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【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】

第56回 NPOが担う高校生と地域との連携・協働~岐阜県可児市NPO縁塾の「エンリッチ・プロジェクト」の実践 (2016/12/28 早大マニフェスト研究所)

早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第56回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。

高校生と地域の大人の対話の場

 このコラムでは、地方創生の実現のためにも、高校生と地域との関わりの大切さ、高校生と地域の本気の大人との「対話」の場が必要であることを何度か指摘してきました。

プロジェクトの様子(ママさん議会ワークショップ)

プロジェクトの様子(ママさん議会ワークショップ)

 議会が主導して、高校生と地域の各種団体との意見交換の場「地域課題懇談会」を開催している岐阜県可児市議会の取り組み(第37回「議会と高校生が創る地域の未来」)。同様に、議員と高校生が対話をし、地域の未来について意見交換を行う、宮城県柴田町議会、岩手県久慈市議会の取り組み(第52回「議会×高校生の対話で地方創生を」)。

 首長部局が主導して、市と県の縦割りを越えて、高校生の段階での市町村の担い手育成を目指した、静岡県牧之原市の「地域リーダー育成プロジェクト」の取り組み(第41回「地方創生実現に向けた学校と地域との連携・協働の在り方」)。

 地域のまちづくりの主要な担い手である青年会議所(以下:JC)が、高校生と大人との対話の場を企画した青森県の黒石JC、五所川原JCの取り組み(第55回「JCがつなぐ高校生と地域の未来」)。

 議会、首長部局、民間団体と、対話の場を担う主体はいろいろと考えられます。高校生と地域の大人との対話の場は、高校生が地域の課題を知り、考えるきっかけとなり、主権者としての自覚を促します。それだけではなく、地域の大人と一緒に考えることで、視野の広がりと新たな気付きが生まれます。その結果、地域への愛着も生まれ、主権者教育だけではなく、将来のUターンなど地方創生としての効果があると思います。

 今回は、2016年「第11回マニフェスト大賞」で、特別賞(箭内道彦選)を受賞した、岐阜県可児市の「NPO縁塾」の取り組み「エンリッチ・プロジェクト」を紹介するとともに、高校生と地域との連携、協働のあり方を考えたいと思います。

「NPO縁塾」

 「NPO縁塾(以下:縁塾)」は、可児市を含む岐阜県可茂地区の学校(小・中・高)と地域をつなぐことを目的とした団体です。代表を務める松尾和樹さんを始め、運営を担うメンバーは30歳代の子育て世代、子どもたちのキャリア教育が自分事の世代です。

縁塾メンバー

縁塾メンバー

 もともと岐阜県立可児高校では浦崎太郎先生が中心となり、高校生が地域に積極的に出て行き、地域課題の解決に関わることが学習意欲の向上につながるという仮説の下で、高校生と地域との連携が模索されていました。タイミングをほぼ同じくして、議会改革を進めていた可児市議会でも、当時の川上文浩議長を中心に、地域の若者流出、担い手不足の問題を解決するためにも、若者の意見を議会、行政に取り入れなければならないという議論が起きていました。両者の問題意識が合致して始まったのが、「地域課題懇談会」です。議会の強力な後ろ盾により、医師会、金融協会など、市内の各種団体と高校生、議会の意見交換、対話の場です。

 しかし、学校や議会、行政が主導する体制では、人事異動、選挙などにより、活動の継続性が担保されない欠点があります。そこで、可児市の若手職員を介して可児高校のOBである松尾さんたちに声が掛かり、高校と地域とのコーディネートを担う団体として、2015年春、縁塾がスタートしました(2016年10月法人化 メンバー13人)。縁塾が学校と地域のコーディネートを担うことにより、議会の支援のもと、地域の子どもたちのキャリア教育支援を、地域のNPOが担う理想的な形が可児市でできあがりました。

講演する縁塾メンバー

講演する縁塾メンバー

縁塾の「エンリッチ・プロジェクト」

 2015年、縁塾では、可児高校が夏休みの期間を利用して、「エンリッチ・プロジェクト2015」を開催しました。エンリッチ・プロジェクト(地域課題解決型キャリア教育)とは、enrich(濃厚にする、豊富にするの意)、縁リッチ、縁立知、縁立地の意味が込められた名前です。このプロジェクトは、地域課題に関わる大人や先輩大学生の講演(キーノートスピーチ)、高校生と大学生、大人が一緒に学び合う小規模な対話の場(1回1時間半から2時間程度)です。高校生が地域のさまざまな課題と向き合う経験を通して、当事者意識を身に付け、地域への貢献意欲を育む、また、将来なりたい姿、それに向かって勉強したい理由を見つけることを目的としたプログラムです。

エンリッチ・プロジェクトチラシ

エンリッチ・プロジェクトチラシ

 特徴の1つは、地域で活躍する多様な本気の大人をゲストスピーカーとして招くことです。2015年は、71の講座が準備(うち17は大学生が担当)されました。可児高校の1年生は、全員必ず1つの参加が義務付けられ、2・3年生も興味があれば参加も可能となっています。多様なプログラムの中には、可児市職員による「求む!未来の可児市職員」、防災の会による「防災クロスロード」、OBの大学生による「大学生活って何?」などのテーマが並びます。秋以降には、プロジェクトにより芽生えた問題意識を、現場でイベントの企画運営などで体験、確認し合える実践の場も用意しました。

 2016年夏に開催された「エンリッチ・プロジェクト2016」では、まちづくり、キャリア、防災、環境、教育、医療・福祉、地方自治など37のプログラムが用意されました。縁塾のメンバーが、地域の本気の大人の代表として講座を持つほか、筆者も1つのプログラムを担当させていただき、「偶然を意図的に生み出す生き方」をテーマにキャリアのあり方について、話をさせてもらいました。

 こうした取り組みは、成果がすぐに現れるものではありません。しかし、エンリッチ・プロジェクトに参加することで、高校生が地域や社会とつながるきっかけをつかむ。その結果として、やらされる勉強ではなく、自分の夢を叶えるための勉強に意識が変わり始めた高校生は確実に増えていると思います。私も実際に高校生と対話をして感じました。

プロジェクトで可児高生と対話する筆者

プロジェクトで可児高生と対話する筆者

地域の将来のリーダー育成を地域が担う

 高校生が、地域の課題を解決する本気の大人との対話の場に積極的に参加することは、高校生にとって大きな効果があります。地域を良くするにはどうすればいいか、地域で生きていくにはどんな力が必要か、対話を通して深く考え、気付くとともに、地域に対する愛着や当事者意識が芽生えます。大学などへの進学で一度は地域を離れるかもしれませんが、問題意識を持った若者は、地域で生きる力、地域の担い手として必要な力を蓄えて将来地元に戻ってきてくれるはずです。

 将来の地域を担うリーダーの育成を高校だけに任せるのではなく、地域のさまざまな主体が高校と連携・協働しながら取り組む必要があります。高校側からすると、キャリア教育の一部を地域に委ねることにより、教職員の負担が軽減され、本来業務である教科指導に注力することができることになります。縁塾の取り組みは、こうした高校と地域のWIN-WINの協働関係を作り、地方創生を実現する1つのモデルになるものだと思います。

プロジェクトの様子(絵本の読み聞かせワークショップ)

プロジェクトの様子(絵本の読み聞かせワークショップ)

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佐藤淳氏青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。

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■早大マニフェスト研究所とは
早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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