子ども庁を考える特別鼎談前編-「子ども第三の居場所」を軸とした地域連携で切れ目のない支援を- (2021/6/14 政治山)
菅義偉首相は来年度中の「子ども庁(仮)」の創設を目指しています。困難な状況下にある子どもたちに必要な支援を届けるために、政治や行政はどのような役割を果たすべきなのでしょうか。NPO法人新公益連盟 白井智子(しらい ともこ)代表理事、NPO法人Learning for Allの李炯植(り ひょんしぎ)代表理事、日本財団子どもサポートチーム・チームリーダーの本山勝寛(もとやま かつひろ)氏による鼎談の様子を紹介します。
【本山】 日本財団の「子ども第三の居場所(以下、第三の居場所)」は、2016年から事業をスタートしています。経済的な困難はじめ様々な困難に直面している子どもは多く、7人に1人が相対的貧困にあるという状況の中で、子どもたちへの支援は日本の社会にとって非常に大きな課題であると認識しています。
この問題は、経済的に難しければお金を給付すればいいとか、勉強が難しいので塾に通えるように塾代を支援すればいいといった、単純な話ではありません。一部にはそれで変化できる子もいると思いますが、家庭環境もかなり複雑になっているし、ひとり親家庭も増えています。
学校が終わった後の時間を一人で過ごしたり、食事もいわゆる「孤食」の状態になっている子どもたちのために、放課後の時間に安心して安全に過ごせる居場所を用意したいということで、地域のNPOや社会福祉法人などの協力を得て、地方自治体と日本財団と3者間で連携して、第三の居場所を運営しています。
具体的には、学校が終わった放課後に通ってもらって、スタッフと一緒に宿題をしたり、自由時間もただ単に遊ぶだけではなくて、いわゆる非認知能力、生き抜く力を高めていこうという方針のもと、子どもたちが自ら企画を考えてチャレンジするのをスタッフも後押しし、子どもたちの自己肯定感ややり抜く力を高めていくということで、放課後の時間を過ごしています。
一般の学童保育や放課後児童クラブと違うところとして、夕食を子どもたちとスタッフが一緒に食べる時間を設け、その夕食の準備であるとか、毎食一緒にテーブルを囲みながらコミュニケーションを楽しむということもしています。
そして夕食の時間が終わり片付けをした後、場合によっては夜8時や9時まで預かって保護者に迎えに来てもらいます。こうした放課後の時間を通して子どもたちの生活習慣や学習習慣を見直し、自己肯定感を高め、トータルに子どもたちが成長できるように支援し、将来自立する力を身につけていくというコンセプトで取り組んでいます。
第三の居場所は2016年、李さんが代表を務めるNPO法人Learning for All(以下、LFA)が運営する埼玉県戸田市の拠点を1号拠点としてスタートし、その後、白井さんにもかかわっていただいたNPO法人トイボックス(以下、トイボックス)と一緒に大阪府箕面市でも開設しています。現在は全国で39拠点になっておりまして、これを今後5年間かけて、全国500拠点に広げていこうということで、今まさに取り組んでいます。
各拠点では設置から3年、4年と経って、子どもたちの変化や成長も感じられるようになってきていると思います。まずは李さんから、戸田拠点の様子などお聞かせください。
【李】 戸田拠点は戸田市への事業移管が終了しているので、市との連携の中で、小学校3年生までのお子さんを対象に、基本的には定員20名で受け入れをしています。
子どもたちの状況に関しては、やはり生活保護や就学援助、あるいは児童扶養手当など、行政の支援を受けている家庭のお子さんが多いです。
ただ、経済的な困窮のみならず、やはり虐待があったり、不登校だったり、学力が遅れていたり、いじめがあったり、外国にルーツがあったり、様々な家庭的な背景、あるいは個人的な背景を抱えているお子さんも少なくありません。発達障害のお子さんも多く、個別専門的な支援が必要なお子さんも通ってきているというのが現状です。
【本山】 ありがとうございます。続いて箕面拠点について、白井さんからお願いします。
【白井】 はい。箕面拠点の成り立ちから申しますと、私たちは20年ほど前から箕面市の隣の池田市というところで、いわゆる不登校のお子さんたちを日本で初めて公設民営型のフリースクールとして受け入れるという事業を行ってきました。
長らく不登校の子どもなどいないという扱いを国がしていた時代、問題が無視されてきた時代が続いていましたので、18年前に池田市が不登校の子どもたちの支援を民間団体と連携して始めると言っただけで、すごく画期的な事例ということになりました。
それ以来フリースクールを続けてきて、そこで育ち巣立った子どもたちがスタッフとして戻ってきてくれるようになって、良い循環が見られるようになった頃、箕面市の市長から第三の居場所を開設するために力を貸してほしいとのお話をいただきました。
