9割はロービジョン―視覚障害者のホントを見よう  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ >  ソーシャルイノベーション >  9割はロービジョン―視覚障害者のホントを見よう

9割はロービジョン―視覚障害者のホントを見よう (2016/12/13 日本財団)

ロービジョン(低視力)の人が大半
社会参加促進目指しシンポジウム開催

視覚障害者の社会参加促進を目指す「isee! 視覚障害者のホントを見よう」シンポジウムが12月1日、東京・赤坂の日本財団ビルで開かれました。公益社団法人NEXT VISION(ネクストビジョン)が主催、日本財団が共催したもので、全国から視覚障害者ら約170人が参加しました。視覚障害者というと全盲のイメージが強いが、実際には相当程度見えにくい状態(ロービジョン=低視力)の人が約9割といわれています。医療の発達で今後、ロービジョンが増えると予想され、こうした人たちの社会参加促進が課題となっています。

学者、障害者、医者によるパネルディスカッションを聞く参加者

(左から)近藤武夫、初瀬勇輔、三宅琢の3氏によるパネルディスカッションを聞く参加者

わが国の視覚障害者は約164万人で、このうち全盲が18.8万人、残る約145万人はロービジョンといわれています。こうした人たちは学んだり、働いたりしながら生き生きと生活することができるはずですが、就労をとってみると、視覚障害者の就職件数が少なく、障害者全体の約3%にとどまっています。企業の人事担当者の意識調査によると、多数の人が「視覚障害者の採用が最もハードルが高いと感じる」と回答しています。

一方、iPS細胞の臨床応用などで再生医療が進歩し、病気の進行を抑え、失明を防ぐことができるようになってきました。こうした中、再生医療の応用・臨床研究を行う研究所と、治療を行う病院、さらに雇用にまでつなげる福祉領域が一体となった、わが国初のアイセンターが2017年10月、神戸市に誕生します。(公社)NEXT VISIONは、iPS細胞による網膜移植を成功させた高橋政代・理化学研究所多細胞システム形成研究センター網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダーが発起人となり、ロービジョンケアの充実を図るため設立されました。

開会あいさつをする三宅代表理事

開会あいさつをする三宅代表理事

開会のあいさつをした三宅養三NEXT VISION代表理事は「ロービジョンの当事者の多くは、見え方の一部に問題があるだけで、適切な治療により社会で十分に活躍できる」と述べ、このシンポジウムを契機に視覚障害者への認知・理解促進を求める国民運動を展開する考えを示しました。NEXT VISIONは、神戸アイセンターの完成後、同センターの福祉領域部分の運営を担うことが決まっています。

基調講演で視覚障害者への認知・理解を求める高橋理事

基調講演で視覚障害者への認知・理解を求める高橋理事

この後、シンポジウムに移り、最初に高橋政代NEXT VISION理事が「iPS細胞とロービジョンケア」と題して基調講演を行いました。高橋理事は視力について「見えるか見えないかは相対的で、心の持ち方によって目の活動性が違ってくる。視覚障害者が見えにくいといっても色々な見え方があるが、一般の方にはなかなか分かってもらえない」と指摘。視覚障害者といわれると仕事ができなくなり、家に閉じこもりがちになる人が多いと述べ、「当事者も家に閉じこもらないで、積極的に社会に出て欲しい」と強調しました。さらに、高橋理事はiPS細胞による治療効果について「今はコストも高いが、10年20年たつと良く見える治療になってくる」と語りました。また、自動車の運転は今後、自動運転に変わっていくと予想し、視覚障害者もその恩恵を受けられるよう、社会に働きかけていくことを誓っていました。

