新時代 令和の農政改革論~スマート農業の普及に向けた規制緩和の現状と課題  |  政治・選挙プラットフォーム【政治山】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
トップ    >   記事    >   新時代 令和の農政改革論~スマート農業の普及に向けた規制緩和の現状と課題

新時代 令和の農政改革論~スマート農業の普及に向けた規制緩和の現状と課題 (2019/4/12 松下政経塾 第39期生 波田大専)

関連ワード : IoT IT ドローン 特区 農業 

1.はじめに

 ドラマ「下町ロケット」でも話題となった無人農業ロボットをご存知でしょうか。人が乗っていない無人のトラクターが、衛星からの測位情報をもとに誤差数センチの精度で田畑を自動運転で耕すものです。

 パソコンからの指示でトラクターが倉庫を出て農場に向かい、作業を終えて自動で戻ってくる。さらに、空からはドローンが自動飛行で農薬を散布する等、最先端のロボット技術やICTを活用した「スマート農業」が近年注目されています。

 これが実現すれば、農業の生産性を飛躍的に向上させることができ、日本の農業が抱える人手不足の問題解決に繋がります。

 しかし、こうした画期的な技術が既に確立しているにも関わらず、新技術に対する国の法整備が追い付いていないために、普及が進まないのが現状です。本レポートでは、スマート農業の普及に向けた課題として「規制緩和」に焦点を当て、現地でのヒアリングに基づく現状と課題について報告します。

3台の無人ロボットトラクターによる協調作業(北海道本別町)

3台の無人ロボットトラクターによる協調作業(北海道本別町)

2.深刻化する農業現場での人手不足

 私は現在、政治家を志して松下政経塾で研修していますが、昨年の春までは地元北海道の農業団体でスマート農業の普及推進に携わってきました。新人時代に農業実習をしていた農家では、毎年種まきや収穫の繁忙期になると近所の人たちや兄弟が総出で作業を手伝いに来ていました。

 しかし、ここ数年でそうした人たちも年を重ねて体がもたなくなってしまい、やむを得ず派遣会社に求人を依頼するものの、どこの農家からも求人が殺到する状況で思うように人が集まりません。隣に住む別の農家は、人手不足で経営を維持することができなくなり、ついに昨年農地を手放して離農してしまいました。私は、このような光景を現場で数多く目にしてきました。

 農林水産省によると、日本の農家の平均年齢は67歳。農業人口はこの15年で何と4割も減少しており、今後もますます高齢化が進みます。農業現場では、今まさに人手不足がもはや一刻の猶予もない喫緊の課題となっているのです。

3.スマート農業の普及に向けた現状と課題

 そこで、近年注目されているのが「スマート農業」です。農作業を自動化することで、少ない人手でも効率的な農業経営が可能となります。加えて、農業がロボット化・IT化することで農業に目を向ける若者が増え、新規就農者の増加に繋がることも期待されるでしょう。

 スマート農業の普及に向けた主な課題として、(1)導入コストが高いこと、(2)使い方が難しいこと、(3)新技術への法整備が追い付いていないこと等が挙げられますが、今回は3番目の法整備の課題に焦点を当て、規制緩和の必要性について論じます。以下、スマート農業の普及を阻む主な2つの規制事例を紹介します。

(1)ロボット農機の自動走行に関する規制
 平成29年3月に農水省が策定したガイドラインによって、無人ロボット農機は圃場内であれば自動運転が認められるようになりました。しかし、現行のガイドラインでは使用者がロボット農機を圃場内または圃場周囲から監視することが義務付けられており、結局は人手を要するために本当の意味での人手不足の解決には至っていないのが現状です。

 また、公道での自動走行は認められていないため、農機具庫から圃場までの移動、および圃場間の移動については人が乗って農機を運転することが必要となります。最終目標である遠隔地からの指示・監視による完全自動での運用に向けては、さらに大胆な規制緩和を進めなければなりません。

(2)農薬散布ドローンの自動飛行に関する規制
 約10Lのタンクを積載して空から農薬を撒く農薬散布ドローンについても、予め設定したルートに基づいて誤差数センチの精度で離陸から着陸まで完全自動飛行する技術が既に確立されています。

 しかし、機体の認定機関である(一社)農林水産航空協会では、最新型である自動飛行ドローンについては機体の認定対応が追い付いておらず、農薬散布ドローンは事実上自動飛行させることができない状況が続いています。

 この状況を受け、平成30年11月に内閣府の規制改革推進会議は農業用ドローンの機体認定手続きを国交省に一元化して迅速化する決定をしていますが、未だに先行きは不透明なままです。

 また、航空法に基づく国交省の要領では、ドローンの操縦者に加えて別のもう1名が補助員として常時飛行を監視することが義務付けられており、1台のドローンを飛ばすのに最低2人の人手を要します。人を減らすためにドローンを導入したはずが、かえって余計に人手を要してしまうという皮肉な現状です。

 さらに、農水省の技術指導指針では、操縦者は機体から150m以上離れてはいけないとされていますが、北海道のような広大な圃場では150m以上離れずには全く使い物にならないとの現場の声もあります。

 このように、実態に見合わない数多くの規制によって優れた技術の普及が阻まれており、最先端技術を提供したいメーカー、そしてそれを求める農家からは、早急な規制緩和と法整備が待ち望まれているのです。

