【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第54回 対話による議会改革第2ステージ~形式要件から議会改革の実質的な成果を目指して (2016/10/27 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第54回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
『議会基本条例』10年
2006年5月、北海道栗山町議会で『議会基本条例』(以下基本条例)が制定されてから10年になります。「自治体議会改革フォーラム」によると、基本条例を制定した議会は、701議会(2015年9月18日現在)。全国の約4割の議会が制定したことになります。基本条例制定の動きにより、議案の賛否結果の公表などの情報共有、議会報告会の開催などの住民参加、ICTの活用などによる議会機能強化といった、様々な議会改革の取り組みが全国的に広がりました。
そうした中、全国の議会は、4つに分類されてきたと思っています。うちの議会はできている、基本条例なんて必要ないという「居眠り議会」。改革を始めよう、まずは基本条例を作ろうという「目覚めた議会」。基本条例は作ったがそれで改革は一区切り、条文通りの議会になっていない「したふり議会」。そして、基本条例の実効性を上げるための不断の努力を行い、成果を出し始めている「真の改革議会」。
筆者の問題意識は、基本条例制定議会が増えるに伴い、「したふり議会」が増えてきていることです。改革が目的となり、議会が本来果たすべき、住民福祉の向上に改革が結び付いていない状況です。今回は、議会改革が次の第2ステージに向かうにあたり、必要になることを、「対話」をキーワードに考えていきたいと思います。
「対話」を前提とした「議会報告会」と「議員間討議」
議会が、住民福祉向上のための政策のタネを発掘するオフィシャルな場となるのは、議会報告会や住民との意見交換会です。そしてそのタネを議員間討議により、政策に結び付けていくことが、議会、議員の大きな仕事です。議会が、地域から課題、アイデアをくみ取り、それを解決、実現できるインフラ(仕組み)になれるかどうかは、そうした場の「話し合いの質」に掛かっています。
そこで大事になるのが、「対話」です。英語で話し合いを表す単語の一つに「ダイアローグ(対話)」があります。ダイアローグとは、「ディベート(討論)」のように、物事に白黒をはっきりつけるようなやり方ではなく、相手の意見を最大限尊重すること、相手の立場に立つこと、それぞれの考えを理解した上での相対化を経て、新たな解決策を導く話し合いの形式です。議会は、最終的に物事を決める場所ですので、最後は討論が必要になります。しかし、納得感の高い討論を行うには、多様なバックグラウンドを持つ議員間の対話がその前提になります。
「対話」「討論」以外にも話し合いにはいくつかの種類があります。特に目的もなく他愛もない話である「雑談」。関係性を築くための「会話」。そして、そもそものありさま、目的を共有するための「対話」。方策を考える時の「議論」。最終的に物事を決める際の「討論」などです。今、目の前で行われている話し合いが、どの状態なのか、しっかり意識することが話し合いの質を高める第一歩です。
議会報告会における対話の実践を目指して、開催の仕方を、対面式からワークショップ形式にする議会が増えています。2014年8月全国で初めて議会主催の議会報告会を「ワールドカフェ」(少人数で席替えをしながら行うワークショップの手法)で行った岩手県久慈市議会(コラム第20回「市民との対話が生まれる新しい『議会と市民の意見交換会』のあり方」)。議員報酬・定数といったナーバスなテーマで、2015年4月、市民とワールドカフェを実施した岩手県滝沢市議会(第33回「市民との『対話』を通して議員報酬の引き上げを実現」)。早稲田大学マニフェスト研究所の「議会改革度調査2015」ランキング全国1位の北海道芽室町議会でも2016年1月、「人口減少問題にどう立ち向かう芽室町」をテーマにワールドカフェで「議会フォーラム」を開催しました。高校生とワールドカフェで対話を行う、宮城県柴田町議会(第52回「議会×高校生の『対話』で『地方創生』を」)、青森県六戸町議会(第46回「住民と対話する議会を目指して」)などの事例も出てきています。すべての議会で筆者がファシリテーターとなり、議会と市民の対話の場を作るお手伝いをしました。
しかし、残念ながら、議員間討議での対話の実践はまだまだ進んでいません。なぜ議員間討議に対話が定着しないのでしょうか。ネックは、大きく2つに分けられると思います。1つは議員の意識とスキルなどのソフトの問題、もう1つはファシリティ、設備などのハードの問題です。
ソフトの問題としては何よりも、話し合い、会議を運営するスキル、ノウハウが不足しています。とりわけ、委員会を仕切る委員長はこれから重要になります。これまで委員長は、当選期数順になることが多かったと思います。つまり、委員会の議論を仕切れるか否かは、委員長の要件に入っていませんでした。場慣れも必要ですが、話し合い、会議の議論が深まるように進行するファシリテーションの技術が、委員長、そして各議員に求められます。
次にハードの問題ですが、議会の委員会室は、ホワイトボードや付せんなどの設備がない議会がほとんどです。議会報告会の会場もしかり。民間企業の会議室では、当たり前に準備されています。ホワイトボードは、議論が空中戦になり、話が錯綜(さくそう)する状況を視覚化することに、大変効果があります。すべての委員会審議が対話型、ワークショップ形式になじむものではありませんが、論点整理、政策提言を前提とした問題の洗い出し、議会運営上の意見の擦り合わせなどには活用できると思います。
久慈市議会では、委員会の審議などにも積極的に付せんや模造紙を使ったワークショップや、ホワイトボードを活用した議論の整理を、議員間討議の手法として取り入れています(第26回「『ファシリテーション』を身につけ議会に「対話」の文化を」)。岩手県八幡平市議会では、2016年3月、基本条例制定直後に、「基本条例制定後八幡平市議会が取り組みたいこと」をテーマにワールドカフェにより議員間討議を行い、思いを共有し合いました。
議員向け「対話型研修」の広がり
従来、筆者への議員研修のオーダーは、「議会改革とは」「議会基本条例とは」「議会基本条例の作り方」などといったテーマが多かったです。しかし最近では、「議会基本条例の実効性を上げるには」「議会報告会の活性化」「議員間討議のやり方」など、テーマが大きく変わってきています。最近増えているのが、対話の重要性と実践事例の講義、実際に対話を体験してみるワークショップの2部構成で、所要時間3時間程度の議員向け「対話型研修」です。2016年に入ってからも、福島県会津若松市議会、青森県青森市議会、むつ市議会などで行ってきました。青森市議会では、研修後、議会報告会を、対話型のワークショップに変更、議員自らがファシリテーターを務めました。少しづつ変化の兆しが見え始めています。
形式要件から議会改革の実質的な成果へ
これまでの議会改革は、基本条例を制定して、形式要件を整える改革だったと思います。これにも大きな意味はありますが、議会のための議会改革、自己満足型議会改革になっていた部分も否めません。基本条例誕生10年になり、これからは「議会改革第2ステージ」、形式要件から実質要件を整え、地域課題を解決する議会、住民の役に立つ議会改革を進めていかなければなりません。実質要件の整備に必要なことは、議会に対話の文化を定着させること、議会の話し合いの質を上げることだと思います。
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青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。