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FinTechを取り巻く法規制-仮想通貨- (2016/7/27 企業法務ナビ

はじめに

ITを武器にユーザ目線の新たな金融サービスを提供する“FinTech(フィンテック)”が日本でも大きな注目を集めている。

話題のFinTechへの注目を加速度的に高めるきっかけとなったのは、ビットコインをはじめとする仮想通貨の登場である。

仮想通貨とは、当該仮想通貨のユーザーコミュニティ内での合意によってのみ通貨的な機能を有する、電子的に記録された財産的価値であり、いかなる法域においても法定通貨としての地位を有さないものをいう。

仮想通貨は、その移転が迅速かつ容易であり、匿名で利用できることから、マネー・ロンダリングやテロ資金に悪用されるリスクが指摘されており、規制の導入が急務とされていた。

2016年5月25日には、仮想通貨を規制する改正資金決済法が成立し、公布後1年以内に施行する。

そこで今回は、FinTechとは何かについて触れた上で、改正資金決済法をはじめとする、仮想通貨にまつわる法規制について解説する。

コイン

FinTechとは

FinTechとは、Finance(金融)とTechnology(技術)を融合させた造語であり、インターネット関連技術をはじめとする最新のITの力で、既存の金融ビジネス秩序をより便利で効率的なものに再編成しようとする試みを指す。

2015年度の国内FinTech市場規模は約34億円の見込みであるが、ブロックチェーンの急速な拡大や、官民による支援体制の整備などを背景に、2020年度には約568億円に急拡大すると予測される。

FinTechとして提供されるサービスの分野は多岐にわたっており、国内では、決済、資産管理、資産運用、仮想通貨、ソーシャルレンディング、金融情報、会計等のサービスが提供されている。

そのようなFinTechサービスの一部である仮想通貨には、様々な種類があり、現在確認されている仮想通貨の種類は600以上といわれている。

仮想通貨vs国家 ビットコインの衝撃
http://www.nhk.or.jp/gendai/articles/3455/1.html

仮想通貨と改正資金決済法

1.規制の概要

顧客に対して仮想通貨を販売する販売所、交換所や、顧客の売り注文と買い注文をマッチングさせる場を提供する取引所を営む場合、仮想通貨交換業の登録を受ける必要がある(改正資金決済法(以下法文名は省略する。)63条の2)。

2.仮想通貨の定義

以下の要件を全て満たすものを仮想通貨という(2条5項、6項)。

(1)物品購入・サービス提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用でき、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却できるもの

(2)電子的に記録された財産的価値で、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの

(3)法定通貨建で表示され、または法定通貨をもって債務の履行等が行われる通貨建資産には該当しないもの
e.g.仮想通貨に当たるもの:ビットコイン、ライトコイン、ドージコイン、イーサ、カウンターパーティーコイン
  仮想通貨に当たらないもの:電子マネー、ゲーム内通貨、ポイント((1)の要件を欠く)/国債、地方債、預金通貨、企業が発行する債券((3)の要件を欠く)

3.仮想通貨交換業の定義

仮想通貨交換業を営む者は登録が必要であるが(63条の2)、仮想通貨交換業は大まかに次のいずれかとされている。

(1)仮想通貨の売買またはほかの仮想通貨との交換
 e.g.仮想通貨を販売する販売所、交換所、ATM

(2)(1)の媒介、取次または代理
 e.g.顧客の売り注文と買い注文をマッチングさせる場を提供する取引所

(3)(1)(2)に関して利用者の金銭または仮想通貨の管理

4.登録要件

仮想通貨交換業者の登録要件は以下の通りである(63条の5)。

(1)株式会社または外国仮想通貨交換業者(国内に営業所を有する外国会社で、国内における代表者を置くもの)であること

(2)仮想通貨交換業を適正かつ確実に遂行するために必要と認められる内閣府令で定める基準に適合する財産的基礎を有すること

※国会の審議では、1000万円程度の最低資本金要件と併せて、純資産要件を設けることが考えられる旨の純資産要件を設けることが考えられる旨の政府答弁がなされている。今後、内閣府令で具体的な規定が置かれる予定。

(3)規定を順守するために必要な体制の整備が行われていること

(4)他の仮想通貨交換業者が現に用いている商号もしくは名称と同一の商号もしくは名称または他の仮想通貨交換業者と誤認されるおそれのある商号もしくは名称を用いていないこと

