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児童福祉制度のはざまを縫い包括的支援を―「子ども第三の居場所」美作拠点(後編) (2021/11/9 政治山)

(前編から続く)
――今後の運営についてですが、日本財団の方で当初の3年間のスタートを軌道に乗るまで支援して、その後は自治体主体での運営に移行するという方針だと思うのですが、2023年4月に向けて、お考えをお聞かせください。

現行制度でカバーできない子どもたちへの支援

【絹田】 先ほどお話した通り、子ども第三の居場所は、現行の児童福祉制度ではカバーできないサービスを提供できる事業として認識しています。その対象人数は少ないながらも、子どもたち一人ひとりの成長に大きな影響を与えていると実感しています。

 従って、担当課の希望としてはこの拠点を継続して運営していきたいと考えておりますが、その運営費や美作市においても大きな負担を強いられてきますので、今後はあらゆる補助制度を活用しながら運営することができないかと模索しております。

――日本財団の事業担当の方によると、厚労省の来年度予算概算要求に、子どもの居場所に関する新規事業が盛り込まれているとのことです。こちらが「子ども第三の居場所」事業にも適用できるかは詳細を待たなければなりませんが、そういった公的補助の活用なども視野に事業継続を進めていくということになりそうですね。

 事業継続には、予算だけでなく、議会や地域住民の理解も必要になっていくと思いますが、こちらについてはどのような取り組みをされていますか。

【絹田】 英田拠点については、放課後児童クラブがすぐ横にあるので、放課後児童クラブと子ども第三の居場所の違いを子どもたちや保護者に伝えるのは難しく、苦労したところはあります。次年度開設する拠点については小学校の敷地の外にあり、放課後児童クラブは小学校の中にあるので、その点は心配していませんが、「第三の居場所にいる子は特別なんだ」と思われると、子どもたちの中で差別や偏見、いじめの発展する恐れもあります。

 もちろん小学校の先生方には、校長会などを通じてきちんと説明して、ご理解いただくよう努力していますが、他自治体でも差別や貧困から子どもたちを守るための条例制定などが進んでいるように、当市としてもそのような取り組みを考えて行くべきではないかとも考えています。

リモート取材の様子

絹田康雄さん(左)と松坂里恵さん(右)

子ども同士触れ合い、地域の理解が必要

【松坂】 放課後児童クラブに通う子どもや保護者から見て、子ども第三の居場所がどんなところなのか分からないままにスタートし、そのまま1年を過ごしてきたのですが、このままではいけないのかなということで、今年の夏休みに放課後児童クラブとの交流の場を設けました。

 子どもたちや保護者、先生方の一部にはこれまであまり理解されてこなかったところもあったと思いますが、拠点での活動や子どもたちの様子を知ってもらうことで、子どもたち同士も喜んでいましたし、先生方にも事業の意義を分かっていただけたかな、という気がします。またこういう機会を設けることができたらいいのかなと思っています。

 また、公民館内で運営しているので、公民館長さんを軸に地域の輪といいますか、地域での活動も活発になっています。例えば畑を貸していただいたり、季節の野菜だったり果物が採れる時期には呼んでいただいたりと、周りの地域の方にも支えられているように感じます。

――素晴らしいですね。ちなみに今2つの小学校区内の子のお子さんが通われてるというお話でしたが、来年2カ所の拠点が増えると、市内にある小学校区のうち、いくつぐらいがカバーできるのでしょうか。

【絹田】 美作市には小学校が9校あります。拠点が3カ所になると、そのうち6校が利用できるということになっておりますので、残り3校区については今後検討していく予定ですが、人口2万8000人ほどの町で、子どもの数もそう多くはありませんので、助成期間終了後の費用対効果というところも考える必要があります。

 今は、例えばひとり親家庭が多い地域だったり、要保護率が高い地域だったり就学援助が多い地域といったところを優先的に取り組む方針のもと、現在の拠点に加え新たに2拠点の設置を進めています。

 美作市の中心部である旧美作町においては、放課後児童クラブや放課後デイサービスがあって、そういった他の施設やサービスを活用できる地域への設置は優先度が低くなっています。子どもたちの支援を総合的に判断しながら、設置場所の検討を進めていく予定です。

