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福島の「食」と「観光」をプロデュース (2017/5/16 東北復興新聞

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食大学と福島学院大学が橋渡し役に

震災で大きなダメージを受けた福島県の「食」と「観光」。その豊かな文化を取り戻そうと、県内各地で地道な活動が続いている。郡山市内でレストランを開業したり、マルシェを開催したりしている一般社団法人食大学と、土湯温泉(福島市)の観光再生に協力する福島学院大学。それぞれ独自のプロデュースによって、前向きな変化が生まれている現場を取材した。

地元農産物を使ったレストランとマルシェ

4月23日、郡山市で県内の農産物を集めた「開成マルシェ」が開催された。生産者と消費者が会話を交わしながら、買い物を楽しむ様子が広がる。主催したのは、2013年8月に設立された食大学だ。郡山市にある日本調理技術専門学校(以下、日調)のフランス料理の主任教員である鹿野正道さんらが中心となって立ち上げた。2014年3月には地元農産物を使った料理を提供するレストラン「Fuku che cciano」(福・ケッチァーノ)のオープンに携わる。翌月から福・ケッチァーノ近くの敷地内で「開成マルシェ」をスタートさせた。福島県内の農産物を、消費者が生産者から直接買える機会をつくったのである。

開成マルシェの様子(4月23日開催)

開成マルシェの様子(4月23日開催)

鹿野さんが勤務する日調は、県内唯一の調理師養成校として「福島県の食文化を向上させる」ことを目標に調理師を育ててきた。鹿野さんは震災を契機に「豊かな食文化を福島県で育てたい」という思いを、さらに強くしたという。

参考にしたのは、フランスの「プレジールガストロノミック」という取り組みだ。シェフたちが、2週間にわたって小学校で食育の授業を行う。「食を楽しむ」ことを子どもの頃からきちんと学ぶフランス人は、大人になるとレストランで食事をする習慣ができ、食への感度の高い客が多いため、レストランに食材を提供する生産者の意識も高いという。

鹿野さんは、こうしてスタートさせた開成マルシェについて「マルシェに行くことで消費者と生産者がおしゃべりしたり、生産者同士が情報交換したりしながら『横』のつながりをつくることが目的だ。売れ行きもいいが、なによりもマルシェを楽しみにしている人が多い。生産者同士の交流も生まれ、ここまで楽しんでくれるとは思わなかった」と率直に語る。

2015年3月には福島県産の食材と生産者、料理人がコラボしたイベント「ふくしま食サミット」を開催。予想以上の来場者が詰めかけ、準備した食材がなくってしまうほどの大盛況だった。こうして生産者や市民の間で食大学に対する期待感が高まり、食大学が主催する催しは、事前告知をしなくても人が集まるようになってきた。

食大学の鹿野さん

食大学の鹿野さん

マルシェなどの催しは好評だったが、開催にかかる労力や費用の負担は大きい。当初は県などの補助金で運営していたが、補助金の支給が切れたときに解散の話が持ち上がったという。実際、例えば震災後に日調が依頼された活動も、補助金の支給終了と同時に途切れるケースが多かった。しかし、ある生産者から「食大学も同様なのか。我々は食大学を信じてやってきた」と叱咤激励され、「辞めるわけにはいかない」と思った鹿野さんらは、今まで無料だった出店料を生産者から徴収することにして、運営費を賄いながら今後も続けていく決意を固めた。

夢はスペイン各地の食が集まる「サンミゲル市場」のようなマルシェを福島県内につくること。震災直後に、首都マドリードで開催された世界最大の食の祭典「サロン・ド・グルメ」に参加したときに目にし、感銘を受けたという。そこに生産者と消費者が集い、料理人が食の紹介をする。このように福島の食の文化が広まれば、県外からも観光客が集まり、シェフに憧れる子どもたちも増えるかもしれない。「時間はかかるかもしれないが、食を通して豊かな福島県をつくり上げたい」と鹿野さんは語る。

温泉地の観光振興へ。学生が作成した「若旦那図鑑」

一方、観光客の減少に直面している福島市の土湯温泉では、福島学院大学の学生がパンフレットを作成するなどして温泉地を盛り上げている。

土湯温泉は、建物の損傷や風評被害による経営難により、震災前に16軒あった旅館が一時期には11軒に減った。10年前まで50万人を超えていた宿泊客も、2011年には30万人を割り込んだ。危機感を抱いた旅館の若旦那たちは、観光振興と地域活性化のために立ち上がった。この通称「若旦那プロジェクト」の一環で、首都圏を対象に配るパンフレットを作成したのが、福島学院大学でグラフィックデザインやウェブデザインを教える木村信綱准教授の研究室だ。

木村さんは土湯温泉にゼミの学生を連れていき、学生の目線で若者に魅力的に映るコンテンツを考えさせた。すると、学生たちはある若旦那が「イケメンだった」と口を揃えたという。そこで、単に「来訪して、宿泊してください」とお願いするのではなく、30代以上の女性をターゲットに「若旦那たちを応援したい」と思ってもらえるようなパンフレットを作成することにした。タイトルは「若旦那図鑑」。表紙には、イケメン若旦那を大きく載せた。

「若旦那図鑑」第1号を手にする初代制作スタッフ4名(提供:福島学院大学木村ゼミ)

「若旦那図鑑」第1号を手にする初代制作スタッフ4名(提供:福島学院大学木村ゼミ)

都内でのPR活動で実際に若旦那たちがパンフレットを配布したところ、「自分たちが知らない芸能人が来た」と勘違いする人もいて、握手やサインを求めて行列ができるなど大きな反響が生まれた。「これが契機になって、最初は2号の予定だった発行が、急遽4号まで出すことになった」と木村さん。その後はマスコミや旅行雑誌に取り上げられたり、若旦那たちを主人公としたマンガ本が発売されたりもした。さらに土湯温泉だけではなく、市内の飯坂温泉と高湯温泉、二本松市の岳温泉の4つの温泉地が連携。各旅館の若旦那たちが一緒になってイベントを開くなど、温泉地の観光を盛り上げている。

福島学院大学の木村さん

福島学院大学の木村さん

一方、大学にもここ数年、「地域のために何か勉強したい」という動機で首都圏ではなく地元の大学での学びに期待し、入学するケースが増えている。さらに、実際に若旦那のような地域の人たちと関わることで、学生は「自分たちも役に立てる」と自信を持ち、授業や就職活動へのモチベーションにつながっていると木村さんはいう。

「食」と「観光」を巡るこうした連携の影には、食大学と福島学院大学のような事業者と消費者をつなげるプロデューサーの存在があった。このような連携は、地域を盛り上げていくうえで今後ますます必要とされていくに違いない。

文/武田よしえ

提供:東北復興新聞

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