改正金融商品取引法の概要 (2016/4/20 企業法務ナビ)
はじめに
平成27年6月3日公布されました改正金融商品取引法(金商法)が、平成28年3月1日に施行されました。今回は主な改正のポイントと適格機関投資家等特例業者について見ていきます。
改正に至る経緯
従来、ファンドを立ち上げて投資を募集し、運用するためには金商法上厳格な要件のもとに登録する必要がありました。しかし、2007年の旧証券取引法の改正、そして、現行金商法の成立に伴い、一定の簡易な要件のもとで届出のみでファンドを立ち上げることができるようになっていました。こういったファンドを適格機関投資家等特例業者と言います。1名以上の適格機関投資家と49名以下のそれ以外の適格機関投資家等を対象としたファンドであれば届出のみでよく、厳格な審査もありません。適格機関投資家とは銀行や証券会社等のいわゆる投資のプロが該当しますが、それ以外の適格機関投資家「等」とは特に制限がなく一般の素人も該当します。
この制度により金融庁に届出がされている業者は約3000に登ります。ベンチャー企業の資金集めを促進するための制度ですが、これを悪用する業者が後を絶たず社会問題化しておりました。募集対象に1人でも適格機関投資家がいればよく、プロの業者や機関投資家が名義を貸して、高齢者等の一般投資家に虚偽の説明をして出資させたり、詐欺に利用したりという被害報告が上がっております。
改正のポイント
上記の弊害を踏まえ、平成27年改正では特例業者への規制が強化されました。その主な内容は一般個人の出資の禁止、届出事項の一部公表による業者の透明性確保、問題のある業者への対応の強化が挙げられます。以下内容を見ていきます。
(1)一般個人の出資の禁止
従来出資者は適格機関投資家1名以上とそれ以外の49名以下の適格機関投資家「等」構成されていればよく、プロ以外は全員素人でも可能でした。本改正では適格機関投資家等の範囲を金融商品取引業者、国、地方公共団体、届出業者、上場会社等に限定し、一般個人は除外されました。これにより一般の高齢者から投資を募集したりすることができなくなります。1名でもこのような一般の出資者が含まれる場合は登録の必要な本来のファンドとなり、無登録で行った場合は5年以下の懲役または500万円以下の罰金が課されることになります。
(2)届出事項の拡充および公表
届出の際に要求される届出事項と添付書類が新たに追加されます。届出事項として特例事業者の営業所、事務所の名称と所在地、投資内容、全ての適格機関投資家の商号、名称氏名等。添付書類として誓約書、定款、登記事項証明書等が追加されます。そしてこれら届出事項のうち、機関投資家の商号、名称等以外の全ての事項がウェブサイト等で公表されることになります。
(3)欠格事由
本改正で新たに欠格事由が導入されます。(1)金商法上の登録が取り消された日から5年以内の者等(2)法人について役員等が成年被後見人、被保佐人等に該当する場合(3)当該個人が成年被後見人、被保佐人、反社会的勢力に属する者(4)外国に住所を有する個人で、国内に代理人を定めていない者、等が欠格事由として挙げられております。また上記届出の際の添付書類の誓約書にこれら欠格事由に該当しない旨記載することが必要です。
(4)行為規制の拡充
従来の虚偽説明、損失補填の禁止に加え、顧客に対する誠実義務、名義貸し禁止、広告規制、契約締結前の書面交付、断定的判断の提供禁止、忠実義務、善管注意義務、自己取引の禁止等新たに行為規制が拡充されます。
(5)問題のある業者への対応強化
従来は問題のある業者への対応として警告書を送っていました。本改正でこういった業者に対して業務改善命令、業務の一部または全部の停止命令が導入され、また立入検査等の権限拡大、裁判所による停止命令の拡大もなされました。さらに、罰則が強化され、無登録営業や虚偽の届出に対しては5年以下の懲役、500万円以下の罰金または併科となり、業務停止命令違反、業務廃止命令違反、届出事項の公表義務違反、業務改善命令違反に対する罰則も新設されました。これにより従来功を奏さなかった金融庁による監視監督が強化されたことになります。
コメント
本来、ベンチャーの資金調達を促進し起業しやすくすることを狙いとしていた適格機関投資家等特例業者の制度ですが、現状、この制度を逆手に取り、法の規制を潜脱し、違法に出資を募ったり詐欺に利用する業者が続出しています。またこのような不正利用を代行する業者まで現れ制度本来の目的からは大きく離れた運用がなされている状況です。今回の改正で、届出に要する書面等がかなり厳格になり悪用目的でのファンド立ち上げは相当困難になると予想されます。これを契機に、本制度が正しく活用され、多数の元気のあるベンチャー企業が生まれ出ることを期待したいと思います。
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