一斉休校~緊急事態宣言、コロナ禍は子ども食堂に何をもたらしたのか―湯浅誠氏に聞く (2020/7/7 政治山)
新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、2月27日に安倍首相が要請し、翌28日に文部科学省が通知を出した一斉休校措置、次いで4月7日に7都道府県、同月16日に全国に拡大した緊急事態宣言は、子どもたちの「食」と「居場所」を支えてきた子ども食堂にも大きな影響を与えました。
学校という居場所を失い、人と人との接触が制限される中、子ども食堂はどのように変化し、活動を継続してきたのでしょうか。NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの湯浅誠理事長にお話をうかがいました。
誰も取りこぼさない社会をつくる
――むすびえ設立の背景と目的について、お聞かせください。
私はこれまで格差や貧困という社会課題と向き合ってきましたが、直接的に子ども食堂に関わるようになったのは、2016年に始まった「広がれ、こども食堂の輪!全国ツアー」に実行委員として携わってからのことです。子ども食堂のことを広く知ってもらい、担い手を増やしていくことを目的として、全国47都道府県でイベントを開催しました。
そして3年目の2018年に「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる」ことを目的に、「NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)」を設立しました。
2025年までに2万カ所の子ども食堂を
――具体的には、どのような役割を果たしているのでしょうか?
むすびえの事業は、以下の3つを軸としています。
・各地域のこども食堂ネットワークを支援すること
・何か社会に貢献したいと考えている企業・団体とつながりこども食堂へ支援を届けること
・調査・研究をし、啓発をしていくこと
子ども食堂は、2018年2286カ所、2019年3718カ所と増え続け、年間の延べ利用者数は推計で160万人(うち子ども90万人)になりますが、まだ全国には行き届いていません。国内には約2万の小学校区がありますが、2025年までにそのすべてに子ども食堂を設置することを目標にしていて、現在は3718カ所を小学校区の地図に落とし込む作業を行っています。
この「すべての小学校区に子ども食堂を」という目標は埼玉県と滋賀県の両知事が共有してくださっていて、複数の市町村とも一緒に取り組んでいます。すべての子どもたちにとって、家庭でも学校でもない、第三の居場所とでもいうべき場所があることが、当たり前になることを目指して活動しています。
担い手は地域の女性、民間事業者も
――子ども食堂の担い手は、どのような人が多いのでしょうか?
主な担い手は地域の女性たちで、特に30代と50~60代の方が多いですね。前者は子育て世代の当事者が地域との接点を必要と感じて参加するようなケースです。自分たちが子どもだった時とは違い、地域のつながりが希薄であること、母親の孤立が深刻であることに、当事者となって初めて気づき、大きな衝撃を受ける人も少なくないようです。
後者は自身の子育てがひと段落した世代です。子どもの貧困などの話は聞くけど、相談に対応したり学習支援は難しい。でも食事を作って一緒に食べる、そんな居場所を提供することならできるのではないか、そのように考えて参加している人が多いと見受けられます。
また、最近は子ども食堂が地域交流の場でもあるとの認知が広がり、お寺や自治会、コンビニエンスストアや外食産業などの事業者も新たな担い手として参画し、子ども食堂のすそ野は広がっています。
充足率の差は10倍以上、広がる地域差
――全国に広がっていく中で、取り組み状況の差は出てきているのでしょうか?
各地域のこども食堂ネットワークを支援するのは私たちの事業の柱でもありますが、これまでに35都府県でネットワークが立ち上がっています。2022年中には全都道府県に拡大したいと考えていますが、一方で地域間の格差は広がっていると感じていて、この傾向は今後、さらに顕著になっていくのではないかと懸念しています。
むすびえでは小学校区に対する子ども食堂の設置数を充足率として算出しランキングしているのですが、2019年の調査ではトップの沖縄県(60.5%)と最下位の秋田県(5.5%)では10倍以上の開きが見られます。
上位は沖縄県に次いで知事が目標にコミットしている滋賀県が2位(52.5%)、以下東京都(36.6%)、鳥取県(35.2%)と続いています。鳥取市は、全国で唯一庁舎内に子ども食堂がある自治体でもあります。一方、下位には秋田県のほかに青森県(46位)、岩手県(44位)など北東北の県が多く、地域差が広がっています。
ただし、2018年の調査時は5%未満が10県ありましたが、2019年には0になりました。全体的な底上げは確実に進んでいるので、その動きを加速させたいと考えています。
普段は青信号の顔をしていても・・・
――新型コロナウイルス感染症の拡大を受けて、子ども食堂にはどのような変化がありましたか?
