タカタが中国系企業に主力事業を譲り渡し、事業譲渡について (2017/6/27 企業法務ナビ)
はじめに
26日に東京地裁に民事再生法適用の申請を行ったタカタがエアバッグ組み立てなどの主力事業を中国・寧波均勝電子の系列企業に譲渡する計画であることがわかりました。対価をリコール債務などに当てるとのことです。今回は会社法上の事業譲渡の手続について見ていきます。
事案の概要
報道等によりますと、欠陥エアバッグ問題で経営が悪化したタカタは先日民事再生法適用の申請を行いました。タカタは欠陥により米国でリコール対象となった約5200万個エアバッグのうち64%がいまだ未回収でリコールに必要な費用は1兆3千億円にのぼるとされております。タカタは経営債権の一環として現在主力であるエアバッグ組み立て事業、シートベルト、チャイルドシート事業を中国系企業傘下の米キー・セイフティ・システムズ(KSS)が新設する新会社に譲渡するとしています。譲渡の対価としてKSS側からはタカタに対し約1750億円が支払われ、欠陥エアバッグ問題でのタカタが負う債務は承継しないとのことです。
事業譲渡とは
事業譲渡とは判例によりますと、一定の営業目的のために組織化され、有機的一体として機能する財産を譲渡し、それにより譲受会社が営業主たる地位を承継し、譲渡会社が法律上当然に競業避止義務を負うものと定義されております(最判昭和40年9月22日)。
会社にとって重要な事業を他社に譲り渡すことから株主保護のために株主総会による承認が必要な場合があります。具体的には事業の全部の譲渡か、上記定義に該当する事業で会社の総資産の20%を超える場合に株主総会の特別決議による承認が必要です(会社法467条1項1号、2号、309条2項11号)。ただし譲渡の相手会社が特別支配会社である場合は承認決議は不要です。特別支配会社とは議決権の90%以上を保有する会社を言います。この場合は可決されることが明白なため決議は不要ということです。
事業譲渡の手続
事業譲渡の具体的な手続としてはまず、譲り渡す側も譲り受ける側も取締役会で決定を行います。そして両者間大筋において合意に達したら監督官庁や公取委への報告が必要となる場合があります。これは独禁法上の企業結合規制の一環で、売上高が200億円を超える会社が売上高30億円を超える会社の事業を譲り受ける場合等が該当します。そして両者間で事業譲渡契約を締結します。その後株主総会による承認決議を得ることになり、契約で定めた日をもって現実に財産等の移転手続が行われることになります。
会社分割との違い
事業譲渡に類似する制度として会社分割があります。財産や権利等を一つ一つ個別に譲り渡す契約が必要な事業譲渡と違い、会社分割は事業の全部または一部を包括的にひとまとめとして移転させます。それ故に両者では一定の手続き上の違いが生じます。まず会社分割は一種の組織再編であることから原則的に債権者保護手続きが必要となりますが(789条等)、事業譲渡では不要です。会社分割では債権者は承継される財産を限度に承継会社に債務の請求を行うことができます(759条4項)。
また従業員についても、会社分割では労働関係法令による一定の保護手続きが必要なものの原則として自動的に移転することになりますが事業譲渡ではそれも個別の合意によることになります。そして事業譲渡は個別の財産移転であることから、引き受ける債務も明確ですが、会社分割の場合は包括承継なので想定外の簿外債務を引き受けることもあります。
コメント
本件でタカタは業績が悪化し不採算部門となったエアバッグの基幹部品であるインフレーターに関する事業を残し、業績が健全なエアバッグ組み立て、シートベルト、チャイルドシートの事業を譲渡することとしました。今後具体的な契約締結、株主総会の承認決議を経ることになります。
事業譲渡と会社分割は以上のように様々な点で違いがあります。一番大きな違いは債権者の保護のあり方です。会社分割では債権者異議手続や、優良部門だけ切り離して独立させるといった詐害的分割がなされても承継会社に請求できるといった明文上の規定がありますが事業譲渡では存在しません。
しかしこれは債権者との手続が簡単であるということではありません。事業譲渡の場合、譲受け会社が債務を引き受けることになった場合、原則的には譲渡会社、譲受会社の併存的債務引受ということになり、譲渡会社が債務を免れるためには債権者の承諾が必要となります。また商号を引き継ぐ場合は債務も原則的に引き継ぐことになり、引き継がない場合は登記か債権者への通知が必要となります。
このように事業譲渡は会社分割にはない手続もありますが、簿外債務は無いというメリットもあります。両者の異同踏まえて、どちらを選択するかを慎重に選択することが重要と言えるでしょう。