【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第26回 「ファシリテーション」を身につけ議会に「対話」の文化を~久慈市議会での「かだって会議」「議員間対話」の実践から~ (2015/2/26 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第26回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「『ファシリテーション』を身につけ議会に『対話』の文化を~久慈市議会での『かだって会議』『議員間対話』の実践から~」をお届けします。
「ファシリテーション」とは
英語のファシリテート(facilitate)の意味は元々、「促進する、円滑にする、スムーズに運ばせる」というものです。ファシリテーションを定義すると、「話し合いにおける相互作用を促進させる働き」となります。話し合いを上手に進めるコツ、会議の交通整理を行うスキル、とでも言えるでしょうか。
では、なぜ、ファシリテーションが現在注目されているのか。それは、世の中で行われている多くの話し合いや会議が、うまく機能していないからです。その原因は、一部の人しか意見を言わない(言えない)、何のための話し合いなのか目的が分からないまま進む、議論が深まらない(かみ合わない)、意見の衝突が個人攻撃にすり替わる、結局結論があいまいなまま終わる、などさまざま考えられます。
ファシリテーションとは、そういった話し合いの問題を解決する、知恵や技術です。話し合いは、何かを決めて、新しい行動を行うために開かれます。地方分権が、地域のことは地域に住む住民が決めるということであれば、決めるための話し合いが重要になり、そのやり方や、質が問われることになります。
英語で話し合いを表す単語の一つに「ダイアローグ(対話)」があります。ダイアローグとは、「ディベート(討論)」のように、物事に白黒をはっきりつけるようなやり方ではなく、相手の意見を最大限尊重すること、相手の立場に立つこと、それぞれの考えを理解した上での相対化を経て、新たな解決策を導く話し合いの形式です。
地域の課題発見、解決には、ディベートではなく、地域でのダイアローグ、対話が必要で、また、それを効果的に行うスキルであるファシリテーションが欠かせないものになります。それは地域で物事を決める一番大きな役割を担う地方議会でも同様です。
久慈市議会での対話の実践、「かだって会議」「議員間対話」
地方議会で対話が実践されるべき場面は、議員と市民が話し合う議会報告会や市民との意見交換会、議員同士で話し合う議員間討議の2つが考えられると思います。この2つの場面での対話の実践事例について、岩手県の久慈市議会の取り組みをもとに考えたいと思います。
2014年の3月、久慈市議会では、前文がすべて方言の『議会基本条例(通称:久慈市議会じぇじぇじぇ基本条例)』が制定されました。その中に、市民と議会が協働し市政課題について話し合う「かだって会議」を設置することが盛り込まれています。「かだって会議」は、一緒になる意味の「かだる」と、語り合う意味の「かだる」、の2つの方言の意味が込められた名称です。久慈市議会では、この「かだって会議」の運営に、「ワールドカフェ」というワークショップ、対話の手法を採用しています。
ワールドカフェとは、「カフェ」にいるようなリラックスした雰囲気の中、小グループ単位で、参加者の組み合わせを変えながら、自由に対話して、話し合いを発展させていく話し合いです。2014年8月の第1回の「かだって会議」については、第20回のコラムで詳しく紹介しています。
その後、12月には女性だけを対象とした「女性版かだって会議」が「女性が住みやすい街ってどんな街?」をテーマに開催されました。前向きな意見がたくさん出て、参加者には大変好評だったようです。進行を担うファシリテーターは、第1回目は学識者が、そして第2回目はNPO活動を行っている市民が担当しましたが、将来的には、ファシリテーションスキルを身につけた議員が行うことを目指しています。
久慈市議会の『議会基本条例』には、議員間討議を通じて合意形成を図り、政策立案、政策提言に努めることがうたわれています。「かだって会議」でワークショップの手法に慣れた議員は、委員会の審議などにも積極的に、付せんや模造紙を使ったワークショップや、ホワイトボードを活用した議論の整理を、議員間討議の手法として取り入れています。
