【元国土交通省 佐々木 晶二氏 #2】土地の価格は100倍変わる 既得権者との調整 (2018/4/23 HOLG.jp)
都市計画法の違法な運用を廃止
加藤:地方自治体に出向されていた時に、印象的だった仕事はありますか。
佐々木氏:岐阜県の都市計画課で課長を務めた時に、違法な区域区分の廃止をしました。この仕事はとても大変だったため、印象に残っています。
歴史を遡ると、日本は戦国時代以降、すごく平和で土地も豊富にあったため、みんな散在して生活していました。しかし、高度成長期になり、産業が急速に発展したため人口増加が進みました。このまま都市化が進むと、学校や病院、下水道などのインフラも作りきれないということで、昭和43年に都市計画法が制定されたわけです。都市部の土地を開発できる“市街化区域”に、その外側は基本的に開発を認めない“市街化調整区域”と指定し、現在も厳格に運用されています。
しかし、岐阜県は当時、市街化調整区域の開発許可を緩く運用し、開発させるべきではないエリアでも、実質的には許していたのです。開発許可は、法的に国への報告義務はないので、無断で内密に進められていたわけです。
法律が施行されてから十何年間も放置され、違法な状態が続いていた。そこで、当時、自治省から来ていた副知事とペアになって、その異様な都市計画法の運用を廃止しようと動き出しました。
土地の価格は100倍変わる 既得権者との調整
加藤:どのような方法で、その調整を行ったのでしょうか。
佐々木氏:とにかく既得権が付いて回るため、全部取り上げるというよりは、市街化区域を広げて既得権を少し許して脱法にはしないよう制御をしました。
加藤:区域区分によって土地の価格も変わるため、土地所有者にとっては重要な問題ですよね。
佐々木氏:はい。農地価格と宅地の価格は100倍ぐらい違いますので、開発できなくなれば、100分の1ぐらいになるわけです。
豊かな自然を保護するための規制強化
佐々木氏:兵庫県では「緑条例(緑豊かな地域環境の形成に関する条例)」を作ったのも印象的でした。都市部では市街化区域、調整区域などに土地を区分するけど、それ以外のところは何も規制をかけていないことが多いのです。でも、岐阜県の経験で県がやる気になれば実現できると分かったので、兵庫県全土に森林から農地から全部開発規制をかけました。
農水省の法律だけでなく、県が主体的に開発規制をかけて、曖昧になっていた農地や森林などの区域を「一定の標高以上は全部保全」と決めて豊かな自然を守ろうと動いたことはとても意義のあることだったと思います。豊岡市の“コウノトリの郷”には、絶滅が危ぶまれたコウノトリを放鳥したのです。これも大事な規制強化のひとつですよね。岐阜県では、脱法是正。兵庫県では規制強化、その両方の経験ができたのはとても勉強になり、良かったです。
※本インタビューは全6話です。
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