公取委がアマゾンに立入検査、拘束条件付取引とは (2016/8/9 企業法務ナビ)
はじめに
インターネット通販大手の「アマゾン」が、同社の運営する通販サイトに出品する業者に対し不当な条件を強制していた疑いで、8日、公正取引委員会は同社に対して立入検査を行っていたことがわかりました。独禁法は相手業者に対し取引をする条件として不当な条件等を強いることを禁止しています。今回は拘束条件付き取引について概観します。
事件の概要
アマゾン社の日本法人「アマゾンジャパン」(東京都目黒区)は同社が運営する通販サイトに出品を希望する業者に対し、その業者が他の通販サイトにも出品している場合には、その価格と同じかそれ以下の値段に設定して出品するよう条件を示していたとされています。それにより他の通販サイトで購入する場合よりも価格が安くなり価格競争上有利になるようにしていたとのことです。公取委はこれらの行為が独禁法上禁止されている拘束条件付取引に該当する恐れがあるとして8日立入検査いに踏み切りました。アマゾン社は昨年6月にも電子書籍の販売に関して同様の行為を行った疑いでEUの競争当局から調査を受けています。
拘束条件付取引とは
独禁法は取引の相手方の事業活動を不当に拘束する一定の行為を禁止しております。2条9項4号では再販売価格の拘束を、2条9項6号二の規定を受けて定められている一般指定の11項では排他条件付取引を禁止しております。そしてそれらに該当する行為以外にも一般指定12項で「相手方の事業活動を不当に拘束する条件をつけて、相手方と取引すること」を禁止しております。取引の相手方との契約に条件を盛り込むことは契約自由の原則から本来自由ですが、公正な競争秩序を阻害し「不当」である場合に違法となります。
行為要件
拘束条件付取引の行為要件は、上でも述べた通り再販売価格の拘束、排他条件付取引以外の取引相手方を拘束する条件を付けて取引を行うことです。自己が販売する製品をそのまま販売する小売業者に価格設定を拘束する条件を付した場合には再販売価格の拘束になりますが、加工して別の製品として販売する場合や、その製品を使用して別の役務を提供する場合には拘束条件付取引となります。他の競争者と取引しないことを条件として取引する場合は排他条件付き取引となりますが、安売りを行う業者流さないことを条件とする場合は拘束条件付取引となります。メーカーが卸売業者に対し特定の小売業者としか取引できないようにすることも該当します。
効果要件
相手方の事業活動を拘束する条件を付して取引を行い、それによって公正競争が阻害されるに至った場合に「不当に」と評価されることになります。ここにいう公正競争阻害性とは自由な競争を減殺する場合や、競争の回避効果が認められる場合を言います。その判断にあたっては、拘束の態様や強度、事業者の規模やシェアといった市場における地位等を総合的に考慮することになります。市場に及ぼす効果が競争の減殺や回避を超えて競争の実質的制限にまで至る場合には不当な取引制限(2条6項)や私的独占(2条5項)に該当し得ることになります。
コメント
本件でアマゾンは相手事業者に対し他の通販サイトでの価格よりも安く設定することを条件に出品させていたと言われております。これは「相手方の事業活動を」「拘束する条件」を付して取引することに該当し行為要件を満たすことになると言えます。アマゾンは楽天と並び日本国内市場において屈指の大手通販業者です。出品を希望する業者はアマゾン側が提示する条件を飲むことを余儀なくされており、拘束の強度は強いと言えます。日本の通販市場に及ぼす影響は少なくないと言えるでしょう。
自己と取引せざるを得ない小規模事業者に対して、自己の優位な立場を利用し継続して不当な行為を行った場合には優越的地位の濫用(2条9項5号)にも該当し課徴金の対象となることもあり得ます。このように独禁法が規制する行為は行為要件、効果要件ともに微妙な程度問題であるとも言えます。自己に有利な条件で契約することは当然ですが、市場に不当な影響を与えるに至っていないか、不当に相手の経済活動に影響を与えていないかに留意することが重要と言えるでしょう。
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