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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第58回 首長部局と県立高校が連携して地域のリーダーを育成する~静岡県牧之原市の「学び合いの場デザイン会議」の取り組み (2017/2/23 早大マニフェスト研究所)

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第58回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

参加者の集合写真

参加者の集合写真

牧之原市の「地域リーダー育成プロジェクト」

 このコラムで何度も取り上げている静岡県牧之原市では、2015年度から、地方創生と主権者教育を合わせた取り組みとして、首長部局と市内にある2つの県立高校(榛原高校、相良高校)が縦割りを越えて連携、将来の地域を担う人材を育成する「地域リーダー育成プロジェクト」を実践しています(第41回「地方創生実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方」)。

 牧之原市の実施する「地域リーダー育成プロジェクト」とは、高校と地域が連携し、地域を理解して愛着を深め、より地域に誇りを持つ人材を育成するとともに、行政や大学など、地域とのつながりを密にし、将来、地域を担う人材や地域の課題解決に貢献する人材を育成する取り組みです。

 大人が高校生に何かを教えるのではなく、大人との対話の場を通して高校生に何か新しい気付きを感じてもらう。2015年度は、福岡県福津市で「まちづくりファシリテーター」として活躍する津屋崎ブランチの山口覚さんにファシリテーターをお願いして、まずは高校生に対話の場を体験してもらうこと、地域に関心を持つきっかけづくりとして開催されました。

対話の様子

対話の様子

 2016年度は、取り組みをさらに進化させ、これまで10年間牧之原市で培ってきた市民ファシリテーター(第43回「市民をまちづくりの主役に」)のノウハウを活かし、高校生ファシリテーター、グラフィッカーを育て、一緒に「学び合いの場」を運営することに挑戦しています。

 今回は、第11回マニフェスト大賞で優秀シチズンシップ推進賞を受賞した、この牧之原市の「地域リーダー育成プロジェクト」を紹介するとともに、地方創生時代に求められる地域と高校との連携について考えたいと思います。

高校生の主体的参加による「学び合いの場デザイン会議」

 18歳選挙権がスタートしたこともあり、主権者教育の一環として、高校生と地域の大人との対話の場が全国に広がっています。主権者教育としては、模擬選挙や模擬議会が一般的ですが、地域の大人と地域の課題について考える対話の場も、大人を集める手間は掛かりますが、取り組みやすく、効果が高いものと考えています。

 高校生が普段接点をもつ大人は、親と学校の先生がほとんどです。それ以外の大人との対話は、高校生の視野を広げ新しい気付きを与えるとともに、地域への興味も喚起します。開催のスタイルは、牧之原市のように首長部局が主催するケース、議会が主催するケース(第37回「議会と高校生が創る地域の未来第52回「議会×高校生の対話で地方創生を」)、青年会議所など民間団体が主催するケース(第55回「青年会議所がつなぐ高校生と地域の未来」第56回「NPOが担う高校生と地域との連携・協働」)など様々です。

 多くの場合は、大人が準備した対話の場に高校生に参加してもらう形が中心です。牧之原市の「地域リーダー育成プロジェクト」の特徴は、高校生にもお客様ではなく、対話の場の運営に主体的に関わってもらうという点です。榛原高校と相良高校の生徒代表10人と、市民ファシリテーターの若手メンバー6人で「学び合いの場デザイン会議」を組織し、学び合いの場のワークショップのプロセス、プログラムデザインを、高校生と市民ファシリテーター、行政職員が一緒に考えています。

学び合いの場デザイン会議の打ち合わせの様子

学び合いの場デザイン会議の打ち合わせの様子

 特に、ワークショップの場に投げ掛ける「問い」については、高校生と大人で真剣に考えます。「問い」かけが学びを促し、答えを探す動機を作り、考えを深めます。教えられるのではなく、自分達で考え学び合うことで、高校生の主体性が高まっていきます。こうした取り組みも、牧之原市の「対話による協働のまちづくり」の10年の蓄積があればこそのものです。

