【早大マニフェスト研究所連載/マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ】
第45回 高校生と協働で公共施設の問題を考える~御前崎市の「マンガ版公共施設等総合管理計画」 (2016/4/14 早大マニフェスト研究所)
早稲田大学マニフェスト研究所によるコラム「マニフェストで実現する『地方政府』のカタチ」の第45回です。地方行政、地方自治のあり方を“マニフェスト”という切り口で見ていきます。今回は、「高校生と協働で公共施設の問題を考える~静岡県御前崎市×県立池新田高校の『マンガ版公共施設等総合管理計画』」をお届けします。
公共施設マネジメントは自治体喫緊の課題の1つ
本コラムの第42回「公共施設のあり方を市民との対話で考える」でも取り上げましたが、地方自治体にとって、公共施設マネジメントが喫緊の課題の1つになっています。高度経済成長期に建設された公共施設がこれから大量に更新時期を迎える一方で、財政は厳しい状況にあります。人口減少や少子高齢化など、今後の公共施設の利用需要が大きく変化する可能性もあります。
また、市町村合併後の地域での施設全体の最適化を図る必要もあります。総務省も2014年に「公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進について」の通知を出し、「公共施設等総合管理計画」の策定に取り組むことを求めています。
今回は、こうした公共施設マネジメントに関して、静岡県御前崎市で実践された「マンガ版公共施設等総合管理計画」の取り組みを事例に考えていきたいと思います。
御前崎市における公共施設マネジメント
中部電力浜岡原子力発電所がある御前崎市は、これまで電源立地地域対策交付金などを活用して、他自治体と比べて多くの公共施設を建設してきました。その結果、静岡県内で3番目に公共施設が多く、1人当たりの公共施設延べ床面積は、県平均の3.37平方メートル/人に比べ、5.39平方メートル/人と圧倒的に広くなっています。
しかしながら浜岡原子力発電所は現在運転停止中であり、今後の財政状況の変化や人口減少を考えて公共施設マネジメントに取り組まなければならないということで、御前崎市では2014年度から取り組みをスタートさせています。
まず2回の職員研修を行い、9月に「公共施設白書」を作成しました。白書は広報誌やHPへ掲載し、概要版を全戸配布しました。その後、10月には市民向けの講演会を開催し、2015年の2月には3回目の職員研修会、庁内プロジェクト委員が中心になり、4月には「公共施設等総合管理計画(方針編)」を策定しました。
公共施設マネジメントを担当する御前崎市役所財政課行政改革係の増田真理子さんは、2014年度早稲田大学マニフェスト研究所人材マネジメント部会に参加していました。公共施設は事業が「市役所のもの」ではなく「市民のもの」であるにもかかわらず、白書を「作っただけ」「配っただけ」のものになっていないか、担当者として強い問題意識を感じていました。公共施設の問題に関心を持つ市民を増やしたい、計画に納得して共感し行動してくれる市民を増やしたい、特に、将来公共施設を利用していく若い人に当事者意識を持ってもらいたいと思っていました。若者から、親しみやすさ、共感を得るには「マンガ」ではないかと考え、市内唯一の高校である静岡県立池新田高校の美術部の協力を得ながら、2015年7月から「マンガ版公共施設等総合管理計画」の作成を開始しました。
マンガ版公共施設等総合管理計画の作成
キックオフとして、マンガのストーリーをイメージしてもらうため、美術部の部員20人と市職員で「高校生が考えた公共施設を取り巻く課題やありたい姿」をテーマにワークショップを実施しました。職員からの御前崎市の公共施設の現状と課題の説明の後、「知っている公共施設は?」「公共施設の良いところは?」「公共施設もっとこうなったら良いことは?」という3つの問いで対話が行われました。高校生からは、「建物ではなくて、場があればいい」などといった意見も出て、職員もハッと気づかされました。
ワークショップでイメージを膨らませ、8カ月掛かって2016年2月、A4版22ページのマンガ「未来につなぐ公共施設」は完成しました。1年生が表紙を担当し、2、3年生がマンガを制作しました。高校生が考えたマンガのストーリーは、未来の御前崎市から来た男性が公共施設の問題を解説、当初は関心が無かった女子高生たちもその問題に気付き、御前崎市の公共施設を残すために立ち上がるといったものです(御前崎市公共施設マンガ版パンフレットHP)。マンガの活用として、3月に市内に全戸配布されたほか、市内の中学3年、高校3年の授業で活用、2016年度からは市の職員が市内の中学、高校で授業をする予定にもなっています。
地域の課題を高校生と大人が学び合う効果
今回の御前崎市の実践は、市民とのコミュニケーションのあり方とともに、高校生の主権者教育としても特筆すべき取り組みだと思います。
「公共施設等総合管理計画」を市民に分かりやすく説明するためにマンガ化する取り組みは、御前崎市以外でも実績があるかと思います。しかし、地元高校生との協働によってマンガにした取り組みは、御前崎市が全国初です。制作に参加した高校生は、「御前崎市の公共施設について皆で話し合い、深く考えるきっかけになった」「今まで以上に御前崎市に愛着を持つようになった」「市役所の職員と一緒に仕事が出来て、将来の自分の仕事についても考えることができた」などの感想を話しています。今後も継続して地域の課題を学び合う第一歩になっています。
御前崎市役所の増田さんは取り組みを振り返って次のように話しています。「今回の取り組みは、多様なステークフォルダを巻き込むことで実現できたと思います。特に、部や課を横断し取り組む際に、対話により「現状・課題・ありたい姿」を共有することで、スムーズに進めることができました。また、対話を深めることで自分一人で考え得なかったものに進化していったと実感しています。自分が何のために仕事しているのか考え、問題意識を感じたら、まず実践してみることが大事だと改めて感じました。自分にとっても大きな自信になりました」。
今取り組んでいる自分の仕事の、本来の目的は何なのか、「価値前提」で考える自治体職員の一歩踏み出す勇気を持った実践が、地域を少しずつ変化させていくと思います。
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青森中央学院大学 経営法学部 准教授
早稲田大学マニフェスト研究所 招聘研究員
佐藤 淳
1968年青森県十和田市生まれ。早稲田大学商学部卒業。三井住友銀行での12年間の銀行員生活後、早稲田大学大学院公共経営研究科修了。現在、青森中央学院大学 経営法学部 准教授(政治学・行政学・社会福祉論)。早稲田大学マニフェスト研究所招聘研究員として、マニフェスト型の選挙、政治、行政経営の定着のため活動中。
- ■早大マニフェスト研究所とは
- 早稲田大学マニフェスト研究所(略称:マニ研、まにけん)。早稲田大学のプロジェクト研究機関として、2004年4月1日に設立。北川正恭(元三重県知事)が顧問を務める。ローカル・マニフェストによって地域から新しい民主主義を創造することを目的とし、マニフェスト、議会改革、選挙事務改革、自治体人材マネジメントなどの調査・研究を行っている。
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