指定管理者制度は、住民自治に応えられているか―鷹羽登久子 大府市議 (2016/11/18 大府市議会議員 鷹羽登久子)
「ツタヤ図書館」で注目を浴びた指定管理者制度。行政の効率化とサービスの向上に資するものとして多くの自治体が採用していますが、必ずしも期待通りの成果をあげられるわけではありません。同制度の抱える課題について、鷹羽登久子 大府市議にご寄稿いただきました。
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指定管理者制度は、住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設である公の施設について、民間事業者等が有するノウハウを活用することにより、住民サービスの質の向上を図っていくことで、施設の設置の目的を効果的に達成するため、平成15年9月に設けられたものである。
(平成22年12月 総務省通知より)
制度ができた当初は、事業者をどう募りどのように選定するかのノウハウがなく、どうやら公募しないといけないようだ、と手探りだった自治体も多かったのではないだろうか。年数が経過し、大規模なPFI事業などでは、設計から事業者が関わり長期間にわたって指定管理していく施設も出てきた。そうした施設と、地域の施設や市民活動拠点など細やかな施設も同一の制度の下に行っている。それによって指定管理者制度におけるしくみとしての精度を上げる効果もあろうが、さらに運用の整理を面倒なものにしているようにも感じる。
本稿では、細やかな施設に主眼を置いて論考する。
住民自治の現場としての指定管理
それから13年が経過した。住民組織(地縁やNPO)が力をつけてきたところでは、住民自治の実現の現場として指定管理を担うケースが次第に増えてきた。
指定管理を導入する施設を「住民自治の現場としての施設」として見ると、施設は税金を投じて整備する根拠となるミッションを持っている。受託団体は自らが感じる地域課題に対応する場として応募する。双方のミッションが合致するwinwinの関係である(営利企業の場合は、企業のミッションおよび得意とする事業で社会的貢献を差引いて採算を見立て応募するのであろう)。
そこで2つの課題を提起したい。
ひとつは、施設のミッションと合致する住民を中心とした非営利団体が、利用者からの満足度も高く施設管理ができている場合、以降も公募をすべきなのか、という点。
そしてもうひとつは、非営利の団体が管理を受託している間、団体の連絡先として、団体の事務も並行して行うとして、その施設を使う場合の場所代を免除すべきかどうか、また、そもそも団体の事務をそこで行ってよいものか、という点である。
管理者の指定は公募であるべきか
1点目については、「指定管理者制度は行政負荷に対する合理化の手段」「競争原理を持ち込んでサービス向上」となると、そもそも公募すべきか任意指定すべきかという論点を持たず公募一択となるが、それは思考停止ではないだろうか。団体のミッションと施設のミッションが合致し、受益者からも十分な評価を得ているならば、在住市民によって公的サービスが補完されるわけで、本来の自治の姿のひとつとも言える。
競争原理が働かないと民間は堕落する(この考え方は民卑とも言えるので私は好まないが)というならば、あくまでも契約期間は設定し、年次および契約期間を通じた評価を以って、次回公募するか任意指定するか判断する、任意指定においても要求水準は示し団体からの提案書も提出を求めるなど、質を担保する基準を設けておけばよいのではないか。
あくまでも基準は、施設のミッション達成のためにどれだけできたか、住民サービスとして十分な管理運営ができたか、で考えればよい。任意指定を良からぬものと見る理由のひとつに、天下り団体にさしたる評価指標もなく漫然と管理者を任せるケースが散在することにも留意する必要がある。いずれにしても、管理者の指定は議決を伴うものであるから、議員の目がこれらの注意点に向けられ、健全にチェック機能が働くことが重要であることは言うまでもない。
受託業務を線引きする交通整理が必要
2点目について、指定管理業務以外の事務をその施設で行うことは、本来は「公の施設の目的外使用」と解され場所代を支払うべきものだ。住民団体の場合、団体の事務を行う拠点を持たないケースが多いため、受託した施設を連絡場所としてしまうことは珍しくない。一方、営利企業や広域で活動する団体が受託した場合、当然に団体の拠点は別にある。
同じ自治体から同じ制度のもとに指定管理業務を受託しながら、行政が場所代を求める必要がない受託者と、場所代を求める必要がある受託者の二通りになることとなる。それならば、団体の事務をその施設で行わなければよいと考えるか、団体の公益性を評価し目的外使用料の免除の規定に当てはめるか、やはり場所代を請求するかのいずれかになろう。この点は、指定管理というより、その自治体が行政財産目的外使用料をどのように線引きしているか、という視点を中心に置きつつ、交通整理が必要とされるところではないかと思う。
また、施設のミッションと団体のミッションが同一、あるいはそれに近い場合は、そのミッションに合致した専門性を高めることも、充実した管理運営や施設を活用した事業に質的に反映されることから、どこまでが施設管理のための業務で、どこからが団体の仕事かの線引きがわかりにくくなる。こうしたことは、受託する団体の側にも、受託業務がどこまでかとシビアに理解する力が求められる。
公共サービスの担い手は行政だけではない
さらに、現代の多様化した市民ニーズに対して、すでに指定管理者制度というものの変容が求められているのではないか、との見方もある。ライフスタイルが多様化し、課題解決に向けた対応は、高い専門性を持つ市民団体の力を借りながらでないと、行政だけでは追いつかなくなってきている。
また例えば、地域拠点となるコミュニティセンターは、地域住民が運営するのが本来で、行政はハードの整備だけ行い運営は口出ししなくていい、といった議論もある。不可欠な公共サービスを提供するのが、行政だけではなくなってきているのである。となると、公共サービスを提供するために集めている税金を、担い手の間で分配するという新たな行政の役割が出てくることとなる。その自治体にどのような公の施設があり、住民自治の現場として使い倒してくれそうな団体がどのように存在し、いかに制度を運用していくか、自治体それぞれに状況は異なる。
一方で、いずれにしても、指定管理の導入や管理者の指定には議会の議決が必要であることは共通している。行政に設置者としての責任が問われるように、議会も議決する責任を負っている。民でできることは民で、と行政負荷を軽くすることだけに目を向けることなく、住民の力で住民の福祉を向上させていくための現場たり得るか、そのための交通整理ができているか。議員の目も鍛えていかねばなるまい。
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著者プロフィール
鷹羽 登久子(たかば とくこ)
2007年より大府市議会議員(愛知県)。
政治と無縁の家庭に育ち、政治家秘書経験なし、政治塾経験なし、民間経理部勤務から現職。
いずれの政党とも距離を置く無所属。
ホームページ/facebook/twitter
鷹羽 登久子氏プロフィールページ
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