合いの基本」として、「テーマに沿って話をすること」「みんなが平等な関係で自由に話し合うこと」があげられています。当たり前と言えば当たり前のことです。
これが現実の議会の話し合いの場で上手くできているかどうか。副読本は以下のように続きます。何より、自由に話し合える雰囲気を作ることが大切です。声の大きい人の意見で議論が左右されるようでは参加意欲が低くなり、合意形成に必要な考えの変化をもたらす意見のぶつかり合いが生まれません。
そのために、他者の意見を良く聞く、肯定的に聞く、自分の意見を正しく受け止めてもらえるように簡潔に分かりやすく話す、1回の発言で言いたいことは一つだけにする、意見の理由と根拠を言う、人の意見を聞いて自分の意見が変わっても良いなどのルールを設けると。つまり、「自由」討議といいながらも、ルール無しのフリートークショーではないということです。
議員間討議が行われる場面
議会で議員間討議が行われる場面には、次の3つの場面が考えられます。1つ目は、執行部から提案された議案に対する、討論、採決の前提としての論点の整理を行う場面。2つ目は、執行部に対する議会からの政策提言を前提とした、課題の抽出、意見の擦り合わせを行う場面。3つ目は、議会として議会運営上の意見の擦り合わせを行う場面が想定されます。
また、本会議では、議場の作りや出席人数から、効果的、効率的に議員間討議を行うことは難しいと思います。それに対して、少人数で、机の配置など場作りも工夫できる委員会でこそ、議員間討議が活発に行われる必要があります。
岩手県久慈市議会の議員間討議の取り組み
岩手県久慈市議会では、議員間討議による議会からの「政策サイクル」に取り組んでいます。起点となるのは、市民との意見交換会である「かだって会議」(第20回「市民との対話が生まれる新しい議会と市民との意見交換会のあり方」)です。そして、市民の意見を政策につなげるのが議員間討議です。
議員間討議により、市民の個人レベルの「問題」を議会レベルの「課題」に昇華させて、各常任委員会単位で掘り下げるべき課題設定を行いました。総務常任委員会は「世代間交流による活力ある地域社会づくり」。教育民生常任委員会は「子供を安心して産み育てやすい環境づくり」。産業建設常任委員会は「駅前市街地における多世代による日常的な賑わい創出」。
次に、その設定課題の現状把握、政策評価についても議員間討議。課題に対する代替案の研究としての視察を実施、その振り返りも議員間討議。この一連のプロセスを踏まえて、最終的な提言を議員間討議でまとめていきます。
(2に続く)
◇ ◇ ◇
青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。