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ガス小売化にみる独占禁止法 (2017/8/10 企業法務ナビ

関連ワード : 法律 

はじめに

 2017年4月1日より、ガスの全面小売化が始まりました。2016年4月1日には、電力の小売全面自由化が取り上げられ、多くの事業者がこのときも新規参入を試みたことは、皆様の記憶に新しいかと思います。今回は、ガスの小売全面自由化に伴う新規参入について、注意すべき点をみていきたいと思います。その際に、知っておきたいポイントと、その法律上の問題点(特に独禁法)について、検討していきます。

プロパンガス

ガスの小売全面化とは?

 現在敷設されているガス管を利用して、既存のガス会社だけでなく、新規参入会社もガスを供給・販売することができるようになりました。そのため、消費者としては、ニーズに合致したガス会社を選択することができます。今回の自由化以前では、2007年4月に小規模工場などの都市ガスは自由化されており、今度の自由化をもって都市ガスの全面自由化が行われました。

 事業者としては、他の既存サービスと関連させることで、顧客誘引力が発揮できるチャンスといえます。つまり、新規事業への積極的な契機です。もっとも、以下でみるような「顧客となる消費者」や「ガス供給者」との関係も踏まえた、多角的なマーケット分析が必要になるでしょう。

知っておきたいポイント

(1)料金の変化
(2)供給手段に変更なし
(3)以前の利用ガスの原料

(1)料金の変化について
 電力自由化で生じた価格競争と同様に、ガスについても価格競争により低価格に変化しました。価格競争こそ、新規参入者が活きる強みです。事業者としての新サービスを生み出すチャンスになります。ですが、新たなビジネスチャンスに必要なのは、ニーズです。どういうサービスを展開すれば、消費者への魅力につながるのかを忘れてはいけないはずです。

 例えば、顧客獲得のために他の競業事業者よりも廉価な価格にて供給しようとする場合などが、新規事業者で陥りうる独占禁止法違反です。いわゆる「不当廉売」と呼ばれる行為がこれに当たり、課徴金納付命令を課されるおそれがでてきます(独占禁止法19条、20条の4参照)。

(2)供給手段について
 既存のガス管を新たなガス会社でも利用するので、ガス管が新たに増設するわけではありません。また、そうなるとガス管設置事業者とガス管利用事業者とが異なる事態が生じえますが、ガスの品質や点検面でこれまでと変化あるわけではありません。既存のインフラ利用という面で、事業者にはコストカットのチャンスとなっています。一方で、消費者としては、上記の不安が生じると考えられるので、そのケアをしたサービス提供が求められるでしょう。

 その際、新規事業者として知っておきたいポイントとして、アフターフォローと称して点検業務をセットにして販売するようなパッケージでのサービス展開での注意です。これは、独占禁止法が違法行為として規制する、「抱き合わせ販売」(独占禁止法19条、一般指定10項)と認定されるおそれがあります。つまり、『本来的な供給サービス』とは独立した『別個のサービス』を、一体化させて販売する必要がないのに、あえてセットで契約させることが「抱き合わせ販売」に当たる行為なのです。同行為は、課徴金までは設定されていません。ですが、違法性が認められる以上、民事で訴えられれば不法行為(民法709条)が成立しえるリスクを負わなければなりません。

(3)ガスの原料について​​
 最後に、(ア)都市ガス・(イ)簡易ガス・(ウ)LPガスとがあります。今回の自由化の影響を受けるのは、(ア)(イ)の都市ガスと簡易ガスです。これまで簡易ガスは団地等で利用されていましたが、例えば団地にお住まいの方が簡易ガスから都市ガスに変更することもできるようになりました。なお、LPガスは今回の自由化よりも前に自由に切り替えができます。

 ここでは、既存のインフラを利用できる場合もあれば、都市ガスのガス管が敷設されていない場合もありえます。そのリスクヘッジと顧客獲得想定数をマーケティングを用いて行う事業の事前準備が必要です。ですが、後述するような独占禁止法上の違法行為に該当しないよう、営業上の注意をする必要がでてきます。​

独占禁止法との関係

 ガスの小売りが全面自由化されることで、ガスの小売り事業者(供給者)が増え、その結果、利用者獲得のためにガスの小売り料金の価格競争が生じます。そんなとき、独禁法違反として具体的に考えられるケースが生じます。要するに、『既にガス供給者として事業活動を行っていた事業者が、ガスの供給力があるという地位を利用して、新規参入しようとする事業者に対して、供給量に応じたリベートの支払いを強要したり、支払わなければガスの供給をしない、という行為をすること』などです。

 上記の行為を行なえば、強要する場合には「拘束条件付き取引」に該当し、独占禁止法19条の不公正な取引方法に当たり、違法となります(一般指定12項)。また、似たケースとして、ガス供給を問題なく受けられたとしても、『××××円で販売してください』などと言われることも考えられます。そうなると、「再販売価格の拘束」という不公正な取引方法に該当して、違法となります。仮に、こうした行為を要求されたときには、独占禁止法違反である旨を供給者に伝え、リスク回避をするべきでしょう。公正取引委員会に通知することでも不当な行為から回避することにつながります。

 さらに、供給者が供給をしなくなると、「供給拒絶」という行為に当たり、同じく独禁法19条に違反して違法となります。さらに、これらの行為態様が著しく不公正であると考えられる場合には、「私的独占」(同法2条5項)に該当し、3条前段に違反することとなりえます。「私的独占」に該当することとなれば、課徴金納付命令が出され、小売業の事業者は、違法行為時の売上金の2~3パーセントを納付しなければならない事態も生じえます(独占禁止法7条の2参照)。このポイントを押さえておけば、新規事業者としての注意点をお伝えできたのではないかと思います。

コメント

 このように、サービスが自由化されることで消費者にメリットとなる反面、競争激化による事業者間の独禁法違反というリスクがありえます。是非、新規事業を展開する際には、ここに記載した独禁法を武器として、多角的な視点に基づく公正な競争を意識していただきたいと思います。

提供:企業法務ナビ

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