(5)他に行う事業が公益に反しないこと

(6)法人および役員が法に定める欠格要件に該当しないこと

5.行為規制

登録した仮想通貨交換業者には、以下の義務が課せられる。

(1)体制整備義務
利用者保護等に関する措置や、情報の安全管理措置を講じることなどが義務付けられる(63条の8ないし10)。

ここでいう利用者保護等に関する措置としては、誤認防止のための説明(仮想通貨は法定通貨との交換が保証されていないことなど)、利用者に対する情報提供(取引内容、手数料、苦情連絡先など)、金銭等の受領時における書面交付(電磁的方法も可)、内部管理(社内規程の策定、従業員に対する研修の実施など)などが挙げられる。

(2)分別管理義務
利用者が交換所に預託した金銭や仮想通貨について、顧客資産との区分管理を行い、公認会計士または監査法人が区分の状況について外部監査を行うことが義務付けられる(63条の11)。外部監査の頻度は年1回が想定されている。

(3)金融ADR制度への対応義務
法令に基づく自主規制団体の設立を可能にするとともに、他の金融関連業と同様に金融ADR制度(金融分野での裁判外紛争解決制度)への対応が義務付けられる(63条の12)。

(4)報告書提出義務
帳簿書類を作成・保存し、事業年度ごとの報告書のほかに、仮想通貨交換業に関して管理する利用者の金銭の額や仮想通貨の数量、その他の管理に関する報告書を一定の期間ごとに作成し、提出しなければならない(63条の13~63条の14)。

6.監督

内閣総理大臣は、仮想通貨交換業者に対して報告徴求・立入検査、業務改善命令、業務停止命令、登録取消を行う権限を有している(63条の15~63条の17)

7.犯罪収益移転防止法への対応

仮想通貨交換業者は、犯罪収益移転防止法上の特定事業者として指定される。

他の特定事業者と同様に、取引時確認義務、本人確認記録および取引記録等の作成義務、疑わしい取引の届出、体制整備(社内規則の整備、研修の実施、統括管理者の選任等)などが義務付けられる(犯罪収益移転防止法4条、6条、7条、8条、10条)。

取引時確認を行う必要が生じる特定取引の内容は、今後政令で規定されるが、ウォレットの開設など継続的契約の締結時と、一定金額を超える仮想通貨の売買時に取引時確認が必要となることが想定されている。

仮想通貨とその他の金融規制

1.仮想通貨を資金移動の手段として利用する場合

仮想通貨を資金移動の手段として利用する場合、銀行免許や資金移動業者の登録(資金決済法37条)が必要かどうか、すなわち為替取引に当たるかどうかが問題となるが、現在のところ、仮想通貨を資金移動の手段として利用するサービスを行ったとしても、直ちに為替取引の定義に該当するわけではないと考えらえている。

ただし、金銭を預かり、仮想通貨に交換したうえで海外にある自社の拠点や提携会社で換金し、それをもって仮想通貨での資金移動を達成しようとする場合には、為替取引の定義に該当する場合があるとみられる。

2.仮想通貨を決済の手段として利用する場合

事業者が利用者と店舗との間に立って、仮想通貨を決済するサービスを提供する場合、(1)仮想通貨をそのまま送付するサービスや、(2)利用者から仮想通貨を受領し、店舗に対して金銭で送付するサービスが考えられる。

(1)仮想通貨をそのまま送付するサービスを行ったとしても、現在のところ、為替取引の定義に該当しないと考えられる。また、(2)利用者から仮想通貨を受領し、店舗に対して金銭で送付するサービスを行う場合には、収納代行や立替払いに該当するが、これらは現在のところ金融規制の対象外である。

3.仮想通貨を融資の手段として利用する場合

仮想通貨は金銭そのものではないため、仮想通貨を貸し付けるとしても、金銭の貸付けではないとみることができ、貸金業法上の貸付けの契約には該当しないと考えられる。

ただし、仮想通貨は交換所などで法定通貨と交換できるので、仮想通貨を貸し付けるという形式をとりつつ、その目的が金銭の交付にある場合、実質的に貸金業を営んでいるものと評価される場合もありうる。

おわりに

仮想通貨を取り巻く現在の法規制は以上のとおりであるが、仮想通貨の交換所が提供するサービスの形態は急速に進化している途上にあり、法規制もサービスに合わせて発生・変化していくと思われる。
そのため、法令による規制に業界の自主規制を適切に組み合わせて、機動的に対応していくことが重要になる。

提供:企業法務ナビ

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