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子ども基本法を考える特別対談後編-「子ども庁」は基本法とコミッショナーとセットで議論を (2021/8/19 政治山)

(前編から続く)

【奥山】 子ども基本法のあるべき姿については、やはり子どもの権利が保障される社会を目指すということになると思うんですけど、そのために、これはCRC(国連子ども権利委員会)からも言われていることとして、各省庁を横断・調整して、子どもの権利をきちんと守ることができるようにしなければなりません。日本の場合は一言で「子ども」といっても、担当する省庁がいろいろなところに分かれてるわけですね。それを調整する組織が子ども庁ということになるかと思います。

子どもの権利にかかわる法律 概念図

子どもの権利にかかわる法律 概念図

 もう一つは、子どもコミッショナー(子どもオンブズパーソン)が重要です。子どもの権利が社会の中で守られているかどうかをモニタリングする役割を担うわけですが、海外ではコミッショナーの存在が広まっており、世界70カ国以上あると聞いています。

 ヨーロッパでは早くから広がっていて、イギリスの初代子どもコミッショナーを日本にお招きして、小児科学会で講演していただいたこともあります。その際、非常に印象深かったのは、とにかく社会の中で子どもの権利が守られているかどうかを見ながら、様々な発信をして、政策に反映させているという話でした。

 国によっては政府と一緒に会議体を持って、子ども施策のストラテジーを立てていたりもするとのことです。基本的に子どもコミッショナーというのは、子どもの声を一番に聞きながら動いていくというのが原則なのです。子どもたちから支持されることが非常に重要で、一番大きなことだと思います。

 条約を批准しているのは国ですから、本来は国がコミッショナー制度を作って、地方にも徐々に広がっていくというのが他の国では多いのですが、日本では国が制度を作らないので、地方自治体の方が先に作り始めているというのが実情で、1800近くある自治体の中で30ほどですから、まだ少ないんですけど、少しずつでき始めています。これも日本の特殊性かもしれません。

 子ども基本法の中には、まず子どもの権利を守るということ、それから先ほどの4原則もきちんと明示する必要があると思います。54条全部を法律の中に入れ込むのはかなり難しいので、それをそのまま入れるのではなく、必要な要素を組み込んでいくべきと考えています。

 その基本法があって、行政としては各省庁を調整する場所が必要で、それとは別に子どもコミッショナーが必要で、これが独立した存在であるということが非常に重要なことです。

日本子ども虐待防止学会 奥山眞紀子理事長

日本子ども虐待防止学会 奥山眞紀子理事長

高い独立性を持った「子どもコミッショナー」が必要

【高橋】 その組織の独立性というところでいくと、いわゆる三条委員会(府省から独立した権限を持つ合議体、公安審査委員会や運輸安全委員会、原子力規制委員会など)が望ましいと考えています。本当は会計検査院のように憲法に書いてあるぐらい独立しているともっといいでしょうし、国によっては議会や国会の下にあるような組織もあるそうですが、日本ではそこはまだ難しいかなと。

 それと、コミッショナーの選任については、海外では公募制が多いんですよね。やはり政府が選ぶとなるとだんだん政府寄りの人が選ばれていくので、公募や推薦のような形がいいと思います。

【奥山】 コミッショナーに関して言うと、海外では1人なのです。シンボルでもあるのです。あるオンブズパーソンの話では、船首像(=フィギュアヘッド)のような存在とのことです。ある意味その人が子どもの権利を守るシンボル的な役割を果たしているのです。その下にサポーターはいますけれども、基本的には独任制です。フラッグを振る人は1人、というところがあるのでしょう。ただ、おそらく日本ではそれが馴染まないと考えられ、合議体になるのではないかと思われます。

【高橋】 先ほどお話しした、国内で地方自治体に設置された人権機関とかオンブズパーソンはだいたい3人ぐらいですね。そしてその人権機関の委員は大学の先生や学者が多く、ほとんどが非常勤です。海外だと専任の人がやっているそうですけども、そういう意味では少し作りが弱いというか。

 私たちが今考えているのは、やはり委員会といっても3人ぐらいかなと。もちろん調査スタッフなどは必要ですけど、地域のそういうオンブズパーソンと国のオンブズパーソンは連携をしていけばいいと思っています。

 それと、地域でやっていただきたいと思うのは、子ども個人の救済ですね。これは国では難しいことで、子どもの個別の救済は地方自治体で行うのが良いと考えています。

【奥山】 例えばどこかの地域の個別救済の中で、こんなブラック校則でなやんでいる子どもがいるということがあったときに、国のコミッショナーが日本中の校則の調査をして、どのぐらい権利侵害があるかを明らかにして、それに対応する制度や施策を勧告するということがあってもいいわけです。

子どもと向き合う地方自治体にも課題は多い

 最近の傾向としては、日本の子どもたちの力もついてきたように感じています。私たちが若い頃と比べると、声をあげる子どもたちが増えてきているなと。

 私はずっと虐待対応の分野にいて、家に帰りたくないと自分から訴える子どもが増加していることも感じます。また、1990年代の初めぐらいから様々な施設に関わってきました。最近では、その頃では考えられないぐらい、実際に施設を出た方とか、あるいは虐待を受けた当事者が、いろいろな発信をしています。そのような方々を見ていると、すごくパワーがついてきたんだなと思います。