4.国家戦略特区での取り組みと課題

(1)国家戦略特区での取り組み事例
 上記のような規制の緩和に向けて、国家戦略特区での取り組みが注目されています。国家戦略特区とは、地域や分野を限定することで大胆な規制緩和を行う内閣府の規制改革制度であり、全国で10区域が特区に指定されています(※1)。

 北海道の更別村では、まだ特区の指定は受けていませんが、平成30年8月に内閣府の近未来技術等社会実装事業に採択されたことを受け、「世界トップレベルのスマート一次産業」の実現に向けた実証試験に取り組んでいます。

 更別村の西山猛村長は、「未来の農業を開く一歩を踏み出す。村だけでなく、日本の農業を守ることに繋げたい」と語り、更別を農業のシリコンバレーにするとの意気込みで事業を牽引されています。今後、農薬散布ドローンの自動飛行や国内初となる無人ロボットトラクターの公道走行の実証にも積極的に取り組む考えです。

 また、既に特区に指定されている秋田県仙北市でも、農薬散布ドローンの自動飛行について農家からの要望が強く実証に取り組む意向でしたが、同市の担当者によると、以下のような課題によって思うように進まないのが現状のようです。

北海道更別村の西山猛村長を訪問

北海道更別村の西山猛村長を訪問

(2)国家戦略特区の課題
 国家戦略特区が抱える課題として、以下の2点を指摘することができます。

 第1に、スピード感に欠ける点です。国家戦略特区に指定されたからと言って、すぐに何でも自由に実証を行うことができるわけではありません。特区において実証を行うには、都度その内容を区域会議の議題に上げた後、内閣府の諮問会議で承認を得なければなりません。申請には膨大な書類を提出する必要があり、区域会議に議題を上げてから実証試験の実施に至るまで、長ければ1年を要するとのことでした。

 第2に、諮問会議の審査結果によっては、当初申請していた実証試験を申請通りに実施できない点です。仙北市の担当者によると、取り組みたい内容を10提示した場合、そのうちの5~7くらいしか承認されない場合が多く、実証試験の本来の目的を達成できないケースも多いとのことでした。

 安全第一の慎重な審議はもちろん重要ですが、日進月歩で移り変わる先端技術の実証においては、やはりスピード感とチャレンジ精神が不可欠です。

(3)規制のサンドボックス制度への期待
 イギリス等で始まった「砂場」を意味するサンドボックス制度は、実験場内で一時的に規制の適用を停止することで新技術の迅速な実証実験を実現する制度です。日本でもこれを特区内で認める地域限定型サンドボックス制度の創設法案が平成30年度国会に提出されましたが、衆議院の審議未了のまま廃案となりました(※2)。スピーディーな規制緩和制度の創設に向けた国会審議においても、やはりスピード感に欠けるのが現状です。

5.結び

 スマート農業の普及に向けて、それを阻害する数多くの規制が存在しており、規制緩和に向けても多くの課題があることを報告しました。新技術の社会実装においては、安全性とのバランスが重要であるため、何でも安易に規制を緩和すれば良いというものではありません。そこで私は、民家が立ち並ぶ都会の近郊農業と、見渡す限り田畑が広がる北海道の大規模農業を一元的に規制するのではなく、地域性に応じた規制緩和を進めるべきではないかと考えています。

 いくら現場で頑張っていても、誰かが規制を変えない限り新技術の普及は一向に進みません。それならば、自らが政治家となって規制を改革して一刻も早く普及を進めよう。そうした思いから、私は昨年職場に辞表を出し、政治の道を志す決意を致しました。私の果たすべき使命は、まさに新時代の農業の実現に向けた「令和の農政改革」です。

 技術力を誇る日本が世界に先駆けていち早くスマート農業を実現し、私たちの命の源である農業と食料生産を守らなければなりません。そして、そこで培った技術力で、世界の農業の発展と食料問題の解決に貢献することこそが、諸外国から尊敬される徳のある先進国としてのあるべき姿ではないでしょうか。

 規制改革を通じて「最先端農業大国日本」を実現し、世界から尊敬される「徳のある国日本」を目指すべく、身命を賭して使命に徹する覚悟です。

(※1)内閣府「国家戦略特区」
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kokkasenryaku_tokku2013.html(2019年4月)
(※2)地域限定型サンドボックス制度
生産性向上特別措置法に基づく「プロジェクト型」サンドボックス制度の運用は始まっているが、国家戦略特別区域法の一部を改正する法律案に基づく「地域限定型」サンドボックス制度は運用の目途が立っていない。
https://www.cao.go.jp/houan/doc/196_8gaiyou.pdf

著者:松下政経塾第39期生 波田大専

関連記事
“ルールメーカー”トランプ・アメリカとの共生の探求
トランプ旋風の深層~正しさに疲れたアメリカ人~
18歳選挙権を「ブーム」で終わらせるな~ステップ・バイ・ステップの主権者教育を
「政治的リテラシー」を敬遠しない取り組みを
JTBが食農観光プロジェクトで地域の農業×観光の魅力を発信
関連ワード : IoT IT ドローン 特区 農業 

◆松下政経塾からのお知らせ◆
松下政経塾では、第41期生(2020年4月入塾)から、「2年課程」と「4年課程」を選択できるようになります。重点分野として、「政治行政分野」と「社会起業分野」を設定し、塾生は現地現場で横断的に研修を行い、長期ビジョンをつくり、その実践者を目指します。第41期生への応募については松下政経塾HPをご確認ください。