農園

農園

子どもへの支援は将来への投資

――続いて、いま新たな拠点の設置という話もありましたが、子どもの貧困対策や子ども第三の居場所事業の意義と今後の展望について、お聞かせください。

【絹田】 この、子ども第三の居場所事業は、未来の日本を担う子どもたちの将来、大げさに言えば日本の未来に対して多大な影響を与えるものと実感しています。それは運営するスタッフや、行政の職員の力量や心構えも大きく影響するものだと考えています。

 美作市における、子ども第三の居場所は、スタッフ・職員ともに、子どもたち一人ひとりの特性や性格、家庭環境を熟知し、子どもたちと向き合う姿勢を大切にしながら、その子どもたちに合った支援を実施していると自負しています。

 今後はその拠点を増設して、1人でも多く、家庭や学校では十分な養育・教育を受けられない子どもに対して、生き抜く力を育めるようを支援していきたいと考えています。子どもの貧困対策については、現在国では地域共生社会の実現が叫ばれていますが、支える-支えられる関係の循環が求められています。

 その中で、貧困をはじめとする様々な複層的な課題を抱える子どもたちを支援することがこれからの将来において「支える側」になってくれる可能性を秘めており、少しでも良い環境で育っていくことが将来の日本を明るくするきっかけであると感じています。

 子どものいる家庭、もっと言えば将来子どもを持ちたいなと思っている家庭に起こる様々な問題をシームレスにサポートしていく支援が求められるわけで、美作市においては、子どもの貧困対策に特化した政策ではなく、一つの家庭に対して切れ目ない支援をしていくような包括的な福祉行政を目指していきたいと考えております。

【松坂】 そうですね、子ども第三の居場所の現場で働くスタッフとしてですが、当面の予算については、日本財団とB&G財団からの支援があるわけですが、子どもたちの支援において一番大事なのは、やはりスタッフ・職員だと思います。

 スタッフの確保にはじまり、意識づけ、資質の向上といったところにも力を入れていただきたいなと思っています。また保護者の支援というところに当たっては、今まで私たちが経験したことのない支援が含まれているので結構な心労もありますし、そういったところのアフターフォローなども非常に大事になってくるのかなと思います。

 また、現場の私たちが感じている現実、直面している課題、共有している情報などを、自治体職員の皆さんにも知っていただきたいという思いがあります。子どもたちに対してどんな支援をしているのか、また保護者に対してどんなアドバイスをしたりしているのか、もしかしたら保護者から自治体側へ要望が行くこともあると思いますが、現場の実情を踏まえて対応してほしいと考えています 。

 現在拠点を利用している子どもたちと保護者には、一応3年間はこのままで運営しますということは伝えているのですが、4年目からはどんなふうに変化するのは未定なので、保護者の気持ち、子どもの気持ちとしては、このまま、子ども第三の居場所が継続してもらえるようにと強く願われています。そういった子どもや保護者の期待を裏切らないように自治体と協力し合って、今後のことを考えていけたらいいのかなと思っています。

松坂里恵さん

「子ども第三の居場所」英田拠点マネージャーの松坂里恵さん

――今のお話をうかがって、絹田さんいかがでしょうか。実際の現場との関わり方とか、部局内にも理解者を増やしていくとか専門職のサポートが受けられるような体制作りが求められると思いますが。

【絹田】 そうですね。当市において昨年は社会福祉課が担当していましたが、課長や課長補佐にも協力してもらっていました。その課長が今では保健福祉の部長となっていますので、その辺の理解は深く、運営への協力も求めやすい環境かと思います。

 現在の拠点には2つの小学校区から子どもが通っていますが、1つの校区については距離が15キロほども離れているので、毎日送迎しています。スタッフがいないときには、課長や課長補佐にも送迎に行ってもらったりしています。自分が行くだけでなく、上司や同僚にも協力してもらって、その人たちにも自分の目で見て、気づいて学んでほしいですし、子どもたちにも多くの大人と関わってほしいと考えています。

 基本的には市として運営する以上は、やはり組織としてしっかり応援する体制を作っていかないといけないなと思っています。先ほど話のあった職員のスキルや意識づけも、運営する側がしっかりしていなかったら、継続していくことはできません。自治体職員である以上は人事異動も免れませんが、そこも含めて事業継続できる体制を整えなければなりません。子どもの成長は必ずしも1年で成果が出るようなものではなくて、人の成長はそれぞれで、2年3年と長期にわたって取り組み、長い目で支援していく必要があると思います。

