洪水ハザードマップと被災地区が重なった千曲川、避難所の適正配置には課題も (2019/12/18 特定非営利活動法人地理情報技術研究所 理事長 高阪宏行)
2019年10月、関東地方や甲信地方、東北地方などで記録的な大雨となり、各地に甚大な被害をもたらした台風19号。その被害の大きさから、自治体が定めるハザードマップや避難計画の点検・見直しが進んでいます。どうすれば被害を最小限に防ぐことができるのか、ジオマーケテイングと自然災害の減災に取り組む、特定非営利活動法人地理情報技術研究所 高阪宏行理事長に寄稿いただきました。
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2019年の台風19号による長野市千曲川の洪水被災地区(下図の水色地区)は14の大字に及び、その面積は9.4平方キロメートルに広がりました。長野市が作成した洪水ハザードマップと洪水被災地区を比較したところ、以下の図のように一致いたしました。
洪水ハザードマップ(赤色は洪水想定地区)と洪水被災地区(青線)を重ね合わせると見事に重なり、ハザードマップの重要性が実証されました。よって、今後の自然災害の被害の軽減のためにハザードマップを活用した対策が必要となります。
洪水被災地区の人口ピラミッドと年齢層別人口数と構成比
また、洪水被災地区の推計人口は4400人で、高齢者が38%を占めています。特に注目されるのは、被災人口の2割が75歳以上の後期高齢者で900人に達しました(人口ピラミッドと表)。
洪水避難所への移動距離と洪水ハザードマップと洪水被災地区の重ね合わせ
洪水避難所(下図の赤丸)は2カ所が指定されていますがいずれも2km以上と遠く、避難所への移動距離(棒グラフ)の平均に比べ2倍であることがGIS分析(デジタル地図での分析)から明らかになりました。
ハザードマップより被害想定のエリアを把握することで、避難所の最適化など再構築が必要となります。縦棒は避難所への移動時間を表しております。水色の被災エリアは、長野市の中心部と比較をすると2倍以上の移動時間がかかります。高齢者が多いことから避難所への移動に困難が伴うと想定されます。
今後の自然災害の被害軽減のためには、ハザードマップの認識の向上、高齢者への対応、避難所の適正配置などの面で対策を講じる必要があります。
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■特定非営利活動法人 地理情報技術研究所の概要
地理情報システム(GIS)とAIを用いて、ビッグデータを分析し、チェーンストアに対する新規出店、店舗の最適化の課題を解決。飲食チェーンの売上好調店と売上不振店の分析、フィットネスクラブの新規出店戦略、ショッピングモールの売上シミュレーション、カーディーラーの閉店計画シミュレーションなど幅広く行う。
■特定非営利活動法人 地理情報技術研究所の理事長略歴
高阪 宏行
日本大学名誉教授。地理情報システム学会ビジネス分科会代表。ビッグデータのGIS分析とデータ分析を通して、ジオマーケテイングと自然災害の減災を中心に研究を行う。主な書籍・論文として、『ジオビジネス:GISによる小売店の立地評価と集客予測』(2014年3月)、「国勢調査小地域集計を活用した人口予測(上、下)」(2017年11月、12月)「GISを利用した商圏設定とジオマーケティング」(2019年6月)がある。
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