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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第69回 ワールドカフェでパブリックコメントを!~青森県三沢市議会の実践から地方議会でのワールドカフェ活用を考える (2018/1/25 早大マニフェスト研究所)

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第69回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

市民の意見を行政に反映させるには

 行政が市民の意見を確認する手法、市民参加のツールには様々ある。特定の市民や団体に直接聞き取り(ヒアリング)を行うほかにも、アンケート、審議会、市政モニター、公聴会・住民説明会、最近ではワークショップなどを行う自治体も増えている。それ以外にも、計画や条例を策定する際には、「パブリックコメント」と称して、自治体のホームページなどで行政案を公表し、広く市民から意見を募集し、寄せられた意見に対しては行政の考え方を公表し、案の修正を含めた検討が行われる。

 このパブリックコメントには、いくつかの欠点がある。ホームページを通じて実施される場合が多く、そもそもその実施が分からず、寄せられる意見の数が圧倒的に少ないこと。計画や条例は一般市民にとっては難しく、関心の高い特定の市民の意見が多く寄せられること。意見に対する回答はされても、修正などに反映されることが少なく、既成事実(アリバイ)化されているケースが多いことである。

 そうしたパブリックコメントの欠点を補完する目的で、福岡市では2012年9月、総合計画の策定に向けたパブリックコメント(厳密にはパブリックコメント募集のオープニングイベント)を、ワールドカフェ方式にて開催(「ようこそ!ふくおか未来カフェ!」)、500人の市民が参加した。

 「ワールドカフェ」とは、カフェにいるようなリラックスした雰囲気の中で、4~5人の少人数のグループに分かれ、参加者の組み合わせを変えながら、自由に話し合いを発展させていく対話の手法だ。KJ法などのワークショップに比べ発表がないなど参加者への負担も少なく、進行も台本通りでそれほどスキルは必要ない。また、発言の記録が目の前の模造紙に可視化され、何よりも参加者はたくさんの人と話ができて楽しくなるワークショップだ。発散、収束、決定の話し合いのプロセスの中で、ワールドカフェは発散の場面で有効な対話の手法であり、パブリックコメントには適している。ワールドカフェの前に情報提供を行えば、関心や知識のない市民からも意見をもらうことができる。

ワールドカフェの様子1

ワールドカフェの様子

 今回は、「議会基本条例」制定に向けたパブリックコメントとして、生の市民の声を聞くため、ワールドカフェを実施した青森県三沢市議会の取り組みを紹介するとともに、地方議会におけるワールドカフェ活用の可能性を考えたい。

三沢市議会の議会改革の取り組み

 自治体議会改革フォーラムの調査によると、2017年7月現在の「議会基本条例」制定議会は、全国で797議会(44.6%)、2013年のピーク(1年間に159議会が制定)から制定のペースは落ちているものの、半数近くの議会において、基本条例が整備されたことになる。遅ればせながら三沢市議会でも、2016年12月に議会改革特別委員会が設置され議会改革の議論が本格的にスタート、2017年4月には筆者がアドバイザーに委嘱された。

 先進議会である岩手県久慈市議会(第20回「市民との対話が生まれる新しい市民との意見交換会のあり方」)、岐阜県可児市議会(第37回「議会と高校生が創る地域の未来」)などの視察を実施し、12回の委員会を開催して、12月11日、全11章35条からなる、条例素案を完成させた。その内容としては、条例の目的が達成されているかどうかを毎年評価検証する(第29回「評価と検証が議会基本条例の実効性を担保する」)、と明記したことが大きな特長である。その他、議会報告会、意見交換会の年1回以上開催が盛り込まれている。議会改革の議論スタートは遅かったものの、後発者利益を活かして、議員にとっては厳しい踏み込んだ条例になっている。議会改革特別委員会では、その条例素案に対するパブリックコメントとして、リアルのワールドカフェで市民意見を確認することとした。

ワールドカフェの様子2

ワールドカフェの様子

ワールドカフェによる「議会基本条例」へのパブリックコメント

 三沢市議会では、これまで議会として市民との意見交換会を実施したことがなかった。また、ワールドカフェなどワークショップに参加した議員がほとんどいなかったので、実施に先立ち、議長、副議長と議会改革特別委員会のメンバー8人は、市の若手職員15人を練習相手に、実際と同じテーマ・問いでワールドカフェを体験した。練習でできそうだといった感触を得て12月21日、議員10人、市民20人の合計30人で、筆者がファシリテーターを務めワールドカフェは開催された。20人の市民は、連合町内会、連合婦人会、連合PTA、社会福祉協議会、商工会など、市内の団体に依頼して参加してもらった。

議長挨拶

議長挨拶

 ワールドカフェは、小比類巻正規議長の挨拶、小比類巻正彦議会改革特別委員会委員長からのこれまでの経緯と素案の内容の説明からスタート。「三沢市議会の誇りに思うこと残念に思うことは何ですか?」「三沢市議会のありたい姿はどんな状態ですか?」「ありたい三沢市議会になるために、今、議員と市民がそれぞれの役割で、また一緒に取り組まなければならないことは何ですか?」の3つの問いで対話が行われた。

 参加した市民からは、「市民の意見に耳を傾けてほしい」「市民の意見を集約して政策提案をしてほしい」「基本条例の制定で終わりではなく、しっかり実践してほしい」といったたくさんの意見をパブリックコメントとしてもらった。議員も市民との対話の重要性に気付く貴重な機会となった。また、ワールドカフェの様子は、市職員が「グラフィック・ハーベスティング」(第50回「グラフィックであなたもまちづくりの担い手に」)を行い、話し合いの様子が絵を使って分かりやすく可視化された模造紙は、市役所のロビーに掲示された。

市職員によるグラフィックハーベスティング

市職員によるグラフィックハーベスティング

ロビーに飾られたグラフィック

ロビーに飾られたグラフィック

地方議会におけるワールドカフェ活用の可能性

 議員と市民が行うワールドカフェのスタートは、福岡県志免町の町民有志「まちづくり志民大学」により、2012年10月に開催された「議員と語ろう!ワールドカフェ」である(第14回「住民との距離を近づける議会報告会のあり方」)。その後、2014年8月、久慈市議会が、議会としては全国初のワールドカフェ形式の市民との意見交換会、「かだって会議」を開催した。これがきっかけとなり、議会が市民との意見交換会をワールドカフェ形式で実施する流れは全国に広がっている。宮城県柴田町議会では、議会と高校生との意見交換会をワールドカフェで実施している(第52回「議会×高校生の対話で地方創生を」)。柴田町議会では、公共施設の新規建設計画ついて、執行部に対する質問事項の抽出や、論点の整理を行うため、全員協議会でのワールドカフェによる議員間討議にも挑戦している。

柴田町議会のワールドカフェによる議員間討議

柴田町議会のワールドカフェによる議員間討議

 ワールドカフェで対話をすることで、参加者がお互いの思いを伝え合い、新しい気付きやアイデアが生まれ、協働に踏み出す勢いや一体感を醸成することができる。今、ワールドカフェは、ビジネス、行政、コミュニティーなど、様々なところで活用されている。地方議会でも、市民との意見交換会、意見交換会で出てきた意見を政策に結び付けるための議員間討議、議員間討議を経て議会が独自に作った議員提案条例のパブリックコメントなど、活用方法は色々考えられる。今後、地方議会の様々な場面で、ワールドカフェによる対話が広がることを期待したい。

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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