やはり2月27日の一斉休校要請が転機でしたね。学校に集まることもできないのに子ども食堂には集まっても良いのかということで、居場所としての子ども食堂は開きにくくなりました。
しかし、このような状況下でも子どもたちの「食」を支えるという課題がなくなったわけではありません。4月段階では10%が居場所を開き、46%が食材配布(フードパントリー)などを実施し、全体の過半数が何らかの活動を展開していました。
この臨機応変の対応、逞しさこそが子ども食堂の本領発揮といったところで、民間だからこそ困っている子どもたちに手を差し伸べられたのだと思います。居場所としての子ども食堂は、学校や保育園と同じように、スティグマが付かないように、誰でも利用できるように受け入れてきました。そのため、個別の家庭状況に立ち入るなどのアプローチは難しかったのですが、フードパントリーを通じて言葉を交わし背景を知ることで、生活困難の世帯がよりくっきり浮かび上がるようになったのです。
コロナショックによって、生活困難世帯の母数は明らかに増加していて、フードパントリーの支援から生活困難の相談に発展するケースも増えています。運営者の方の「普段の子ども食堂では、皆が青信号の顔をしているが、その中に多様な人たちがいたことがフードパントリーをやってみて初めてわかった。びっくりした」という言葉はとても印象的でした。
第2波に備えるとともに物心両面のサポートが必要
――緊急事態宣言が解除され、学校も順次再開されていますが、子ども食堂はどのように変わっていくのでしょうか。
6月以降の子ども食堂は、従来の子ども食堂に戻す復帰型、フードパントリーを主軸とする移行型、子ども食堂とフードパントリーの併用型、休止した子ども食堂を再開する再開型、新規立ち上げ型、閉鎖の6つのパターンに大別できます。
新規立ち上げについては、新たな担い手として紹介した事業者からの相談が増えています。医療法人からも相談がありましたが、今回のコロナショックのように経済活動は停滞しても医療従事者は働き続けなければならない場合に、医療従事者の子どもにも居場所が必要だという認知が広がったのではないかと考えています。
もちろん個人や小規模での運営も多く、資金的に厳しい施設も少なくありません。日本財団からの資金提供を受けたり、クラウドファンディングで資金調達をして、運営者に対する助成制度を設けています。また、運営にあたる人たちの精神的なサポートも必要ですので、私たちとしては物心両面でサポートできるよう、支援パッケージを用意しています。
見守りとしてのフードパントリーへの期待
――一斉休校・緊急事態宣言下でも46%の子ども食堂がフードパントリーを行っていたとのことですが、今後も増えていく見通しでしょうか?
地震や台風などの自然災害とは異なりますが、これからは地域差とともに復興格差が広がっていくと思います。緊急事態宣言下では、いわば全員が被災者であり、大変さを共有して互いに励まし合い、みんなの心が温まるようなエピソードが多く聞かれました。
復興が進んでいくと、その進み具合が格差となり、やがて取り残される人が出てきます。今のところは顕在化していませんが、かつての阪神大震災や東日本大震災でもそうだったように、しばらく経ってから複合的な諸問題が顕在化して自殺者増などにつながることを懸念しています。
そのような家庭や子どもをいち早く発見し、必要な支援を届けるための地域の接点として、フードパントリーは大きな期待を受けています。都内のある子ども食堂では、フードパントリーで食材を受け取りに来た人の多くが、子ども家庭支援センターの紹介だったという話も聞いています。孤立から抜け出すことができない見守り対象者に対して、行政が民間を頼り、フードパントリーが一つの出口になっているという事例です。
厚生労働省もこのような役割に期待していて、6月に成立した2次補正予算には「子どもの見守り強化アクションプラン」を踏まえた見守り体制の強化のうち、子ども食堂や宅食等を行う民間団体等の支援として31億円が計上されました。これは補助率が10分の10で実施主体が市区町村なので、自治体の取り組みも加速していくのではと期待しています。
民間の企業・団体にも貢献できることがある
――企業や団体には、どのようなかかわり方を期待しますか?
