人類とAIは共栄できるのか!?(後編)ポスト・ディープラーニング時代の社会創りとは (2019/2/13 衆議院議員 中谷一馬)
21世紀における機械打ち壊し運動を未然に防ぐ方策
AIを含めたテクノロジーの発展は、国家と国民の関係以外にも、企業と労働者を取り巻く環境を大きく変化させます。
デロイトトーマツグループ実施の調査によれば、日本の経営陣幹部は、高齢化や働き方改革を背景に、会社と従業員との関係が、契約による一時的、臨時的な雇用に変わる方向であると見ており、調査対象国の中でも最も多い85%がそう考えていると回答しました(全世界の61%)。また、75%以上がロボットなどの自律的なテクノロジーが人に代わる未来を予測しております。
その一方で、人材採用・育成については、他のテーマの後回しにされ、日本人経営幹部の中で、この1年間で頻繁に議論をしたテーマの一つだと答えた人は、なんと2%という非常に低水準で留まりました。
また、最新テクノロジーの活用については、もっぱら従業員の効率性向上に関心が向けられており、自分たちの組織として「高い能力がある」とした回答者が78%にのぼりましたが、技術主導型の変化が「組織構造」と「従業員」に及ぼす影響について、計画し対処できると考えている経営幹部はわずか3%であり、テクノロジーで業務を効率化したいと思っているけれど、「労働力の変化」に注目した本質的な議論は、尽くされていないということが浮き彫りとなっております。
テクノロジーの進化は本来、労働の効率化につながり、その結果、生産性を大きく向上させることで、人々の生活を豊かにし、より良い未来を切り開くためにあるものであると信じております。
しかしながら、現在のように「経営者」「労働者」共にビジョンを描けていない状況では、双方共にミスリードが起こり、イギリスの産業革命時代に起こってしまった「機械の打ち壊し運動」(機械の浸透が仕事を奪うのではないかと恐れを抱いた労働者が機械などを破壊した)のような哀しい歴史を繰り返すことになるのではないかと大変危惧しております。
企業の経営者や管理職は、労働者を含めた一人ひとりのリーダーであるということを自覚することが必要です。
だからこそ、テクノロジーの進化よる「労働」の変化に対応した、企業と労働者のあり方を真剣に考える必要があります。現在のリベラルアーツを考えた時に、社会を生き抜くための基礎教養は大きく変化しています。
第4次産業革命時代に必要な人材を確保するには、問題設定、問題解決を図る能力や分析、情報科学、データエンジニアリングなどの基礎的なリテラシーを持つ人材育成を目指した職業訓練を行う必要があります。また、その時代に対応した「労働市場の開拓」と「適切な人材配置」などを「政府」や「経営サイド」が思考・提言し、「経営者」「株主」など、民間企業の上層部がこうした意識をしっかりと持てるような改革が求められております。
また、労働者サイドもテクノロジーの進化に歯止めをかけるような運動ではなく、どのようにして富の分配を行うのかという議論を経営サイドに投げかけるべきです。具体的には、効率化によって生まれた余剰時間を労働者に「給与」や「休暇」という形で配分して、労働者に還元するという本来あるべき姿を訴えることが重要です。わかりやすく言えば、今までと同じ給与で週休を3日、4日と増やしていくなど生産性の向上に対する恩恵をしっかり分配させるということです。
AIを進化させるにあたっての理念と原則
私は、AIを含めたテクノロジーの進化が人々の生活を豊かにすると信じています。
そうした中、AI技術を発展させるにあたっては、なぜ、何のために、どのようにAIを進化させるのか、基本的な価値観や倫理原則を定めて歩を進める必要があります。
一部の国や企業、組織だけが優れたAIにアクセスできる状態ではなく、あらゆる人たちが豊かになるための行動指針を定めることが重要です。
そうした中、世界的にも経済協力開発機構(OECD)や主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)などの国際会議の場で基本原則の議論がスタートしようとしています。
そうした中、Googleは、AIアプリケーションにおける7つの原則を掲げました。
- 社会的な利益をもたらす
- 不公平な偏見を生んだり、助長したりしない
- 安全を考慮して作成、テストされている
- 人々に対する責任を果たす
- プライバシーに関する設計原則を取り入れている
- 科学的卓越性に関する高い基準を支持する
- これらの原則に合致した使い方を想定して提供されている
その他にも、AIを兵器や「人々の負傷を引き起こしたり、直接助長したりする」技術に利用しない方針を示しております。
そして、日本政府においても、人間中心のAI社会原則として基本理念や原則が提言されました。
◆基本理念
(1)人間の尊厳が尊重される社会(Dignity)
(2)多様な背景を持つ人々が多様な幸せを追求できる社会(Diversity & Inclusion)
(3)持続性ある社会(Sustainability)
◆原則
1.人間中心の原則
AIの利用は、憲法及び国際的な規範の保障する基本的人権を侵すものであってはならない。
2.AI教育・リテラシーの原則
