国会議員の秘書は閉会中何をしているのか (2015/11/10 フリーライター 上村吉弘)
「国会議員は閉会中何をしているのか」で、議員の動向を紹介しました。では、秘書は閉会中何をしているのでしょうか。
議員会館は館内外とも静かに
議員会館の各事務室は会期中と変わらず、各事務室には秘書が待機しています。表面上は何も変わりません。
ただ、会期中の議員会館は、本館(国会議事堂)や別館、分館を往来する議員や職員も多く、受付のある1階と地下連絡通路のある地下1階は、ざわついた雰囲気ですが、閉会中は人の行き来が少なくなり、休日の学校に近い状態になります。
議員会館の内側だけでなく、外側も閉会中は比較的静かです。会期中はデモで賑やかですが、議員不在の中で叫んでもあまり意味がないということでデモや街宣車はあまり見かけなくなります。
不在の事務室も増える
会期中も閉会中も、会館の事務室はドアを常時開放している部屋が半分程度あります。閉会中になると、ドアが閉められている部屋の中には不在の部屋も散見されます。「当分の間、不在となりますので、郵便物はポストにお願いします」といった貼り紙が郵便受けの上などに掲示され、段ボールに数日分の新聞が溜まっている部屋をよく見かけるようになります。
議員と共に秘書も地元回りをしたり、政治資金パーティー開催の案内に回ったりと、議員事務所によって活動内容はまちまちです。しばらくイベントがないタイミングを図って会館事務室を数日間閉じて、スタッフ全員で休暇を取るところもあります。
補正予算や来年度の予算編成が本格化する年末年始に向けて、様々な業界のロビー活動も盛んになるので、議員会館をあまり長期間空けておくわけにもいきません。議員が不在の場合は秘書が地方から来た業界団体を迎え入れて要望書を預かり、陳情を聴き、時には署名請願の紹介議員になります。
秘書の役割は千差万別
閉会中の議員会館での仕事は会期中と同様、議員のスケジュール管理や来客対応、電話・郵便物の確認が基本ノルマですが、秘書の役割は各議員の差配によるので、一律なものはありません。本来は政策立案のために設けられた政策担当秘書の中には、会期中から選挙対策業務や会計業務にばかり追われている人もいます。
議員会館に公設秘書3人だけでなく私設秘書も数人付けて政策担当から運転手役、はたまた渉外担当、身の回りの世話役……などと、それぞれに専門職を割り振る議員もいれば、1人しか置かず雑務全般を任せる議員もいます。
残りの公設・私設秘書はパーティーや国政報告会の参加を募る「営業回り」に行ったり、地元でポスター・立て看板を設置してくれる協力者・支持者を求めて外回りに奔走したりします。彼らの活動は議員の政治活動をアピールする役割も果たしています。
協力しながら諜報活動?
都内で開催する政治資金パーティーやセミナーは、当日の会場準備や受付で人手が足りないこともあるので、日頃から付き合いのある他の事務所の秘書や政党職員に応援を求めます。ギブアンドテイクの世界なので、要請を受けた事務室は特に予定がなければ、手が空いている秘書全員を投入し応援します。
パーティーの規模は「力のバロメーター」でもあるので、応援に来た秘書や政党職員は人数や参加者の内訳、挨拶内容、雰囲気などをチェックし、後で議員や上司に報告する偵察部隊の役割も果たしています。
党や会派の要請を受け、または付き合いのある国会・地方の議員が選挙戦に入ると、議員は秘書を応援に派遣します。時には遠方に1カ月以上派遣される秘書もいます。めでたく当選したあかつきには、双方とも口には出しませんが、大きな貸しが議員間で生じます。ギブアンドテイク、貸し借りの世界なのです。政略的に貸し借りをうまく使い分けて有力な議員との関係性を築くことが、議員の発言力を高めることにつながります。
地元は逆に忙しくなる?
議員会館とは対照的に、地元の事務所は会期中よりも閉会中の方が忙しくなることがあります。会期中、国会議員は一般に「金帰火来」と呼ばれる行動パターンを取ります。金曜の夜に選挙区に帰り、週末に地元で政治活動をして火曜に東京に戻ることで、地元秘書は平日よりも週末が忙しくなります。
同じように、会期中よりも閉会中の方が議員は地元に長居できるので、地元事務所の「繁忙期」となります。議員が腰を据えて地元回りができる貴重なタイミングでもあり、前もって後援会有力者の日程を調整して国政報告会やミニ集会、パーティーを企画し準備に追われます。
国政報告会などの案内ハガキやチラシ、国政報告レポートを折ったり封入したりする作業も必要です。後援会の規模にもよりますが、有力な議員事務所だと支持者や学生を何人もボランティアやインターンで招き、人海戦術を駆使して単純作業を回します。議員事務所によっては、議員会館を閉じている間、議員と共に東京のスタッフも地元入りして、後援会活動や挨拶まわりに精を出します。
- <著者>
上村 吉弘(うえむら よしひろ) フリーライター
1972年生まれ。読売新聞記者、国会議員公設秘書の経験を活かし、永田町の実態を伝えるとともに、政治への関心を高める活動を行っている。
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