子ども食堂の大前提はボランタリーな取り組みであるということです。私はよく、「子ども食堂は農家のようなものだ」と言っています。大規模なものもあれば小規模なものもある、いろいろな作物を作るところもあれば一つの作物に特化するところもある、もちろん作り方やこだわりもバラバラです。
もちろん安心安全は別ですが、子ども食堂が広がっていくためには、良い悪いの価値づけをしないことが大切だと思います。やりたい人が手を挙げ、伸ばしたい方向に進むのを支援する、どんなにニッチなものでもいい、子ども食堂でプログラミング教室だってやってみたら良いのです。
現在4000カ所ほどある子ども食堂のすべてが歓迎するわけではありませんが、1つや2つは一緒にやりたいと言ってくるかもしれない。そういった関わり方にも期待したいですね。
また、資金的な支援は子ども食堂の普及拡大に欠かすことができません。6月に採択結果を発表した「むすびえ・こども食堂基金」(第2回)は、日本財団とLOVE POCKET FUND(新しい地図と日本財団が共同で立ち上げた「愛のポケット基金))の支援を受けて実施しました。
これは「今日をしのぐ」活動助成としてフードパントリー事業を対象に上限20万円を50団体に、「明日をひらく」活動助成として本格的な相談支援事業を対象に上限200万円を17団体(予定は15団体)に支援するものです。
日本財団とLOVE POCKET FUNDの支援を受けて実施した「むすびえ・こども食堂基金」(第2回)募集の概要
- Aコース:「今日をしのぐ」活動助成(上限20万円・50団体)
- 緊急事態宣言解除後も低所得世帯等の暮らしの厳しさは続くことが予想されます。社会的に孤立することが懸念される子どもや保護者の支援を目的として、こども食堂が行うフードパントリーや宅食など食支援活動に対して助成します(通常のこども食堂の開催費用は対象外です)。
- Bコース:「明日をひらく」活動助成(上限200万円・15団体)
- コロナ危機収束後に、こども食堂がより一層地域に欠かせない存在(インフラ)となるために、今の段階から「子どもを支え、事業者を支え、地域を支えるこども食堂」を目指すこども食堂のチャレンジを支援します(通常のこども食堂の開催費用は対象外です。通常のこども食堂の開催を通じてつながった課題のある子や家庭に対する相談活動費用は対象になります)。
子ども食堂を運営している現場では、子どもや家庭からの相談を受けるようなケースも少なくありませんが、運営者の中には相談支援まで行うことをためらう人もいます。もちろんそれはそれで良いのですが、もう一歩踏み込みたくてできなかった人も多いということが、改めて分かりました。第3回の資金調達はクラウドファンディングが進行中※で、7月には募集を開始する予定です。この動きは、厚労省の2次補正予算の活用にもつながるので、さらに加速させていきたいと考えています。
被災体験を平時のつながりづくりに
――各地域の政治行政は、具体的にどのような取り組みを推進していくべきでしょうか。
2018年の西日本豪雨水害の後、愛媛県の宇和島市では、それまで1つもなかった子ども食堂が1年間で13カ所に増えました。2011年の東日本大震災の翌年には最初の子ども食堂が誕生しています。
病気になって健康の尊さを知るのと同じように、非常時になって初めて平時のつながりの大切さを痛感するのですが、そこから平時のつながりづくりに取り組み、新たな災害発生時に活躍するようなサイクルを、大掛かりに回していきたいと考えています。
2020年、我々がコロナ禍に直面していることの時代的な意味を考えてみると、SDGsのゴールの年でもある2030年をどのように迎えるかが問われているような気がしてなりません。
各地域で政治・行政に関わる方には、子どもの貧困や母親の孤立に関心をもって、ご自身の住む地域の調査や質問をしてほしいと思いますし、子ども食堂の普及促進のための2次補正予算の活用なども促してほしいと思います。
まだ検討中ですが、来年には子ども食堂を含む子どもの居場所に関する自治体ランキングの発表も予定しています。安心安全に暮らせて、持続可能で、子育て世代に選ばれるような地域づくりにどれだけ熱心なのかということを可視化することで、居場所づくりを通じた地域のバージョンアップを実現したいと考えています。
阪神・淡路大震災が起きた1995年は、その後ボランティア元年と呼ばれるようになりました。とても悲惨で大変な経験でしたが、社会が得たものも大きかったのです。コロナについても、いつか振り返った時に同じことが言えるようにしたいですね。
――本日はありがとうございました。
※コロナ緊急「こども食堂基金」で10万人の子どもに食を
こども食堂とフードパントリーの両方を実施する団体に助成するためのクラウドファンディングです。こちらから応援することができます。
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