フリーランス人材に対する労働法制の適用 (2018/2/26 企業法務ナビ)
1 はじめに
政府はフリーランス人材を労働法の対象として保護する検討に入りました。フリーランス人材は事業主とされており、個人であるにもかかわらず、労働法制が適用されないという問題があります。本稿では、問題の背景、検討に入った経緯、関連する法制度、今後の展開を見ていきます。
2 問題の背景
(1) 一般労働者に与えられる保護
一般労働者は、企業と雇用関係に入ります。平成19年11月に成立した労働契約法は、労働契約のいくつかの原則を、同法の基本理念として明らかにしています。
-1- 合意の原則
労働契約は、対等な立場にある使用者と労働者が自主的交渉をすることによって成立します(労契法1条・3条1項)
-2- 均衡処遇の理念
雇用形態・勤務時間の長短にかかわらず、就業の実態に応じた均衡を考慮すべきであるとされています(労契法3条2項)。
-3- 仕事と生活の調和の理念
人口減少により働き手は減少していますが、企業のグローバル化は進んでおり、長時間労働に従事する労働者は増えています。労働者の健康的・生産的な労働を確保するために、この理念が盛り込まれています(労契法3条3項)。
-4- 信義誠実の原則
民法は市民の契約関係を調整する一般法です。個人と企業の雇用契約も、市民の契約関係の1種です。そこで、民法上の基本原則(民法1条2項)に対応した規定が、労契法3条4項にあります。
-5- 権利濫用の禁止
この基本理念も民法上のもの(民法1条3項)であり、-4-と同様の理由で、労契法にも対応した規定があります(労契法3条5項)。使用者と労働者は理念上対等の立場に置かれているものの、使用者には解雇権・懲戒権・配転命令権など様々な権限が付与されているため、実際には、「立場上対等」の理念が崩されやすい状況にあります。そこで、使用者に対し権利の濫用を抑制する目的で、この規定が設けられています。
-6- 労働契約の内容の理解の促進
使用者は労働契約の内容を把握しており、交渉力も労働者よりずっと上であることが多いため、実際には、「立場上対等」という理念が崩されやすい状況にあります。そこで、契約内容に関する使用者の説明義務を明らかにするため、労契法4条1項・2項が規定されています。
*以上 『労働法』 菅野和夫 74頁~76頁(弘文堂、第9版、平成23年)
以上見てきたように、労働者は使用者よりも弱い立場に立たされることが多い状況にあります。国はこのような前提に立ち、一般労働者の労働環境を整備する目的で、手厚い保護を与えています。
(2)フリーランス人材の場合
事業主とは、事業を経営する人や団体をいいます。事業主には、個人事業主や企業が含まれます。個人事業主は一般労働者と同じように1人の人間ですが、定義上は事業主に含まれます。
フリーランス人材とは、特定の企業や団体と雇用関係を持たずに働く個人事業主のことをいいます。例としては、企業に属さないエンジニア・ライター・デザイナーなどが挙げられます。フリーランス人材は、企業とやり取りをする中で不当な搾取等をされる等、一般労働者と同様の問題が発生することがあります。
我が国には労働基準法・労働組合法など、一般労働者の保護を目的とする労働法制が整えられていますが、フリーランス人材には、一連の労働法制は原則適用されません。事業主同士の場合は対等な立場にあり、使用者と比べて弱者の立ち位置に置かれがちな労働者を保護する労働法制の理念にそぐわないことが理由です。フリーランス人材は、労働法制による保護が受けられないことで、企業と雇用関係を持つ一般労働者と比べて不安定になりがちといえます。
3 検討に入った経緯
日本では、人口減に伴う働き手の減少に伴い、官民が「働き方改革」を推進しています。「働き方改革」とは、50年後も人口1億人を維持し、職場・家庭・地域で誰しもが活躍できる「一億総活躍社会」を目指すための改革です。
日本における労働力の減少は先に見てきたとおりですが、働き手の減少は経済の活力減退につながります。様々な理由により現在働けていない人を働けるようにすることで、働き手を増やすことができます。そのためには、一般労働者とは異なる柔軟性の高い働き方を実現する必要があります。このような経緯から、政府はフリーランス人材の労働を安定化させ、もって経済の活力を高める目的で、今回の検討に入りました。
4 関連する法制度
日本で働くフリーランス人材は1000万人を超えます。この中には、ITを駆使して在宅で働く主婦や、副業・兼業の人も含まれます。働き方が多様化していく中で、先日、公取委は、フリーランス人材に独禁法上の保護を与えるため、労働分野に独禁法を適用するための運用指針を公表しました(2月16日付法務コラム『公取委が発表、フリーランス人材を独禁法で保護へ』)。
5 今後の展望
厚労省では、発注側と委託関係にあるフリーランス人材の典型例を想定し、発注側の企業とフリーランス人材との間で結ぶ契約を書類上で明確にするなど、具体案を詰めていく方針です。
新たな法整備も必要となります。労働法制には、ミシン仕事など内職のルールを定めた家内労働法があり、この法律を参考にしながら、法整備の議論も進められていきます。厚労省は2021年の法案提出を目指していますが、企業側の反発を招く可能性もあるため、慎重に検討していく様子です。
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