日本でインターネット投票は実現できるか―石田総務大臣への質疑を終えて (2018/12/6 衆議院議員 中谷一馬)
国会におけるインターネット投票の議論
平成31年度の概算要求において、在外選挙人の投票環境の向上のための調査・検証事業として3.2億円が必要経費として計上されました。これは在外選挙人が投票しやすい環境を整備するため、インターネット投票について調査・検証を実施するものです。
私としては、インターネット投票の実証実験を始めることは大賛成であり、歴史的な第一歩を踏み出すことを大変嬉しく思っております。事業実施まで議論を積み重ねられた関係者の皆様方には、心から敬意を表します。インターネット投票をより発展させることは、憲法15条に定められた参政権を保障し、憲法11条から始まる一連の基本的人権を確保することに繋がると考えます。
そうした中、2018年12月4日に行われた衆議院総務委員会において石田真敏総務大臣等と私、中谷一馬でインターネット投票に関する議論を交わしました。
要約を抜粋して、縷々記載していきたいと思いますので、日本国政府内で行われている最新の議論はどうなっているのか、興味のある方はご高覧いただけましたら幸いです。
なぜ在外選挙人からインターネット投票を始めることにしたのか
海外に住む日本人は約135万人で、そのうち有権者が約108万人います。その中で、実際に投票している人は、在外選挙人名簿に登録している約10万人のうち約2万人であり、2017年衆議院選挙の全体投票率が53.68%だった現状を鑑みれば、在外投票率の21.17%は大変低い水準でありますし、海外に住む日本人全体の投票率という観点で捉えれば、約2%程度しか投票をしておりません。
しかし2016年の統計によれば、約17万人が海外に転出しており、企業の海外進出に伴い、今後も海外転出者が増えることが見込まれ、そのニーズが高まることが予測されることから在外投票制度の利便性向上は必要不可欠です。
そうした中、現在在外投票で容認されている投票方法には、在外公館投票、郵便等投票、日本国内における投票があります。ただ残念ながらこの制度が使いにくいという意見が散見される状況です。
例えば、インターネットで「在外選挙」「在外投票」と検索をかけた時に、出てくる意見としては、
- 公館まで投票しに行きたいんだけど、往復で1万円かかる
- 旅行中に突然、衆議院が解散し、在外公館で投票しようと思ったら在外選挙人登録してないからダメだと断られた
- 在外選挙人登録に2カ月もかかるから、選挙に行きたいと思った時にはもう間に合わなかった
と言った趣旨の意見が寄せられており、その対策は急務であります。
そこでまず、この在外選挙人からインターネット投票を実証実験的に行うというのが今回の始まりです。
在外選挙インターネット投票システムの選挙人登録申請における問題
在外選挙人登録申請は、在外公館申請と出国時申請のいずれも在外公館あるいは最終住所地の市町村の選挙管理委員会に赴いて行わなければなりません。
しかしそれでは、せっかくインターネット投票を導入しても出国後に投票したいと思った時には、在外公館まで申請に行かなければならず、通常の在外投票と手間が変わらなくなってしまいますし、在外選挙人登録についても申請から2カ月程度の時間がかかる現状では、選挙の機運が高まってから投票しようと思った人は実質的には間に合いません。
そこで私から総務大臣に提案・要望したのは、在外選挙人登録の申請自体もインターネットで申請が行うことのできるシステムを想定すると同時に、申請から完了までの期間を短くしてほしいということです。
課題はあるかと思いますが、総務省発表の「未来をつかむTECH戦略」でも示されているように、実現したい未来の姿を設定し、そこから逆算して政策を立案するムーンショット型で改革を進めることが重要だと思いますので、隗より始めよで、国民にとって利便性の高くなる在外選挙人登録のインターネット申請と完了までの期間短縮については、実現させるべきだと思っています。
ブロックチェーン技術を活用したインターネット投票システム
日本でも茨城県つくば市において、ブロックチェーン技術のイーサリアムとマイナンバーカードを活用したインターネット投票システムが実装され、公募事業の投票が行われました。
私も我が党の同僚議員等とともに現地を視察し、五十嵐立青市長とシステムを構築したVOTE FORの市ノ澤充社長から直接お話をうかがい、ネット投票もその場で体験させていただきました。
システム自体は、大変素晴らしいものであり、歴史的な一歩を踏み出された関係者の皆様方のご尽力を高く評価いたしております。
その一方で、約23万7000人の人口を抱えるつくば市において、公募事業の投票とはいえ、投票総数が119票ということでありました。これはもちろん公募事業自体への興味関心や広報周知などさまざまな要素はあると想定されるものの、マイナンバーカードを利用するということのハードルが高かったことも指摘をされております。
