【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第55回 青年会議所(JC)がつなぐ高校生と地域の未来~青森県黒石JC、五所川原JCの実践 (2016/11/24 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第55回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。
高校生と多様な大人の対話の場
明るく豊かな社会の実現を目指し活動する20~40歳の青年の集まりである青年会議所(以下JC)は、2003年に日本でマニフェスト運動がスタートした当初から、早稲田大学マニフェスト研究所などと連携しながら、全国各地でマニフェスト運動を展開しています。具体的には、国政選挙、地方選挙におけるマニフェスト型公開討論会の開催、マニフェスト評価検証大会の開催などを、各地域のJCが事業として行っています。私の暮らす青森県内のJCもマニフェスト運動を積極的に行っています(第7回「青年会議所が担うマニフェスト・サイクル」)。2016年11月の青森市長選挙に際しても、青森青年会議所が、公開討論会を開催しました。
また、この連載コラムでは、岐阜県可児市議会が県立可児高校との協働で行う「地域課題懇談会」についても紹介しました(第37回「議会と高校生が創る地域の未来」)。議会のネットワークを活かし、医師会、銀行協会、商工会議所などの協力を得て、地域の大人と高校生との対話の場を作り、気付きと刺激を双方が感じあう取り組みです。議会が、地域の将来を担う高校生に積極的にアプローチし対話を行うことで、参加した高校生は、地域への思いと愛着を感じる有意義な場になっています。2016年7月の参院選から18歳選挙権がスタートしたこともあり、可児市議会のような「議会×高校生」の実践が、宮城県柴田町議会、岩手県久慈市議会など、全国に広がりをみせ始めています(第52回「議会×高校生の対話で地方創生を」)。
今回は、地域のまちづくりの主要な担い手の1つであるJCが、そのネットワークを活かし、高校生と地域の大人との対話の場を作り出している、青森県の黒石JC、五所川原JCの取り組みを紹介し、これからの主権者教育、地方創生のあり方を考えます。
黒石JCの「高校生と考える黒石の未来」事業
黒石JCでは、これまで、マニフェスト運動を意欲的に行ってきました。
2010年6月の市長選挙に際して、無投票であったにも関わらず、当時の現職市長を招き「マニフェスト型公開討論会」を開催しました。その討論会を受けて、2年後の2012年11月、市長の「マニフェスト検証大会」に初めて挑戦しました。2014年6月、再度市長選挙が無投票になった際にも、立候補を表明していた新人(高樋憲・現市長)を招き、市民に政策を説明してもらう場を設けました。
2015年の統一地方選挙では、8年ぶりに市議選が行われたことを受けて、当選した新人議員も含めて、議員と地域の若者とがワークショップを通してまちづくりを考える場、「青年と議員が語り合う会」を開きました(第34回「青年会議所がつくる市民と議員の対話の場」)。
今年2016年、高樋憲市長が任期2年を経過したため、今回もマニフェストの中間検証として内容を検討、18歳選挙権元年ということでもあり、高樋市長と高校生、JCメンバーが、20年後の黒石について意見を交わす「市長と高校生のワークショップ:高校生と考える黒石の未来」を開催することにしました。事前に、市内にある県立黒石高校を訪問、主旨を説明して協力をお願いし、6月の開催日には、1~3年生19人が参加、JCメンバーも合わせて総勢40人でワークショップを行いました。
ワークショップでは、冒頭、高樋市長が、この2年間の任期中に取り組んだ事業と実績について説明、それに対する高校生からの質問タイムを設けました。その後のワールドカフェでは、「黒石市の誇りに思うこと、残念に思うこと」「20年後どんな黒石市になっていてほしいか」「20年後ありたい黒石市になっているために、今黒石市に必要なものは」の3つの問いで、高校生とJCメンバーが席替えをしながら対話を行いました。高樋市長もグループをまわり、高校生の声に耳を傾けました。
今回は、投票の方法を学ぶということもあり、模擬選挙の要素も取り入れ、理想の黒石の実現に向けてのアイデアを、実際の記載台、投票箱を使って、投票体験をしてもらいました。最後に、全体を通しての振り返りでは、参加した高校生から、「自分の地元について深く考えることができた」「自分の考えを再認識するいい機会になった」「将来の黒石は自分が背負うという責任を感じた」など前向きな意見がたくさん出ました。
五所川原JCの「かだるべ五所川原!!」事業
五所川原JCでは、これまで、2012年から「五所川原市民討議会」の事業を実施してきました。市民討議会は、住民基本台帳から18歳以上の男女を無作為に抽出、選ばれた市民に参加依頼を送付し、参加希望のあった市民とJCメンバーにより、ワークショップでまちづくりについて話し合う会です。討議結果は報告書にまとめ、市長に提言します。
2016年、より若い世代である高校生にもまちづくりに興味関心をもってもらいたい、将来について考えるきっかけを作りたいという思いで、市民討議会と別事業として、「かたるべ五所川原~20年後の故郷と私の未来を考える」を10月に開催することにしました。事前に、市内の高校に参加依頼を丁寧に行ったほか、多様な参加者を確保するため、市議会議員、市役所の若手職員にも声を掛けました。当日は、市内5高校の生徒計32人のほか、市議会議員8人、市役所職員10人、JCメンバー25人、総勢75人でワールドカフェによる対話を行いました。
冒頭、20年前の五所川原市の駅前の写真を確認し合ってから、「20年前の五所川原市になく今あるものは?」のクイズでアイスブレイクを行いました。その後、「五所川原市の自慢に思うこと、残念に思うこと」「20年後あなたはどんな大人になっていたいか」「20年後なりたい大人になっているために、今五所川原市に必要なこと、また皆さんに必要な経験、行動は」の3つの問いで、席替えをしながら対話を行いました。
最後に、「ありたい大人になっているため、踏み出したい一歩」の問いに対して、個人の振り返りとして紙に書いてもらいました。全体での振り返りの時間では、参加した高校生から、「大人にしっかりと自分の話を聞いてもらえた」「なりたい仕事に就くために頑張ることの大切さを教えてもらった」「普段考えないことを考え、色々な大人がいることを知り楽しかった」など評価する意見がたくさん出ました。参加した市議会議員からも、「地元で働きたいという高校生の切実な声を聞き、その声に応えたい」といった感想がありました。
JCがつなぐ高校生と地域の未来
高校生と地域の大人との対話の場は、高校生が地域の課題を知り、考えるきっかけとなり、主権者としての自覚を促します。それだけではなく、地域の大人と一緒に考えることで、発想の広がりと新たな気付きが生まれます。その結果、地域への愛着も生まれ、主権者教育だけではなく、将来のUターンなど地方創生としての効果もあると思います。地域に根をはり、経済活動を行っているJCメンバーが、地域で活躍する本気の大人の姿を示す意味でも、価値のある取り組みだと思います。
しかしこうした場は、JCだけではなく、地域の様々な主体が作れると思います。今回のようにJCが中心になっても、可児市議会のように議会が音頭をとっても、もちろん行政が主体に行っても構いません。将来の地域を担うリーダーの育成を高校だけに任せるのではなく、地域の様々な主体が高校と連携して取り組むことが重要になります。高校生だけで地域のことを考えても、情報のインプットを工夫しなければ、フラッシュアイデア(思いつき)しか出てきません。地域の多様な大人と一緒に考えるからこそ、双方に気付きも大きいと思います。主権者教育、地方創生の両面からも、こうした場が全国に広がってもらいたいと思います。
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青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
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- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。