AIを前提とした社会において、我々は、人々の間に格差や分断が生じたり、弱者が生まれたりすることは望まない。教育・リテラシーを育む教育環境が全ての人に平等に提供されなければならない。
3.プライバシー確保の原則
パーソナルデータは、その重要性・要配慮性に応じて適切な保護がなされなければならない。
4.AIのセキュリティ確保の原則
AIを積極的に利用することで多くの社会システムが自動化され、安全性が向上する一方、セキュリティに対する新たなリスクも生じる。社会は、常にベネフィットとリスクのバランスに留意し、全体として社会の安全性及び持続可能性が向上するように務めなければならない。
5.公正競争確保の原則
特定の国、企業にAIに関する資源が集中することにより、その支配的な地位を利用した不当なデータの収集や主権の侵害、不公正な競争が行われる社会であってはならが行われる社会であってはならない。また、AIの利用によって、富や社会に対する影響力が一部のステークホルダーに不当過剰に偏る社会であってはならない。
6.公平性、説明責任及び透明性の原則
AIの利用によって、人々が、その人の持つ背景によって不当な差別を受けたり、人間の尊厳に照らして不当な扱いを受けたりすることがないように、公平性及び透明性のある意思決定とその結果に対する説明責任が適切に確保されると共に、技術に対する信頼性が担保される必要がある。
7.イノベーションの原則
Society5.0を実現し、AI の発展によって、人も併せて進化していくような継続的な イノベーションを目指すため、国境や産学官民、人種、性別、国籍、年齢、政治的 信念、宗教等の垣根を越えて、幅広い知識、視点、発想等に基づき、人材・研究 の両面から、徹底的な国際化・多様化と産学官民連携を推進するべきである。
また、EUでもGDPRという一般データ保護規制に関してルールを制定するなど、“データ”に関する取扱いを定めております。
特に私が注目したのは、GDPRの22条に定められたプロファイリングやスコアリングの結果のみで、個人の人生に重大な影響を与える決定を行ってはいけないという完全自動化決定の原則禁止です。
被評価者の側に、人間の関与を求める権利や判断に異議を唱える権利、どうしてその判断をされたのかという主要なロジックを開示しなければならないとされ、個人の主体性・主導性を強調し、透明性と公正性を担保しようとする意図が読み取れます。
ポスト・ディープラーニング時代を見据えた社会的創り
テクノロジーそのものに善悪はなく善いものにするのも悪いものにするのも私たち人間次第です。近い将来の話をすれば、自動運転の車が街を走り出します。そうなった時、運転者の車内での娯楽といえば音楽やラジオを聴くことであった現状が一変し、ドクターからの遠隔診療を受けたり、TV会議を行ったり、好きな映画を見るといった生活空間に変わります。
また、「ものづくりAI」が発展すれば、産業用ロボットが高性能かつ安価で手に入るようになり、仕事のやり方やサービスの提供のされ方が大きく変わります。
さらには、ロボットやAR、VRの発展に伴い、生活環境は一変します。
IoT、ロボット、ブロックチェーン、自動運転車、ドローン、AR、VR、3Dプリンターなど第四次産業革命を牽引する新たなテクノロジーの発展には、AIを欠かすことができません。
少子高齢化の中でも日本の社会システムを維持しながら持続可能な社会を目指すために、AIと協働して生産性の向上、仕事の効率化、自動化を行う仕組みを作り、より良い方向に時代の歩を進めていく方策が必要です。私も微力ですが、AIをはじめとした第四次産業革命の恩恵を生きとし生ける者が享受できるように今後も尽力して参ります。
- 著者プロフィール
- 中谷 一馬 なかたに かずま / Kazuma Nakatani [ホームページ]
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立憲民主党 衆議院議員 神奈川7区(横浜市港北区・都筑区の一部)
1983年8月30日生。貧しい母子家庭で育つ。厳しい経済環境で育ったことから、経済的な自立に焦り、中学卒業後、高校には進学せず、社会に出る。だがうまく行かず、同じような思いを持った仲間たちとグループを形成し、代表格となる。
しかし「何か違う」と思い直し、働きながら横浜平沼高校に復学。卒業後、呉竹鍼灸柔整専門学校を経て、慶應義塾大学、DHU大学院に進学。その傍ら、飲食店経営や東証一部に上場したIT企業の創業に役員として参画する中で、人の役に立つ人生を歩みたいと政界進出を決意。
元総理大臣の秘書を務めた後に、27歳で神奈川県議会における県政史上最年少議員として当選。県議会議員時代には、World Economic Forum(通称:ダボス会議)のGlobal Shapers2011に地方議員として史上初選出され、33歳以下の日本代表メンバーとして活動。また第7回マニフェスト大賞にて、その年に一番優れた政策を提言した議員に贈られる最優秀政策提言賞を受賞。
現在は、立憲民主党 青年局長(初代)、科学技術・イノベーション議員連盟 事務局長として多方面で活動中。
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