【高橋】 そうですね、社会的養護の経験のある当事者グループも複数できていると聞いています。

【奥山】 もちろん当事者には傷ついた経験もあるでしょうから、自分を表現するには、サポートも必要なのですが、そういうサポートをしようとする人たちも増えてきて、少しずつ声をあげるということに目が向き始めていると思います。

 それと社会的養護に関して言うと、野田の事件の影響もあって、子どもの意見の表明をサポートする人(アドボケイト)に関する制度が必要ということで、その検討が改正児童福祉法の附則に盛り込まれ、国でも議論がなされています。意見を述べる能力のある子どもだけではなく、赤ちゃんとか障害で言葉が喋れない方の代弁も行われる必要があります。そういうシステムをきちんと作るということが進んできていることも見ても、子どもの意見を聞かなきゃいけないという意識は少しずつ高まっていると思います。

 ただ、まだまだその段階に達していない自治体も少なくありません。例えば子ども家庭福祉に関して、都道府県推進計画を立てることになっているのですが、その際に計画を立てる委員会の委員として当事者だった方などの声を必ず入れるように要綱には書かれているのですが、実際にはまだ非常に少ないのです。

 地方議員の方には、自分の県なり市町村がどういう形で子どもの声を聞いているのかということにも関心をもっていただきたいと思います。

【高橋】 私はやはり、子どもたちと向き合うのは地方自治体なので、その役割を果たしてほしいと思います。例えば、ヤングケアラーも問題になっていますが、子どもが自分で市役所に相談に行ったら、親とか大人と一緒に来なさいと言われて、子どもだけでは話を聞いてもらえないということがあったと聞いたことがあります。

 それはやはり、子どもを権利の主体として見ていないからそうなるのだと思います。子どものSOSをきちんと受け止めて、子どもの最善の利益を叶えていくということを、ぜひお願いしたいです。

奥山理事長(左)と日本財団公益事業部 高橋恵里子部長

奥山理事長(左)と日本財団公益事業部 高橋恵里子部長

コロナ禍で埋もれる虐待、支援にも工夫が必要

【奥山】 子どもの権利を守り、子どもの発達を保障し、子どもの声を聞くということ。これを実施するのはやはり基礎自治体だと思います。ですから、実際に自治体がどれほど子どもの声をきちんと聞いて施策を立てているのかが重要です。「子どものことは思っています」と皆さんおっしゃるんですが、その多くが「大人の思い」だったりもします。

 コロナの影響を見ても、結局一番大変なのは子どもなのではないでしょうか。まん延防止から緊急事態宣言になっても、正直大人はあまり変わりませんが、学校は変わるのです。運動会も修学旅行も中止ですし。緊急事態になったらできないということが学校では結構多いと思います。

 それと懸念しているのは、子どもの自殺が増えていることです。一方で、虐待通告は増えていないんです。コロナ前までは虐待の通告数が増加していました。これは虐待が問題として認識され、表に出てきたことによると考えています。

 それが去年の4月、緊急事態宣言が出たあたりから通告の増加率が明らかに減っています。虐待の存在が見えにくくなっていることが推測されます。学校の先生も感染防止対策に精いっぱいで、子どもの表情を見るのも難しい、ましてマスクをしているからさらに見えないのだと思います。大きな怪我や傷があればわかるのでしょうが、普段だったら表情を見て「どうしたの?」って聞くようなところが聞けないなどがあるのではないか心配しています。

 感染対策は子どもたちを管理するのではなく、子どもたちが感染症そのものや、それに対する心理的反応への正確な知識を持つための心理教育が行われ、リラクセーションなどを含めて、自分でコントロールできる方法学ぶなども行い、子どもたちの中から様々な感染症や不安に対する対策が出てくるような支援が求められます。適切な説明があり、子どもが自分の考えに基づいた意見が言えるようにエンパワーされ、それが仲間に共有され、自分たちの決定を導くことができる、それこそ、権利保障です。

 保育園も自粛が要請されたり、子どもの権利を守るために積み重ねてきたシステムが、あまり働かなくなっているのだとすると、新しいことを考えていかなければなりません。

 例えばアウトリーチして孤立しているようなご家族に入っていこうとしても、簡単には入れてもらえません。ましてやコロナだから、なかなか難しいのです。そういうアウトリーチをしている方々のお話を聞くと、お弁当を持っていくと入れてくれることもあるそうです。やはり困窮している方々は、食料が一番嬉しかったりするので、そうするとそこで話ができる。というような形でアウトリーチしているところがあります。

 子ども食堂も、密になるから止めているところも結構あるわけですけど、そこから宅配とかパントリーとか、様々な工夫があって、そういうのが集められてまた一つのやり方になっていくといいのだろうと思います。

【高橋】 EUでは今年3月にすべての子どもを守り、子どもをEUの政策決定の中心に据えるための「EU子どもの権利戦略」(The EU Strategy on the Rights of the Child)を策定しており、子どもの権利を基盤として子ども施策を展開していくことが当然となっています。

 日本でも、子どもの権利条約総合研究所など、子どもの包括的な権利法の制定を求めて活動してきた方々がおられますが、なかなかその声は国の政策決定者に届いてきませんでした。

 子ども庁が創設される今こそ、子ども基本法と子どもコミッショナー/オンブズパーソンの三つをセットで実現できれば、子ども達に残せる大きなレガシーになります。ぜひ国会議員や政策づくりにかかわる中央官庁の皆様には、力になっていただきたいと思っています。

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