外国人「単純労働者」が解禁されるとどうなる? (2016/7/9 JIJICO)
「単純労働者」とはどのような労働者のことを指すのでしょうか?
自民党がまとめた労働政策に関する提言案は、原則として学者や技術者などの「高度人材」しか認めてこなかった現状を改め、単純労働者の受け入れを容認するよう求めています。自民党の提言における「単純労働者」は、専門的・技術的分野の労働者以外の労働者を指しており、いわゆる肉体労働者とは限らないことに注意すべきです。
今回の提言における「単純労働者」は、専門的・技術的分野以外の就労目的の在留資格を与えることで入国できる労働者のことであり、在留期間については当面5年間と限定されています。いわゆる移民は、何らかの事由で入国の時点でいわゆる永住権を認められた外国人を指しますので、今回の「単純労働者」の議論と混同してはいけません。
「単純労働者」を受け入れるとどういう問題が発生するのでしょうか?
欧米での外国人労働者の受入れに関して社会的な混乱が発生していることをみれば、海外からの労働者の受け入れが大きな困難を伴うことは明らかです。労働のチャンスが減って日本人の失業率が増加する可能性があります。また、健康保険、失業保険及び年金、さらに移民の子供の教育などの費用負担が増加すると考えられます。
さらに、移民の住居場所は大きな社会問題となる可能性があります。同一民族は相互に助け合うために一定の地域に集中する傾向があるため、長期的には移民村のようなコミュニティーが形成されることになります。周辺の地域住民とのコミュニケーションが良好でない場合、その地域が孤立して排他的になるリスクがあり、現在英国で増加しているヘイトクライム(人種差別)が我が国でも起きる可能性があります。
移民受入れ先進国はどのような対応を取って来たのでしょうか?
例えばアメリカのニューヨークは、人種の坩堝(るつぼ)と言われるほど、世界中から移民が集まって暮らしています。移民が就きやすい職業としては、タクシードライバー、土木工事等の現場作業員、高級集合住宅のドアマン(警備員)やコンシェルジュ、中流以下のレストランのウェイター・ウェイトレス、移動屋台(ホットドック、Tシャツ、観光土産等)の販売員、ホテルの客室清掃員、ピザ等のデリバリーのドライバーなどがあります。
すべての移民が合法ということはあり得ず、不法移民は当然社会問題となっています。しかし不法移民を摘発して母国に強制送還するという話はあまり聞きません。低賃金で働いてくれる労働者は、たとえ不法移民であっても社会としては不可欠であるということなのでしょう。我が国において、在留期間が切れた外国人労働者がその後不法滞在をしないという保証はありません。
日本はどうすべきでしょうか?
現在の外国人労働者数は90.8万人と言われています。自民党の提言はこれを倍増しても対応できる制度を構築するべきとしていますので、さらに90万人の受入れを予定していることになります。雇用労働者としての適正な管理を行うために、留学や資格取得等の配慮も含めて就労目的の在留資格を付与するとしていますので、おそらく経済連携協定に基づくインドネシア、フィリピン及びベトナムから看護師候補者・介護福祉士候補者の受入れに似た制度を想定しているのではないかと思われます。
しかし、提言で例示されている労働力が不足する業種は、介護、農業、旅館・ホテル等の業種です。介護以外は専門的な知識や経験及びコミュニケーション能力はあまり必要とされない業種であり、上記の「留学や資格取得」の必要性は乏しいように思います。自民党の提言では、「受入枠の設定については、その設定職種が細かくなりすぎないよう留意する」としていますが、現実的な対応としては業種区分を明確にして受入枠を設定しなければ、事実上の労働市場の開放となってしまいます。慎重な議論を重ねたうえで、対応していくことが必要であると思います。
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