今議論をさせていただいている在外選挙インターネット投票システムにおいてもつくば市の事業と同様に、本人確認についてマイナンバーカードの利用を前提にシステムが構築されております。
しかし残念ながら、マイナンバーカードの交付率は11月27日時点で12.2%という低い水準に留まっています。10人中9人近い方がカード自体を持っていないのが現状であり、普及に苦戦しています。
また、内閣府が行ったマイナンバー制度をめぐる世論調査の結果によれば、53%がマイナンバーカードの取得予定がないと答え、理由としては、必要性がないとの声が目立ったことから、今後の普及拡大についても順調に進んでいくのか大きな疑問を持っております。
マイナンバーカードだけに限らない本人確認方法の検討が必要
こうした状況を踏まえれば、マイナンバーカードだけの本人確認方法に限ったインターネット投票システムでは、利用する人が少ない割合となり、効果が限定的になると推察します。
私的には、せっかくインターネット投票を導入したのに、「誰も使わないからダメだ」という論調にならないか心配をしております。
民間では最新のスマートフォンなどを所持している者に関しては、指紋認証やFace IDとインターネットバンキングなどに利用されているワンタイムパスワードなどを掛け合わせた方法などが導入されています。また他国の事例を見れば、郵便により送付されるセキュリティコードの活用やマイナンバーカード以外のデジタル署名の活用など本人確認方法は多様化しております。
そうした観点で捉えれば、インターネット投票システムの本人認証もマイナンバーカードのみに限らず、例えば、「個人が所持するもの」と「個人が知りうる情報 または 持ちうる情報」の掛け合わせによる本人認証でもセキリュティレベルを高い水準に保つことが可能になると私は考えております。
政府にも、利便性とセキュリティを高いレベルで両立した認証方法を複合的に検討し、国民誰もがいつでもどこでも簡単に使いやすいと感じられるインターネット投票システムを構築していただきたいと思います。
投票を何度でもやり直す事ができるエストニア式投票制度の是非
また、自由意志に基づかない強制された投票に対する対応策として、エストニアでは何度でも投票をやり直すことができる制度とインターネット投票システムが採用されております。私は日本におけるシステムでもこの制度の活用が有用だと思っております。
例えば、現在の法律では、選挙中に立候補者が亡くなった時、既にその候補に投じられた票は無効票となり、再度入れ直すことはできませんが、この制度なら可能となります。また期日前投票を行った後に、熟考の上、やっぱり投票先を変えたいなと思った時に変えられることはより正確に民意を反映させることに繋がります。
しかしその一方で、このインターネット投票システムについての主要な議論を行っている「投票環境の向上方策等に関する研究会」に出席をした複数の委員からは、「ネット投票だけをやり直せるようにするのは、日本ではなじまない」といった否定的な見解が出されているという報道がございました。そこでどんな議論が行われているのだろうと報告書を確認いたしました。
そこに書いてあった、「第三者の介入や脅迫の懸念の対応策として再投票方式(例:エストニアで実施)が考えられる」という課題項目に対して、対応策の考え方という欄に記載をされていたのは、「第三者の介入や脅迫の懸念は現状の郵便等投票でも存在し、特段の対策は行われていないことを踏まえて、再投票方式は実施しない」というものでした。
私はこの文言を見た時に、少し目を疑いました。
要約すると、「郵便投票でも問題があるけれど、まぁそちらでも対策やってないからネット投票でもやらなくていいんじゃない」という趣旨の内容が書いてあるわけです。
強制された投票対策は、郵便等投票でも対策されてないから、インターネット投票でも対策しなくてよいというのは、どう考えても理由になっておりません。
郵便投票にも問題があるのであれば改善を検討すべきですし、インターネット投票に関しては、エストニア方式で問題の対策ができるわけですから、より良い改善をすることが普通の感性だと思います。
仮にやり直しができない制度にするのだとすれば、立会人なしでどのようにして、なりすまし投票や強制された投票を防ぐのか、その対案が必要になると思いますが、現時点で総務省から明快な答弁は返ってまいりません。
私は、現行法に問題があり、それをテクノロジーの力で解決できるのであれば、当然現行法を変え、より良い制度に改善すべきであると考えますので、引き続き政府に対する提言・要望を進めて行きたいと思います。