すべての委員会審議がワークショップ形式になじむものではありませんが、これまで、議会報告会の現状を整理し共通認識を持つ「かだって会議」であがった意見から、次のアクションをまとめあげるなどのテーマを、ワークショップ形式で話し合っています。議会の審議は一般的には、質疑、討論、採決の順番に進められます。質疑と討論の間に、何らかの形で、議員間討議というよりも「議員間対話」の場がこれからは求められてくると思います。
久慈市議会の八重櫻友夫議長は、久慈市議会における対話の実践の手応えを、次のように語っています。「まだまだ対話することの難しさを感じてばかりですが、それ以上に、純粋に話し合うことの楽しさや奥深さからくるワクワク感みたいなものを多くの議員が感じ始めています。今では議員が率先して、『かだって会議』の会場を、飾り付けなどをして市民参加者を和ませ、良い意見やアイデアが出るよう話し合いの場の雰囲気に意を注ぐようになりました。『かだって会議』での実践と気づきを、さらに議員同士の話し合いに波及できればと思っています」。
対話の文化を議会に定着させるには
議会に対話の文化が定着しないネックは、大きく2つに分けられると思います。1つは議員の意識とスキルなどのソフトの問題、もう1つはファシリティ、設備などのハードの問題です。
ソフトの問題としては何よりも、会議を運営するスキルが不足しています。とりわけ委員会を仕切る委員長のスキルはこれから重要になります。これまで委員長は、年功序列で順番になることが多かったと思います。つまり、委員会の議論を仕切れるか否かは、委員長の要件に入っていませんでした。場慣れも必要ですが、会議の議論が深まるように進行するファシリテーションの技術が、委員長、そして各議員に求められます。
次にハードの問題ですが、議会の委員会室は、ホワイトボードや付せんなどの設備がない議会がほとんどです。民間企業の会議室では、当たり前に準備されています。ホワイトボードは、議論が空中戦になり、話が錯綜(さくそう)する状況を、視覚化することに大変効果があります。
ファシリテーションのスキルがなければ、議員は研修を受ければよいと思います。久慈市議会では、2月に市が職員、市民向けに開催したファシリテーション研修会に、スキルの必要性を感じた八重櫻議長以下議員6人が自発的に参加しました。また、同じく岩手県の北上市議会では、全国ではまだ少ないと思いますが、「ファシリテーションスキルアップ講座~会議の運営と意見の集約~」というテーマで、議会主催のファシリテーションの研修会を行っています。委員会室にホワイトボードがなければ、まずホワイトボードを準備して、議員の誰かが書き出すことがスタートだと思います。
「地方創生」は「対話」から
今、「アベノミクス」の効果を地方にまで行き渡らせるとして、「地方創生」が声高に叫ばれています。「地方創生」が目指すのは、人口減少の克服と成長力の確保。それに合致する地方からの良いアイデアには、国は積極的に予算をつけるとして、地方は2015年度中に、「地方人口ビジョン」と「地方版総合戦略」の策定を求められています。国は、地方に対して、自立につながるよう、自ら責任を持って戦略を推進することを求めています。今のままの地方で、それはできるのでしょうか。
また、国は「情報支援」「財政支援」「人的支援」を積極的に行うとしています。いつまで、国を当てにし、依存していくのでしょうか。今こそ、地方には、地域からアイデアが生まれ実現できる、対話をベースにした仕組みが必要です。
地方創生の要諦(ようてい)は、基本原則としての「ダイアローグ(対話)」、スキルとしての「ファシリテーション」、そしてインフラとしての「話しやすい空間づくり」だと思います。重要なのは、地域での「話し合いの質」になります。地域でのダイアローグ(対話)がアクション(行動)につながることで、真の地方創生が実現します。議員もファシリテーションのスキルを身につけ、議会に「対話」の文化を定着させることがこれから求められてきます。
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青森中央学院大学 経営法学部 専任講師
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学専任講師(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。所長は、北川正恭(早大大学院教授、元三重県知事)。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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