当初は、地域の学校からは懸念の声も上がりました。夕食や生活支援、学習支援などの体験をしてもらって家に帰すとなると、家庭の教育力が落ちるのではないか、却ってその家庭の教育力を削ってしまうことになるのではないかという懸念が、直接こちらにぶつけられました。
それに対して、先生方にお願いしたのは、望ましい成育環境を作りたくても作れないご家庭はどうしても一定数あるので、その家庭の子どもをサポートしてよりよい成育環境を作るということをどうしてもやらせてほしい、見守っていただけないかということでした。
それが2、3カ月もすると、学校側からも保護者さんからも驚きの声が寄せられました。もう本当に何があったのかというぐらい子どもたちが落ち着いて、それまでは教室で立ち歩いて先生もどうしたらいいかわからないという状況だった子どもが、自分の得意なことができて、自信が持てて、本当に集中して学習に当たるようになりましたと。これは何をどうしてこうなっているのかと尋ねられるぐらいの好反応だったんですね。
それぐらい、やはり放課後の時間帯に、安心安全な環境で落ちついて過ごすことができるということが、子どもにとってどれだけ大きなことなのかということを、我々も学びました。ひと家庭ずつ丁寧に受け入れの体制をつくってお預かりをして、現在は戸田拠点と同じように定員20人で運営しています。
【本山】 子ども庁に関する議論では、やはり文部科学省と厚生労働省、そして内閣府あたりの縦割り行政の限界であるとか、学校現場のレベルでは学校と学校以外の色々な機関との連携というのも重要になってくると思います。
この第三の居場所は、まず学校からの理解や地域の連携も、最初はすごく大変だったのですが、段々と理解してもらい、地域に受け入れられているということで、現場レベルではそういった成功事例ができているのかなと思いますし、まさに不登校の問題などは、学校だけでは解決できない、支援しきれない子どもがいるわけですよね。
学校でできなかったことを問題視するとかではなくて、地域のあらゆるリソースを使って、支援すべき子どもを取りこぼさないような仕組み、その拠点となる居場所というのが、この第三の居場所の一つの役割なのかなと思いました。
先ほど白井さんから、池田市のフリースクールの取り組みを見て箕面市から声がかかったという話がありましたが、地域間の連携には様々なご苦労があったかと思います。その辺りについて、李さんいかがでしょうか。
【李】 そうですね、そう意味では、戸田拠点はお陰様でうまくいったように思います。戸田は1号拠点ということもあって、日本財団や戸田市との連携も最初から丁寧にコミュニケーションしていただけたこともあって、行政とLFAはきちんと連携関係にある中でスタートできました。
課題としては、例えば地域の学校との連携などは大変なところがあって、公立の学童と我々民間の学童との住み分けであったり、(開設から)4年後に行政に引き継がれる民間の学童である第三の居場所に、学校としてどのようにかかわっていけばいいのか、なかなか見えない中で試行錯誤していたところはあります。
その中で、やはり立場の違いとか様々な規則やルールがあって、行き詰まりそうになることもありました。しかし最終的には、やはりお子さんたちが通うようになって、我々の言い方ではケースと言いますが、子ども一人一人のケースをきっかけに、学校と行政、地域の方々との連携の方法について、対話を重ねながらより良いものに進化していったように感じています。
【本山】 ありがとうございます。白井さんはいかがでしょうか。
【白井】 箕面市の場合も、自治体側の準備はかなり整っていたように思います。箕面市は、大阪では経済的に豊かな地域と見られており、他の自治体からすると「なぜ箕面市が?」と言われるような地域なのですが、箕面市がすごいのは子どもたちの成育歴をデータとして追跡調査をしていて、その取り組みは全国的にもモデルケースになっているんですね。
その中で豊かに見えるエリアだからこそ陥りやすい相対的貧困を課題認識していて、支援が必要な子どもが3000人いるというデータを突きつけられたんです。そうした課題を共有してのスタートでしたから、様々なハードルもありつつ何とか乗り越えてやっていきましょうという姿勢で、ここまで来られたのかなと思っています。
ただ、やはり皆さん苦労されているのが、当初の3年間、日本財団の助成があった後に、自治体の単費でしっかりそれを続けていかなければならないところで、どこからそれを拠出するのかということです。今回、日本財団で政策提言に向けた有識者タスクフォースを作られるとのことで、まさにそれをきちんと制度にしようと検討が進んでいますが、どこの自治体であっても支援を受けるべき子どもが支援を受けられる制度を作っていきたいと思います。
