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【元国土交通省 佐々木 晶二氏 #1】役人の意欲が落ちていた時に大震災が発生 (2018/4/22 HOLG.jp

関連ワード : インタビュー 公務員 災害 防災 

元国土交通省 佐々木 晶二氏

【佐々木 晶二 経歴】
1978年静岡県立静岡高校卒業、1982年東京大学法学部卒業、建設省入省。その後、岐阜県都市計画課長、建設省都市計画課課長補佐、兵庫県まちづくり復興担当部長、国土交通省都市総務課長、内閣府防災担当官房審議官、国土交通省国土交通政策研究所長を歴任。著書「最新 防災・復興法制―東日本大震災を踏まえた災害予防・応急・復旧・復興制度の解説―」「いちからわかる知識&雑学シリーズ 都市計画のキホン」など。

-まちづくりという観点から、防災や復興に深い知見を持つ佐々木晶二氏。一方、岐阜県や兵庫県へ出向した経験などから、行政と民間のハブとして地方創生にも関わる。本インタビューでは、佐々木氏の役人としての経験や、地方創生のあり方、地方自治体で働いて感じた課題について伺った。

阪神・淡路大震災 泊まり込みで法案作成

加藤:国土交通省でのお仕事で、大変だったことを教えていただけますか。

佐々木氏:阪神淡路大震災の時に法律を作ったことです。僕は当時30代、課長補佐だったので、一番手を動かして走り回れるポストでした。

 阪神大震災は戦後初の大都市直下型地震だったために、法律もきちんと整備されてなく、その時の都市計画制度の中で何とかしなければいけなかった。そんな中で、被災地に泊まり込みで作業をして、いろんな紆余曲折がありながらも、被災市街地復興特別措置法を作ったんです。

加藤:被災市街地復興特別措置法とはどのようなものでしょうか。

佐々木氏:重要なポイントとして、従来は建築基準法に基づいて2カ月の建築制限を設けるのですが、非常に大規模な災害だったため、復興計画を考える期間を担保するために、2年間まで延長可能にしたんです。

 住民からは「期限が伸びたならゆっくり計画した方が良い」など、さまざまな議論がありましたが、地元の兵庫県と神戸市は既に動き出していたために、当時はあまり使われなかったんです。その後、2013年の東日本大震災では広く使われました。

1カ月で法案を作成

加藤:阪神・淡路大震災では、どのように実務をこなしたのでしょうか。

佐々木氏:1994年1月17日に発災してからすぐに法律・条文を作って、財務省など各省との調整をし、ひと月で法案を国会に出しました。国会も頑張ってくれて、丁度、ふた月ぐらいで法案が成立したんですね。普通の法案は半年くらい準備するところを、泊まり込みで通常の10分の1ぐらいの期間で作ったというのが、非常に印象に残っています。

加藤:驚異的なスピードですね。

佐々木氏:当時は今より、役人が主体的に動くことを政治家が温かく見守っていてくれた時代だったので、「良いことはやれ」と応援してくれ、スピーディーに進みました。

役人に仕事を任せてくれなかった

加藤:東日本大震災にも関わりましたが、どのような役割をされましたか。

佐々木氏:都市部の総務課長として財務省との調整にあたっていて、夏頃には大枠の復興予算が固まっていました。でも当時、民主党に政権交代したばかりということもあり、政治的に混乱していました。

 結局、法律や災害対応の予算が成立したのは、翌年の1月と遅くなってしまいました。やはり振り返ると、阪神淡路の時は本当に対応が早かったです。

加藤:対応スピードの差は、どんな要因で生まれましたか。

佐々木氏:東日本大震災の時の政権は、「役人は勝手なことするな」というスタンスでした。法案を作って財務省や各省と調整をし、予算と法律ができても、役人に任せてくれないために、それ以上先が決まらず時間がかかってしまいました。

 また、国の役人が地方自治体に対してさえも、主体的に話をしてはいけないと言われていました。たとえば、「今まで盛土の費用には補助は出なかったけど、今期は補助が出るよ」とか「こういう方向に行きそうだよ」という情報は、県や市の職員にとって、予測を立てるために必要な情報ですよね。そういった相談が自治体から来ても説明してはいけなかったんです。その運用体制はとても不評でしたね。

政治行政の役割分担が必要

加藤:役人以外の誰が説明をするのでしょうか。

佐々木氏:政務三役(大臣・副大臣・政務官)が直接自治体に対して説明をすると言っていました。でも、都道府県と政務官が話しても、実務面の細かいことがわからないですよね。

 そもそも、政治家や市長、そして、自治体の部長が、担当する分野や問題を解決していく視点は全然違うため、それぞれの課題をプロフェッショナルに任せなければならなかったのです。

役人の意欲が落ちていた時に大震災が起きた

加藤:省庁間のやり取りについても制限されていたのでしょうか。

佐々木氏:やり取りをしないと前に進まないので、省庁間のやり取りはしていました。建前上はもちろん、大臣や副大臣や政務官が決めるということにしていましたが。

 しかし、当時は政治家の知見が足りな過ぎるために、最終的に政策案を決定できなかったんです。結局、決めきれない案件については、役人側にまた戻ってくることを繰り返していて、役人側の意欲は極めて落ちていました。その時に、東日本大震災が起きたのはすごく不幸でした。

地方創生の問題点は、思いつきで政策が打たれていくこと

加藤:今の政治と行政の関わり方は、理想に近いと感じますか。

佐々木氏:そうですね。ただ若干、官邸が強すぎる印象はあります。というのも、官邸の力が強くない頃は、各省庁が切磋琢磨して日本のために自主的に動いていました。役人の既得権が守られるといった問題もありますが、合理的な判断がなされることが多かったと思います。

 官邸主導になって大胆なことができるメリットもあると思いますが、施策立案の仕方・プロセスに合理性が働かないまま進んでしまうリスクもあります。特に、内政や地方創生の分野で、長い歴史の中で積み重ねてきたことを振り返らずに、思いつきでどんどん政策を実行するのは、非常に問題だと思いますね。

 たとえば最近のニュースで、23区内の大学の定員を抑える話があります。大学生は自分の学びたい場所で学ぶ権利があり、当然、便利で遊べて楽しい場所に集まってくるもの。この話とセットで地域活性化が議論されていますが、それ以前に教育の機会を奪うという意味で不合理だと思うのです。

 地域が活性化するために、1人当たりの所得の増加が見込める施策をきちんと打つべきにも関わらず、東京の大学の定員を抑えて、地方の大学に学生が行くような施策を進めている。東京大学がハーバードへ学生を取られないように必死になっている時に「何をやっているのかな」と思いますね。

 地方創生の問題は、具体的な政策効果をきちんと考えずに、思いつきで政策が打たれていくこと。日本版CCRCなど、いろんなことが出ては消えしていますよね。KPIも歩行者数が増えるとかあやふやなものではなく、そこで働いている人たちに所得が落ち、地域が豊かになることを第一に考えるべきなのです。

(第2話へ続く)

※本インタビューは全6話です。

提供:HOLG.jp

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