エビデンス(根拠・証拠)に基づいた政策決定が常に行われる意識改革が必要
そもそも投票の利便性を向上させることを目的に政策の制度設計をするのなら、本来であればエビデンスに基づいた政策決定が必要だと思います。しかしながら、今回の在外選挙における制度設計をするにあたっては、専門家とされる方からの意見を聞いたのみで、海外在留邦人に対する意見聴取を直接行っていないということを総務省の方から伺いました。
真に利便性と投票率の向上を目指すのであれば、実態を把握した上で、証拠となる根拠に基づいて何が問題で何を改善しなければならないのか、EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)の発想が必要です。机上の空論でこういう状況で多分こうだろうからこんな施策やりましょうというエビデンスに基づかない政策決定では、良い成果は出ないと思います。
そして残念ながら今は在外投票環境が良くなっていないからこそ、結果として投票率が低い水準なんだろうと認識しております。
私からは、改善案として現地現場の声を踏まえた、政策実施が必要だと思いますので、海外在留邦人の方々に、なぜ投票されていないのか、どうやったら選挙に行きたいと思うかという声を聞くアンケートなどを実施し、意見を集約した上で、EBPM的な発想をもとに制度の改善を行っていただくことを総務大臣には繰り返し要望いたしました。
インターネット投票の国内での活用を目指した検討が必要
研究会の報告書において、国内におけるインターネット投票については、技術的には在外選挙インターネット投票の延長線上にあるとされております。
2017年の通信利用動向調査によると、個人でインターネットを利用する機器はスマートフォンが59.7%となり、初めてパソコンの52.5%を上回りました。20代の90%、30代の89%、40代の83%、若年層の殆どはスマートフォンでインターネットに利用すると答えております。世帯の機器保有割合もスマートフォンは全体で75.1%と、初めてパソコンの72.5%、固定電話の70.6%を逆転しました。
このようにスマートフォンがネット社会の主役となっている中で、今回のインターネット投票システムもスマートフォンでの投票ができる仕様を想定して、構築していただかなければならないと考えておりますが、それを可とするか方針が出ておりませんので、こちらもあわせて要望していきたいと思います。
また、2018年3月15日の日本経済新聞に掲載された記事よれば、「エストニアではインターネット投票が3割になり、経費は4割に減った」とも言われており、短期的な導入コストはかかるものの中長期的に見れば、コスト削減に寄与するものであるという見解を持っております。
そうした中で、国内におけるインターネット投票を展開するとき、そのシステム構築や維持管理に要するコストは、どの程度になるか調査・積算すれば今後の議論がより具体的に深まると思います。
またインターネット投票に加え、タブレット端末を活用した電子投票の導入や開票作業の電子化など投開票業務を生産的かつ効率的に改革することもできると考えておりますので、次の時代の行政事業をトータルデザインし、理想形から逆算した提言を今後も続けてまいります。
- 著者プロフィール
- 中谷 一馬 なかたに かずま / Kazuma Nakatani [ホームページ]
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立憲民主党 衆議院議員 神奈川7区(横浜市港北区・都筑区の一部)
1983年8月30日生。貧しい母子家庭で育つ。厳しい経済環境で育ったことから、経済的な自立に焦り、中学卒業後、高校には進学せず、社会に出る。だがうまく行かず、同じような思いを持った仲間たちとグループを形成し、代表格となる。
しかし「何か違う」と思い直し、働きながら横浜平沼高校に復学。卒業後、呉竹鍼灸柔整専門学校を経て、慶應義塾大学、DHU大学院に進学。その傍ら、飲食店経営や東証一部に上場したIT企業の創業に役員として参画する中で、人の役に立つ人生を歩みたいと政界進出を決意。
元総理大臣の秘書を務めた後に、27歳で神奈川県議会における県政史上最年少議員として当選。県議会議員時代には、World Economic Forum(通称:ダボス会議)のGlobal Shapers2011に地方議員として史上初選出され、33歳以下の日本代表メンバーとして活動。また第7回マニフェスト大賞にて、その年に一番優れた政策を提言した議員に贈られる最優秀政策提言賞を受賞。
現在は、立憲民主党 青年局長(初代)、科学技術・イノベーション議員連盟 事務局長として多方面で活動中。
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