【本山】 戸田市も箕面市も、全国的には先進的な自治体ですよね。市長も強力なリーダーシップで推進していただいたので、うまく進められたのかなと思います。
一方で多くの自治体では、どうしても福祉部局と教育部局と見解がわかれていて連携が取れていなかったり、福祉の中でも生活保護とひとり親家庭でわかれていたり、さらに発達障害の児童の支援はわかれていたりという現状があるので、なかなか部署を横断して連携するというのは難しいと感じますね。
【白井】 そういう意味では、箕面市が教育委員会と福祉部局を一緒にして「子ども未来創造局」というのを作ったのは、もしかしたら子ども庁の先進的事例と言えるかもしれません、教育と福祉の垣根を越えようという一つのプロトタイプとして考えられる事例かなと思います。
【本山】 そうですね。国の子ども庁の話も、国の機関や部署を横断するのはもちろん、やはり地方行政もすごく大事なので、現場レベルの横断・連携として、箕面市が一つの先進事例になるかもしれません。
先ほど白井さんから話があった通り、第三の居場所は日本財団が当初3年間、開設費と運営費を助成させていただいて、その後行政に事業を引き継ぐという形で全国で進めていますが、戸田拠点では先んじて、戸田市に移管した昨年度から1年以上、戸田市の事業として運営しているわけですが、事業移管後に中学生の学習支援なども絡めながら対象を広げているとうかがっています。移管後の取り組みについて、李さんからお話いただけますか。
【李】 戸田市の拠点は2020年度から、事業として4年目を迎えて戸田市の事業として実施されることになり、運営面は継続して我々が委託を受けています。その際、月曜日から金曜日まで実施していた小学校低学年向けの学童に加えて、火曜日と土曜日に小学生と中学生向けの学習支援を始めています。
従来と同じ施設を使って学習支援をするという形にしていますが、そのきっかけは以下の通りです。まず子どもたちのニーズから見た学習支援を追加した理由に関して、小学校3年生で(第三の居場所を)卒業した後、4年生以降その子たちはもう何も支援がなくても大丈夫かというと、やはり少し心配なところもあって。週5学童に通わなくてもいいけれども、少しでも接点を持ち続けたいという声がありました。
また、少しでも勉強なり、生活習慣なりを見てほしいという保護者の要望もありましたので、市と協議の上で、同じ施設を使って学習支援をすることにしました。
行政としては、同じ施設を使ってより受益者を増やすことができるというメリットもあります。やはり困窮世帯の多い地域に第三の居場所があるケースも多いので、そうした場合に単に小学校3年生までの支援だけでは足りなくて、小学生から中学生まで対象を拡大することで、より支援の裾野が広がり、行政としてもカバーできる範囲が広がったのではないかと感じています。
また、制度の話に移りますが、すでに生活困窮者自立支援制度の中で学習支援も支援内容のひとつに位置付けられており、厚労省の事業として年間600自治体ほどが実施しています。第三の居場所事業というのは、学童として対象年齢の低い子どもたちを見ながら、同時に生活支援事業のような形で学習支援も同じ場所でできるため、制度利用の掛け合わせというメリットもあるかと思います。
このような取り組みを展開することで早期から切れ目のない支援ができますし、福祉と教育の両面から包括的な支援を実施できていると感じています。
さらに補足的に言うと、LFAでは既存の放課後デイサービスとか、あるいはスクールソーシャルワーカー、不登校のお子さんの適応指導教室やフリースクールなどとの連携も強めています。
何でもかんでも第三の場所だけでできるわけではありませんし、学習支援だけではできる範囲に限りがあるのですが、そもそも行政の方とずっと一緒にやっている事業ですので、地域の社会資源、支援のアクター、あるいは行政の他の制度などと、スムーズにリンクできているという感覚があります。
第三の場所がワンストップの相談窓口として機能していることによって、第三の居場所でカバーできるニーズはカバーしつつ、カバーできないものは他の行政支援・民間支援に繋いでいく。そのような地域ネットワークもでき始めているのは、第三の居場所を継続してきて、しっかりと地域のニーズを支えている結果なのかなと思っています。
【本山】 ありがとうございます。改めて制度面に関しても李さんから様々ご指摘いただきましたが、子ども庁に関して今、まさにその議論がかなり活発になってきているようです。まだ具体的な政策に関しては勉強会等で議論されている段階ですが、ここからは子ども庁に対してどのような役割を期待するか、改めてお聞かせいただきたいと思います。
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