最高裁が初判断、独禁法の域外適用について (2017/12/13 企業法務ナビ)
はじめに
海外で行われた価格カルテルに対し、日本の公正取引委員会が独禁法を適用して課徴金納付を命じることができるかが争われた訴訟の上告審で12日、最高裁は日本の独禁法適用を認める判決を出しました。今回は海外での海外企業による反競争行為について日本の独禁法が適用できるのか、域外適用の問題について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、2003年5月から2007年3月にかけて、三洋電機など日本企業5社の東南アジア製造子会社に納入する14~21インチのブラウン管を巡りサムスンSDI(韓国)のマレーシア子会社、LG電子(韓国)のインドネシア子会社、LPディスプレイ(インドネシア)など日本企業を含む11社が価格カルテルを締結していたとされております。
11社は2カ月に1回程度東南アジアで会合を行ない、四半期ごとに次の四半期の各社が遵守すべき最低価格を合意していたとのことです。これを受け日本の公取委は2010年3月29日、サムスンSDI系子会社とLG電子系子会社などに計約23億円の課徴金納付命令と排除措置命令を出しました。その後同社は審決取消を求め提訴、昨年1月29日、東京高裁が請求を棄却しました。
独禁法の域外適用とは
外国企業が国外で行った反競争行為について日本の独禁法が適用できるかという問題を一般に域外適用の問題と言います。例えば日本に輸出している海外企業同士が価格カルテルを行ない、互いに高値で日本に輸出するといった場合が挙げられます。この問題は大きく分けて実体上の管轄権と手続上の管轄権の問題に分けることができます。
前者はそもそも日本の独禁法が適用できるかの問題で、後者は仮にできるとして、日本に拠点を持たない外国企業に対し送達等の手続をどのように行うかの問題です。後者の手続面については日本国内に代理権を有する弁護士等が居る場合にはその者に、それが無い場合は民訴法108条により大使や領事に嘱託するなどの方法が取られます。
実体上の管轄権について
それでは日本の独禁法の適用についてはどのように扱われているのでしょうか。実体上の管轄権については大きく分けて3つの考え方が存在します。まず日本の国内で行われた行為に対してのみ適用するとする属地主義、行為の一部が日本国内で行われていれば適用できるとする客観的属地主義、行為の効果が日本の市場に直接的・実質的な効果・影響を与える場合に適用するとする効果主義に分けられます。
属地主義を取る場合は基本的に域外適用は否定する立場になります。客観的属地主義は一部でも日本で行為が行われたら適用するとして適用範囲を拡張します。そして効果主義はさらに拡張し、日本市場への影響を理由に適用していきます。
審決例の変遷
従来日本においては客観的属地主義、つまり行為の一部が日本で行われた場合に適用する考え方が取られてきたように思われます。三重運賃事件では主たる事業を海外で行っていても、独禁法違反の契約条項が日本の港からの定期航路事業である以上適用できるとしました(審決昭和47年8月18日)。その他にも海外企業が事業の一部を日本国内で行っている場合に適用している例が多いと言えます(審判决定昭和56年10月26日等)。
しかしその後効果主義を取ったと見られる事例も見られるようになりました。放射線医薬品の原料となるモリブデン99の世界シェア1位のノーディオン社(カナダ)が日本企業に他の企業から購入しないという排他的供給契約を締結したことにつき、日本の市場での効果を理由として適用しております(審決平成10年9月3日)。
コメント
本件でサムスンSDI側は日本市場に影響はなく、日本の独禁法は適用できないと主張しておりました。これに対し最高裁は「カルテルによって競争が侵害される市場に日本が含まれる場合、日本の経済秩序を侵害する」とし「日本国内市場の自由競争が損なわれる場合、国外のカルテルでも日本の独占禁止法を適用できる」としました。最高裁として域外適用に初判断を示したことになります。これにより今後、公取委の審決はより効果主義に近づく可能性が高いと言えます。
近年欧米では国際的な反競争行為の取締を強化する流れになっており日本でも外国企業同士の合併について公取委が審査することが平成10年改正で明記されました。カルテルや全量供給契約などの行為は日本国内で行わなくとも違反となり、また日本国内で行っても外国の独禁法が適用されるということも想定できます。来年の独禁法改正案に加え、国際的な取締強化の動きにも注視していくことが重要と言えるでしょう。
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