高校生ファシリテーター・グラフィッカーの活躍

 2016年度、「地域リーダー育成プロジェクト」の学び合いの場、ワークショップは全5回開催されました。第0回は、7月18日に開かれました。2015年の第10回マニフェスト大賞で牧之原市の西原茂樹市長が首長部門(第38回「対話が創る地方創生」)、岐阜県可児市議会が議会部門、それぞれのグランプリを獲得したご縁で、岐阜県立可児高校と榛原高校との交流会。「みんなが住みたくなる楽しいまち」をテーマに市民ファシリテーターの進行で、ワークショップを行いました。

高校生ファシリテーター

高校生ファシリテーター

 次の第1回からは、市民ファシリテーターのサポートを受けながら高校生ファシリテーターが進行を担い、高校生グラフィッカーが文字とイラストで対話の内容を分かりやすく記録しました。8月23日の第1回は、「自分と地域のことを知ろう(Q1あなたにとってワクワクする地域って何ですか? Q2そのために何ができますか?)」というテーマで、榛原高校、相良高校の生徒のほか、大学生、地域の大人79人が参加しました。

 8月24日の第2回は、「今しかできないことを知ろう(Q1今までやってきたこと、今やっていること、これからやりたいことは? Q2聞いてみて感じたギャップは?)」をテーマに76人が参加しました。9月5日の第3回では、「将来の地域のため一人一人ができること(Q1自分が地域のために大切にしたいことは? Q2将来のために自分ができる小さな一歩は?)」をテーマに102人の参加で開催されました。

高校生グラフィッカー

高校生グラフィッカー

 最終回の第4回では、北川正恭早稲田大学名誉教授の基調講演の後、「地域リーダーになるための覚悟を決める(Q1自分が思う地域リーダーとは? Q2なぜ地域リーダーが必要なのか?)」をテーマにワークショップが行われました。プロジェクトに参加した生徒からは、「好きだった地域がもっと好きになれた」「地域に戻って来て仕事ができるようにしたい」「何か地元に貢献したくなった」など、前向きな意見がたくさん出てきました。

 2017年1月21日と22日、「地域リーダー育成プロジェクト」の集大成として、静岡市で、「地域と高校生との対話による学び合いの場コンファレンス2016」が開催され、高校生ファシリテーターが、全国から集まった150人(高校生50人、大人100人)の参加者を前にして、ワークショップの進行を堂々と行いました。コンファレンスで感じたことは、高校生の可能性を信じて挑戦させる、それを暖かく見守り支える本気の大人の存在です。

コンファレンスで進行する高校生ファシリテーター

コンファレンスで進行する高校生ファシリテーター

首長部局と県立高校が縦割りを越えて地域のリーダーを育てる

 高校生段階での市町村の担い手、リーダー育成は、これまで見過ごされてきました。原因は、高校を所管する都道府県と市町村の大きな壁の存在です。また、首長部局と教育委員会の間にも縦割りの壁があります。日常の業務を通して、自治体の首長部局には、学校や教育委員会と比にならない、地域とのネットワークがあります。そのネットワークを高校生の学びに活用するためにも、首長部局と県立高校の連携は不可欠です。牧之原市の実践はそれを証明しています。

 高校生が、地域の商店街、企業、NPOなどの団体と連携し、地域課題の解決に参画する取り組みが進めば、地域貢献につながるとともに、地域に愛着、誇りを感じ、将来地域に戻ってくる若者が増えるということになります。時間は掛かりますが、地方創生が目的とするところの人口減少の克服を実現するための正攻法だと思います。本気の大人と高校生が混ざり、対話を通して化学変化を起こすことで、高校生のやる気にスイッチが入り、学力向上、最終的には地方創生につながる。地方創生は地域の総力戦です。こうした縦割りの壁を越えられなければ、地方創生の実現はあり得ません。

対話の場デザイン会議のメンバー

対話の場デザイン会議のメンバー

◇        ◇        ◇

佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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