養護施設よりも「家庭」を優先すべき―児童福祉法の改正で何が変わるのか (2017/4/21 政治山)
2017年4月1日、改正児童福祉法が施行されました。今回の法改正では、養子縁組に関する相談や支援が児童相談所の業務として明確に規定され、乳児院や児童養護施設などの施設で暮らすよりも、養子縁組や里親制度を利用して家庭で育つことを原則とすべきと示されています。実際には、子どもたちが置かれている状況はどのように変わるのでしょうか。日本財団福祉特別チームのチームリーダー高橋恵里子氏にお話をうかがいました。
実の親のもとで育つことのできない子どもは4万6千人
- 政治山
- 日本では、社会的養護下にある子どもの多くが施設で育っているとのことですが、その実情をお聞かせください。
- 高橋氏
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一般に、子どもたちの多くは生まれた家庭で育ちますが、何らかの事情で生みの親の家庭で育つことのできない子どもたちもいます。その理由は親の死亡や病気、育児困難、育児放棄、虐待などさまざまです。こうした子どもたちを公的責任で養育し保護することを「社会的養護」と呼び、日本では約4万6千人の子どもが対象となっています。
日本では、社会的養護下にある子どものうち、約85%が乳児院や児童養護施設などの施設で、約15%が里親家庭やファミリーホームで暮らしており、養子縁組もあまり行われてきませんでした。諸外国では里親制度や養子縁組により、子どもが家庭で暮らすことが優先されています。日本でも子どもが家庭で暮らせるようにする取り組みがさらに必要です。
実の親子関係に準ずる特別養子縁組
- 政治山
- 養子縁組と里親制度とは、どのように違うのでしょうか。
- 高橋氏
- 養子縁組が法律上の親子関係を成立するのに対し、里親と子どもとの間に法的な親子関係はありません。里親は、里親手当てと養育費の支給を受けて、一時的に子どもを養育します。
- 政治山
- 養子縁組と特別養子縁組はどのように異なるのでしょうか。
- 高橋氏
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養子縁組とは、親子関係のない者同士に、法律上の親子関係を成立させる制度で、普通養子縁組と特別養子縁組があります。日本では、実親との法的な親子関係の残る普通養子縁組が、家系の存続の目的や連れ子のいる結婚で、以前から広く行われてきました。
特別養子縁組は1987年に民法の改正で導入された制度です。特に子どもの福祉を目的としており、何らかの理由で生みの親が育てることができず、親を必要とする子どもに実親子関係に準ずる安定した親子関係を成立させるものです。生みの親と子どもの法的な親子関係がなくなり、養親の戸籍には長男、長女など実子に準じた表記がされます。
家庭で育つことは子どもの権利
- 政治山
- 里親よりも養子縁組が、普通養子縁組よりも特別養子縁組が望ましいとお考えですか。
- 高橋氏
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子どもが家庭で育つことは、子どもの権利です。日本も批准している「子どもの権利条約」でも、「その人格の完全なかつ調和のとれた発達のため、家庭環境の下で幸福、愛情及び理解のある雰囲気の中で成長すべきであることを認め」ています。
もちろんまず実親の元での養育が優先されるべきですが、子どもが実親の家庭に復帰できない場合は、養子縁組という恒久的な家庭養育(パーマネンシー)を見出す努力が一番に求められています。
恒久的な家庭養育が見つかるまで、もしくは養子縁組が不可能、またはその子どもに最善の利益をもたらさない場合は、できる限り里親による家庭養育が求められます。それが難しい場合には、施設といった代替的養育の確保が必要となります。
- 政治山
- 日本の場合は、その優先順位が逆転してしまっているのでしょうか。
- 高橋氏
- イギリスやアメリカでは、子どもにとって安定し継続した家庭を提供することを重視し、生みの親による養育が望めない場合は、積極的に養子縁組に取り組んでいます。日本の特別養子縁組の数は諸外国と比較すると少なく、取り組みが遅れているのが現状です。
児童相談所だけでなく、民間機関の活用促進も
- 政治山
- 今回の法改正で、その状況は改善されるのでしょうか。
- 高橋氏
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養子縁組に関する相談や支援が、児童相談所の業務として明記されたことは大きな前進ですが、やはり法改正だけでは不十分で、これからの活動がより重要であると考えています。
例えば、多くの児童相談所が現在の業務で手一杯で、人員不足に陥っています。自治体職員は数年で異動してしまうケースも少なくなく、ソーシャルワーカーが育ちにくいという課題や、特別養子縁組は6歳までという制限が妥当なのかといった議論もあります。今後は自治体職員の研修や、民間の里親支援機関や養子縁組機関との連携、特別養子縁組に関する民法の改正などが必要です。
- 政治山
- 確かに、児童虐待に関する相談が年間10万件を超えるなど、児童相談所の現状を考えると、養子縁組にまで対応するのは難しそうです。
- 高橋氏
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2016年12月に「民間あっせん機関による養子縁組のあっせんに係る児童の保護等に関する法律」(養子縁組あっせん法)が成立しました。これにより、民間養子縁組機関による養子縁組の質も担保され、さらに推進されることが期待されています。
自治体と民間機関とでは手続きが異なりますが、連携しているケースもあります。あくまでも子どもの権利を最優先に、養子縁組と里親制度の普及に取り組んでいきます。
―取材を終えて―
政治山では4月4日に行われた「養子の日」イベントの様子を紹介し、多くの読者から反響をいただきました。
「4月4日は「よーしの日」、養子の日キャンペーンに川嶋あいさん登壇」
そのイベントの中で、自らも養子縁組により養親に育てられた川嶋あいさん、そして養親として3人の子どもを育てている養親の佐々木啓子さんは、揃って「血のつながりは重要ではなかった」と語りました。
養子縁組が破談となる理由の多くは実親の同意が得られないということですが、それ以前に養親になることを躊躇う人が多い背景には、制度の複雑さや経済的負担の他に、「血筋」を重んじる親しい人たちの目であったり、実親のいない子どもに対する偏見があるように感じられます。
血筋に対する価値観は人それぞれ異なりますが、世間体や大人の都合ではなく、目の前にいる子どもたちにとって何が大切なのかを考えたときに、「すべての子どもにあたたかい家庭を」と誰もが思えるような、あたたかな社会であってほしいと願ってやみません。
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