 その中で、市としても自主財源が乏しい中、どうしてこの行政を運営していくかというところにおいては、日本財団やB&G財団の助成金を有効に活用しながら、国の補助制度などにもアンテナを張りながら、事業を継続していきたいと考えています。

 日本の未来を支えてくれる子どもたちを支援する事業というのは、長い目で見れば費用対効果も大きいと思います。美作市において例えば年間1500万の運営費がかかるとしても、その投資によって10人20人という子どもたちが、将来、高校・大学を卒業して、自分の力で仕事をしていくということになれば、納税だけでなく地域にとって大きなプラスになります。

 逆に貧困の連鎖から抜け出せず生活保護になれば、1人あたり年数百万円の費用がかかっていく中においては、長い目で見た費用対効果というのは重要になってきます。あらゆる可能性を探りながら、自主財源で運営していく覚悟というものも必要なのではないかと考えています。

――ちなみに市長や議員も施設を訪れたことはありますか?

【絹田】 市長や議員さんも、何度か訪れてくださり、いろいろ助けられています。

――先ほど松坂さんのお話にあった、職員の質やスキルの向上とか、心のケアなども含めて、全国で複数の拠点を支援している日本財団とB&G財団では、好事例集をWEB上で共有し、オンラインの研修制度も進めているそうですね。このような支援が充実していくと業務も進めやすくなるかと思いますが、今実際の現場で具体的に抱えている課題はどのようなものがありますか。

事業継続には人の確保と育成が重要

【松坂】 知識や資格は持っていても、それをどのように活用するかは本人次第だと思います。それを発揮できない人に対する意識づけや、日々の業務の進め方には、なかなか難しいものがあります。新しいスタッフをどういうふうに育てていくのかというところも大きな課題になってきていて、子どもを育てるのに精いっぱいなのにスタッフも育てていかなければならない、二重の苦労のようなものを抱えているマネージャーは少なくないと思います。今後拠点を増やしていく中でも、この辺のケアが重要になってくるのではないでしょうか。

カヌー体験

カヌー体験

――では最後に、これから拠点を増やしていくにあたって、最も課題に感じている点とそれを解決していくための取り組みについて、それぞれお願いします。

【絹田】 市としては、まさに拠点のスタッフの確保が一番ハードルが高くて、人材不足は否めず、先ほど松坂も言いましたが、やはり人それぞれ得手不得手があると思うので、リーダー的に仕切るのが得意な人であったり、言われたことをきっちりできる人であったり、子どもたちと接するスタッフとっていうのは一番大切なところなので、いろんな人に声掛けをしています。

 特に学校の先生などは子どもの扱い方というか、指導する力というのは長けていると思うので、そういう方にもかかわってほしいのですが、60歳で退職されても継続勤務の待遇が良かったりする面もあるので、運営するにあたって人件費というのは重要な要素となってきます。その辺を考えながら、来春までに最低でも4人以上は探さないといけないということで、取り組んでいます。

 また、拠点運営の方針について、市としても3拠点が全部違うわけにはいかないので、大筋はしっかりと堅持しながら、各拠点では裁量的に運営して良いかと思っています。拠点マネージャーごとのやり方もあると思うので、方針で固めるところと、ある程度融通していくところの線引きをどうするか、模索しているところです。

【松坂】 新拠点が2つできるということで、何もないところからスタートした私たちの経験を、伝えていきたいと思います。支援の内容や子どもたちとの向き合い方、保護者との接し方だけでなく、スタッフとしての日々の不安を和らげることができるように、分からないことを共有しあい、一緒に考えることかできるような関係性が必要なのかなと考えています。

 また、スタッフとなる人材を集めるのは難しいので、これは今後市との相談にもなりますが、3拠点でスタッフを共有するというか、入れ替わりをスムーズに行える体制づくりも必要かなと思います。急な休みや入院などによって十分なスタッフを確保できない場合は、別の拠点からスタッフが応援に行くようなことができると、皆で助け合うこともできます。

 先生が変わるということは子どもにとってすごく不安なこともあるんですけど、常時入れ替わるというか、定期的に別の先生が来てくれるようになると、子どもたちにとっても良い刺激になるのかなと。そして拠点間、市全体としても子どもの実態が把握できて、先生方とも幅広く意見交換ができたりして、子どもたちをあらゆる面から支えてあげられるといいなと考えています。

――ありがとうございます。ぜひ次の拠点が開設した際にはまたお話を伺えればと思います。

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