基調講演で人工知能時代について語る中邑教授

基調講演で人工知能時代について語る中邑教授

続いて、日本財団と「異才発掘プロジェクト」を推進している中邑賢龍・東大先端科学技術研究センター教授(NEXT VISION理事)が「人工知能(AI)時代の能力と学び方・働き方」と題して基調講演しました。中邑教授は「人工知能の時代になると、能力があっても人間ができる仕事はなくなるかも知れない。では、どんな人たちが生き残るのか、というと、“好きなことをしたい”、とか“色々なことがしたい”という人たちではないか」と語りました。また、人とテクノロジーとの共生を考えなければいけないと述べ、「常識にとらわれない、新しい生き方を考えるきっかけにしたい」と述べました。

この後、就労に焦点を当て、視覚障害者がどのように働いているか、どうすれば働くことができるかについてアイデアを募集・審査した結果、成功事例部門で14件、アイデア部門で14件が表彰されました。アイデア部門のうち、6件については「実現可能性とビジネス要素を多く含んでいる」として日本財団から「ビジネスプラン賞」が贈られました。

(左)成功事例部門で受賞した個人・団体、(右)アイデア部門で受賞した個人・団体

(左)成功事例部門で受賞した個人・団体、(右)アイデア部門で受賞した個人・団体

最後に、「多様性を認めるインクルーシブな社会の実現にむけて」と題して、パネルディスカッションが行われました。パネリストは近藤武夫・東大先端科学技術研究センター人間支援工学分野准教授、初瀬勇輔ユニバーサルスタイル代表取締役(NEXT VISION理事)、三宅琢Studio Gift Hands代表取締役(東大先端科学技術研究センター特任研究員)の3人。最初に近藤准教授が障害者の雇用問題について「週20時間以上働くと雇用保険に入れるが、障害者によっては20時間も働けない人がいる。そこで短時間で雇用され、多人数の長期雇用の場を生み出す新しい雇用モデルを採用すべきだ」と提案しました。たとえば週4時間働ける障害者を8人雇用すれば週32時間となる。「こうすれば障害者と一般の人が一緒に働くことができる。我々はすでに企業や行政と一緒に、こうしたシステムを始めている」と述べました。

 視覚障害者の初瀬さんは学生時代、120社に対し求職活動をしたが、面接できたのは2社だけで、障害者の就職の難しさを実感したといいます。ただ、柔道をやっていたお陰で就職口が見つかったと述べ、「スポーツは人を認め合う土壌になる」と話していました。
一方、眼科専門医の三宅さんは、ある小学校でやりたい仕事をアンケート調査したら、1位は公務員で、2位はユーチューバーだったといい、「これからは会社に行かずに働くなど、多様な社会になっていくだろう」と述べました。また、「人間が不平等なのは情報が平等に届いていないことだ。チャンスを平等にするために、情報が皆に届くようにしていきたい」と、抱負を語っていました。

低視力体験メガネを試す見学者

低視力体験メガネを試す見学者

日本財団1階のバウルームでは、11月28日から4日間、エキシビションが行われ、成功事例やアイデア部門の応募作品のほか、低視力を体験するメガネ、道を案内する誘導路マット、字や図表の拡大装置などが展示され、多数の人が見学に訪れました。

●公益社団法人NEXT VISION ウェブサイト

Sponsored by 日本財団

日本財団ロゴ
日本財団は、1962年の設立以来、福祉、教育、国際貢献、海洋・船舶等の分野で、人々のよりよい暮らしを支える活動を推進してきました。
市民、企業、NPO、政府、国際機関、世界中のあらゆるネットワークに働きかけ、社会を変えるソーシャルイノベーションの輪をひろげ、「みんなが、みんなを支える社会」をつくることを日本財団は目指し、活動しています。
関連記事
1月5日は「遺言の日」―紀伊国屋書店でフェア開催予定
保護より機会を―障害者の就労支援「はたらくNIPPON!計画」
就労支援で再犯防止へ―職親プロジェクト、新潟でも
小児在宅ケアの専門人材育成へ、鳥取大医学部に支援センター開設
ソーシャルイノベーション関連記事一覧